第51話 遅れた区画
問題は、小さな迷いから始まった。
第三区画――住宅が密集する一角。
魔物の流れは主に第一区画へ向かっていた。
だが、一部が街の外縁を迂回し始めていた。
「まだ距離はある」
現場責任者はそう判断した。
避難の号令は、出なかった。
結果として――遅れた。
夕刻。
外縁の柵が破られる。
規模は大きくない。
だが、住民の移動が始まる前だった。
混乱は一瞬で広がる。
「逃げろ!」
叫び声。
狭い路地。
転倒。
騎士団が到着した頃には、
魔物はすでに数体を残して去っていた。
被害は、数名。
致命傷ではない者もいた。
だが、助からなかった者もいる。
夜。
報告を受けた会議室は、静まり返っていた。
「……私の判断です」
現場責任者が、頭を下げる。
「避難を急ぐべきでした」
誰も責めない。
参事が、ゆっくりと口を開く。
「これは」
一拍置く。
「私たちの判断です」
視線が、俺に向く。
弁明を求めているわけではない。
ただ、確認だ。
「……言うことは、ありません」
それだけだった。
遅れたのは事実。
読めたかどうかは、別問題だ。
予測はできた。
だが、確定ではなかった。
完全な回避は、できなかった。
「あなたなら」
騎士団長が低く言う。
「動かせたのではないか」
静かな問い。
「分かりません」
即答。
「動かしたかもしれない」
「動かさなかったかもしれない」
責任を引き受けない。
それは冷酷ではない。
この街が、自分で判断している証だからだ。
参事が、目を閉じる。
「……次は、どうしますか」
「同じです」
「同じ?」
「判断を早める材料を増やすだけです」
死者は出た。
だが、街は崩れていない。
完全救済は、ない。
その現実を、全員が理解した夜だった。
外では、森のざわめきが続いている。
終わっていない。
だが、
**誰の責任かは、もう明確だった。**
それは、街のものだ。
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