第52話 いない場所での判断
その日は、朝から風向きが違っていた。
森から吹き下ろす冷たい風が、街の外縁をなぞる。
俺は、第二区画の確認に出ていた。
参事は第三区画にいる。
斥候が駆け込んだのは、昼前だった。
「南東から、流れが変わりました!」
魔物の一部が、森を離れ、丘の裏へ回り込んでいる。
第三区画へ近い。
だが、俺はそこにいない。
参事のもとへ、現場責任者が報告する。
「数は多くないが、進路が読めない」
「避難は?」
「まだ間に合う」
一瞬の沈黙。
前回の遅れが、脳裏をよぎる。
参事は、地図を睨む。
「丘側の退路は細い」
「はい」
「なら、逆に広場へ集める」
現場責任者が目を見開く。
「広場は開けすぎています」
「だからこそ」
狭い退路で混乱するより、
開けた場所で流す。
即断だった。
「第三区画、中央広場へ集結」
「第二区画と連携し、横へ抜けさせる」
号令が飛ぶ。
住民が動く。
騎士団が動線を作る。
魔物が現れる頃には、
広場はすでに半分空いている。
数体が接触する。
だが、包囲は起きない。
広場を横切り、
空いた第一区画へ流れていく。
夕刻。
被害報告。
「負傷者数名」
「死者なし」
俺が戻ったとき、
広場にはまだ土煙が残っていた。
参事がこちらを見る。
「判断しました」
「聞きました」
「正しかったでしょうか」
少しだけ間を置く。
「良い判断でした」
それだけだ。
俺は、その場にいなかった。
指示もしていない。
だが、街は動いた。
修正した。
早めた。
迷いを減らした。
参事が、静かに言う。
「あなたがいなくても、間に合いました」
「はい」
それが、この章で一番重い言葉だった。
森のざわめきは、まだ続く。
だが、
**判断は、分散し始めている。**
それが何よりの変化だった。
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