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寓話 人生の教訓を描いた短い物語  作者: トワイライト


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第3回(#11~#15)

#11 音のない町


ある町では、ある日を境に音が消えた。


風の音も。


足音も。


声も。


すべてが聞こえなくなった。


しかし人々は普通に生活を続けた。


会話は成立しているように見えた。


笑いも、怒りも、涙もあった。


ただ音だけがなかった。


最初は不便だった。


だが次第に慣れていった。


音がないことが「普通」になった。


ある青年だけが違和感を覚えていた。


自分の声が本当に出ているのか分からない。


他人が本当に話しているのかも分からない。


ある日、青年は試した。


思い切り叫んでみた。


しかし誰も反応しない。


次に誰かの肩を叩いた。


それでも相手は普通に会話を続けている。


まるで何も起きていないかのように。


青年は気づいた。


自分だけが「音がない」と感じているのではないか。


ある夜、青年は夢を見た。


そこではすべての音が戻っていた。


人々は本当に話し、笑い、泣いていた。


目覚めたとき、世界はまた無音だった。


そのとき青年は理解した。


音が消えたのではない。


音が必要ない世界に、自分だけが残されているのだと。


---


解釈


人は自分の認識を基準に世界を理解します。


しかしその認識が変化してしまうと、同じ世界でも全く違うものとして見えてしまうことがあります。


この話は、現実の共有と個人の知覚のズレを描いた寓話です。


■■■■■■■■■■■■■■■■


#12 反射しない鏡


ある町の古い屋敷には、不思議な鏡があった。


その鏡は、どんな人が映っても「少しだけ遅れて」反射すると言われていた。


人々は面白がって見に来た。


手を振ると、鏡の中の自分は一瞬遅れて同じ動きをする。


しかしある日、その鏡に異変が起きた。


一人の男が鏡の前に立ったとき、


鏡の中の男はまったく動かなかった。


男が手を上げても、鏡の中の男は立ったまま。


微動だにしない。


周りの人は言った。


「壊れたんじゃないか?」


男は納得できなかった。


次の日も鏡を見に行った。


やはり映らない。


しかし鏡には確かに「自分」が見えている気がする。


ただ、何もしてこない。


ある夜、男は一人で屋敷に忍び込んだ。


鏡の前に立つ。


すると鏡の中の男が初めて口を開いた。


「やっと気づいたか」


男は固まった。


「お前は誰だ」


鏡の中の男は答えた。


「お前が見ている方が、偽物だ」


男は笑った。


「鏡の中が本物だとでも?」


鏡の中の男は静かに言った。


「どちらが本物かは問題じゃない」


「お前はずっと、こちら側に話しかけていた」


男は気づいた。


これまで「自分」だと思っていた存在は、


ずっと鏡の向こうに話しかける側だったのかもしれない。


そして今、自分がどちら側にいるのか分からなくなった。


---


解釈


人は「自分が現実側にいる」と当然のように思っています。


しかしその前提自体が逆転している可能性は否定できません。


この話は、主体と客体、現実と反射の境界が曖昧になることを通して、自己認識の不確かさを描いています。


■■■■■■■■■■■■■■■■


#13 もう一人の読者


ある作家がいた。


彼は毎日、短い物語を書いていた。


売れるわけでもない。


賞を取るわけでもない。


それでも書き続けた。


ある日、投稿サイトの閲覧数に違和感を覚えた。


どの作品も必ず「2」なのだ。


人気作も。


不人気作も。


必ず2。


作家は考えた。


一人は自分だ。


ではもう一人は誰なのか。


コメントはない。


感想もない。


足跡も残らない。


ただ閲覧数だけが2になる。


気味が悪くなった作家は、わざと意味不明な文章を投稿した。


翌日も閲覧数は2だった。


次は白紙を投稿した。


やはり2だった。


そしてある夜、彼は一文だけ投稿した。


「あなたは誰ですか?」


