害虫駆除
僕は、家蜘蛛。本名:アダンソン・ハエトリって言うんだ。
アダンって呼んでね。
僕は、体長5mm~10mm。人間からは”また居る小さい蜘蛛”って呼ばれてる。
体毛は黒色で白の帯状の模様が入ってるんだ。人間には模様が小さすぎて見えにくいけど、メスにはモテモテだよ。
僕は群れないし、巣も張らない。蜘蛛だけど一匹オオカミさ。
毒は出せないけど、狩が上手で、ぴょんぴょん跳ね回りながら、獲物を確保する。
いつもは、ダニや蚊などの不快害虫を捕食する益虫だよ。
みんなが寝静まった深夜。
「ガタガタガタ」「おい、開けろ!開けろ!」「ガタガタガタ」「ガン!ガン!」
僕と一緒に住んでいる、老夫婦2人暮らしの一軒家に、長男が帰って来たみたい。
おばあさんは起き上がり、足早に玄関に向かって行った。
「ガラガラガラ」おばあさんは急いで鍵を回し、玄関の引き戸を開ける。
「博隆、こんな夜遅くに大声出さないで、近所め「うすせーんだよ、ババー。さっさと退け」
長男の博隆は、おばあさんを押しのけズカズカと家に上がり込んできた。
「はあ・・・・」おばあさんは、大きいため息をひとつ。
「おい、俺が帰って来たんだ、飯は!酒は!」
長男の博隆は我が物顔で、畳の部屋に寝転んだ。
「酒臭い、博隆。また飲んで来たんでしょ。もう酒はやめてちょうだい」
「うるさいなー。いつもいつも説教たれんじゃねー。俺が酒と言ったら酒出せ、飯と言っら飯だ!」
もう、大声で叫ぶな、うるさいなー。うるさいせいで、僕の獲物が逃げて行くじゃないか。業務妨害だ。
僕の名前にあるように、僕の職業は”ハエトリ”壁や天井で休んでいる蚊やハエを後ろから、スナイパーのように飛び掛かり仕留めてるよ。
おばあさんは、夜中に酒と、料理を提供していた。
おじいさんが起きて来て
「博隆、また飲んでるのか。お前、家はどうした。琴美さんは、エマちゃんは」
「あ~知らねーよ。あんな女と子供。グダグダうるせーから教育してやった」
「何したんだお前!、お母さんちょっと博隆の家に行ってくる」
おじいさんは大慌てて、寝間着の上から一枚はおり、車の鍵を掴んで出て行った。
「・・・・。」おばあさんは携帯電話を取り出しどこかに電話をかけている。
「グガ、グガ、グガ・・・・
酒を飲み、泥酔した長男が、いびきをかきながら畳の居間で寝ている。
「母さん。兄さん酷いな」
隣町に住んでいる次男が、おばあさんに呼ばれて来たみたい。
「そうなのよ、酒飲んで暴言吐いて、暴れて。お父さんの話では、家はひどい惨状みたい。幸い嫁の琴美さんと、エマちゃんは無事よ。今お父さんが、2人を近くのホテルに案内してるわ」
おばあさんと次男は、長男の寝顔を見ながら、渋い顔をしている。
こんな事は、日常茶飯事。
警察にも連絡しているが、まだ琴美さんとエマちゃんに暴力を振るわれてないし、警察の前では反省するので、改善の余地ありで逮捕にいたってないみたい。でも、暴力を振るわれるのも時間の問題のような気がするよ。
「アダン、また来たの長男。いい加減にしてほしいわね、今日の収穫0よ」
僕の彼女ジャンピが、僕に話しかけてきた。
ジャンピは、くすんだ茶色い体毛、細くてかわいい8本の腕をもつメスの蜘蛛だよ。僕たちはこの家で知り合って、意気投合したんだ。付き合いも長くて、最近は子供が欲しいねって話してる。ラブラブだよ。
昼になり、長男がのろのろ起き出した。
「ああああ~頭痛い。漏れる漏れる便所、便所」
長男は、便所で立ション。
「何だ、これ」長男の目の前には、小さい虫。
「バン!」長男の手が壁につきたてられた。
「汚たねーなー」長男の手と壁には黒いシミ。
長男は、手に着いた汚れをズボンで拭いて、便所を出た。