翌朝。


初めてコメントが届いていた。


そこにはこう書かれていた。


「私もそれを聞こうと思っていました」


作家は凍りついた。


急いで相手のプロフィールを開く。


作品一覧が表示された。


そこに並んでいたのは、


自分が今まで書いたすべての作品だった。


一字一句違わず。


投稿日だけが少し違う。


そして最新作。


「あなたは誰ですか?」


その作品には閲覧数が2と表示されていた。


---


解釈


人は他人との違いによって自分を認識しています。


しかし完全に同じ存在が現れたとき、


「相手は誰か」より先に、


「自分は誰か」という問題に直面します。


この話は、自己認識とは何かを問いかける寓話です。


■■■■■■■■■■■■■■■■


#14 地図を描く男


ある男は、世界一正確な地図を作ろうとしていた。


山の高さ。


川の流れ。


建物の位置。


一本の木まで記録した。


男は人生のすべてを地図作りに費やした。


やがて地図は巨大になった。


町全体を覆うほどだった。


人々は感心した。


「なんて正確なんだ」


「まるで本物の世界みたいだ」


男は満足しなかった。


もっと正確にしなければならない。


そう考えた。


地図はさらに大きくなった。


村と同じ大きさになった。


次は町と同じ大きさになった。


ついには国と同じ大きさになった。


誰も使わなくなった。


大きすぎたからだ。


男は怒った。


「これほど完璧なのに、なぜ誰も見ないんだ」


すると旅人が言った。


「それは地図だからです」


男は首をかしげた。


旅人は続けた。


「地図は世界より小さいから意味がある」


「世界と同じ大きさなら、世界そのものです」


男は言葉を失った。


長い沈黙の後、彼は完成した地図の上を歩いた。


そこには山も描かれていた。


川も描かれていた。


町も描かれていた。


だが歩きながら、男は気づいた。


自分はずっと地図を作っていたのに、


一度も旅をしていなかったことに。


---


解釈


人は物事を理解しようとして、説明や分析を重ねます。


しかし理解しようとするあまり、実際に体験することを忘れてしまうことがあります。


知識は世界を表す地図ですが、地図そのものは世界ではありません。


人生を理解することと、生きることは別なのかもしれません。


■■■■■■■■■■■■■■■■


#15 完成しない塔


ある町に、高い塔を建てる男がいた。


男は言った。


「世界で最も高い塔を作る」


人々は感心した。


男は毎日、石を積み上げた。


一年後。


塔は町で一番高くなった。


人々は称賛した。


だが男は首を振った。


「まだだ」


五年後。


塔は国で一番高くなった。


それでも男は満足しなかった。


「まだ足りない」


十年後。


男は老人になっていた。


塔は雲に届くほど高くなっていた。


観光客も訪れるようになった。


しかし男は相変わらず石を積み続けた。


ある日、一人の子どもが尋ねた。


「塔の上には何があるの?」


男は答えた。


「分からない」


「じゃあ、どうして登らないの?」


男は笑った。


「まだ完成していないからだ」


子どもは不思議そうな顔をした。


「でも完成したら、おじいさんは登れるの?」


男は黙った。


その夜、男は初めて塔を見上げた。


塔は空の彼方まで続いている。


だが自分の人生は終わりに近づいていた。


男は気づいた。


自分は塔の頂上を目指していたのではない。


完成していないことを理由に、


登ることを先延ばしにしていただけだった。


翌朝。


男は初めて塔に登った。


頂上には何もなかった。


だが男は笑った。


そこから見えた景色は、


塔を作り続けていた間には一度も見たことがなかったからだ。


---


解釈


人は「準備ができたら」「もっと良くなったら」と考えます。


しかし完璧な準備や完成の瞬間は、意外と訪れません。


人生で大切なことは、完成を待つことではなく、


不完全なまま始めることなのかもしれません。

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