「・・・・。(怒)」
その光景を便所の天井から見ていた僕。
長男はこの1か月、老夫婦の家に住み着いている。
このままでは、すまさない。
長男から、獲物を横取りされたことは数しれず。
しかも、窓や、扉をしっかり閉めないから、敵対勢力のゴキブリが複数この家に入り込んできた。
僕たち蜘蛛の死活問題だ。
「ジャンピ、お腹大丈夫?。長男のせいで今日も獲物獲得できなかったんだ。ごめん」
「大丈夫。自分で1匹捕まえたわ。アダンこそ大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ。君が食べないとね。お腹の子どもに栄養を与えないとね。ジャンピ、僕に考えがあるんだ、安心して、害虫駆除は僕達の十八番さ」
ある夜。
寝ている長男の腕に、一匹の小さい蜘蛛が飛び乗った。
それを合図に、次から次に、小さき蜘蛛が長男の皮膚に飛び乗る。
「むにゃ、むにゃ」
長男は、腕にゾワゾワする不快感を覚え、半覚醒状態で腕を払った。
腕を払うと、腕の不快感は消えるが、少しするとまた不快感が襲う。
皮膚を虫が這っているような感覚。複数の虫が腕から、肩、胸へ。
うつらうつらしている頭のまま、腕を払い、胸を掻きむしる。
眠りに落ちかけると、また、皮膚に虫が這っている感覚が襲う。
長男はたまらず、起き上がり部屋の電気をつけた。
ビール缶やペットボトルが散乱し、食べ残しや、カップラーメンが置きっぱなしの部屋の中、目をこらして虫を探す長男。
「ガサガサ」
目の端に、黒光りしているゴキブリが見えた。
長男は、近くにあった雑誌を丸め、ゴキブリを追いかける。ゴキブリは素早くタンスの後ろに隠れた。
「くそ、くそ、くそ」
長男は地団駄を踏み、おばあさんを呼びつけた。
夜中におばあさんは、長男が占領している居間の掃除をさせられた。
次の夜
長男が寝ていると、また、複数の虫が全身の皮膚を這っている感覚に陥る。
複数の小さな虫が、足先から足背へ這い上がり、長男は足を擦り合わせるが、虫が這う感覚が下腿から大腿へ、大腿から股間へ、たまらず長男は飛び起き、体を見渡すが虫はいない。
「クソ、クソ、クソ、俺は風呂に入る」
長男はイライラしながら、また夜中におばあさんを呼びつけ、部屋を掃除させた。
その日は別の部屋で寝ようとした長男。だが、また全身の皮膚を虫が這う感覚に襲われ、眠ることができない。
また次の夜
2日眠れていない長男は、イライラしており、大量の酒を飲酒。
「クソ!ここで、俺が寝る。お前たちは、あっちで寝ろ」
両親を、両親が寝室として使用している部屋から追い出し、長男が占領した。
僕はその様子を、天井の上から眺めている。
長男は、両親が寝ている部屋では、虫が出ないと考えたみたいだな。
「そんなわけないのに、長男がいるところに俺たち(蜘蛛)は現れるよ」
長男の寝れない日々は続き、始めはイライラ八つ当たりしていた長男は、しだいに元気がなくなり、目の下には大きな隈、うつろな瞳、みるみるやせ細り、ふらつく足取りで夜の道を徘徊し、警察に保護されたみたい。
保護された長男は、留置所で眠ろうとすると、体中に虫が這いまわる感覚がよみがえり、精神疾患、アルコール依存症と診断され、精神病院に入院した。おばあさん、おじいさんはホッとしていたよ。
長男は、体を這いまわる虫の感覚に悩まされ続け、なかなか退院できないみたい。退院してもこの家には足を踏み入れることはできないだろうね。
これにて、害虫駆除終了。
この話はフィクションです。
蜘蛛は『家の守り神』や『仏様のお使い』と呼ばれています。幸運をもたらす生き物です。
夜蜘蛛は不運の前兆、朝蜘蛛は吉兆の前触れ。言い伝えはさまざまです。




