第50話 正解を決めないという答え
ラド区の件から、一日。
街の空気は、静かに重くなっていた。
成功もあった。
失敗もあった。
どちらも、同じやり方の延長にある。
夜、参事が私室に俺を呼んだ。
「……お聞きしたいことがあります」
机の上には、簡素な地図と、被害報告。
「ラド区は、間違えましたか」
責める声ではない。
確認だ。
「いいえ」
即答だった。
「では、何が違ったのですか」
「条件です」
それだけでは、足りない。
参事は、まっすぐこちらを見る。
「正解は、何ですか」
部屋が静まる。
この問いは、ずっと宙に浮いていた。
「正解は、決めません」
参事の眉が、わずかに動く。
「決めない?」
「はい」
言葉を選びながら、続ける。
「事前に“これが正しい”と固定すれば」
「状況が変わったとき、修正が遅れます」
ラド区は、成功の形を固定した。
地形の違いを、後回しにした。
「正解は」
俺は、地図を指でなぞる。
「その場で作るものです」
「作る……」
「間違えた後に、直せる形を残す」
「それが、目的です」
参事は、しばらく考え込む。
「では」
「あなたは、正解を知っているわけではない?」
「知りません」
即答。
「ただ」
少しだけ視線を上げる。
「間違えたときに、崩れない形を探しているだけです」
参事が、静かに息を吐く。
「それは、安心できる答えではありませんね」
「はい」
安心は、固定を生む。
固定は、遅れを生む。
「……難しいですね」
「ええ」
だが、それが現実だ。
窓の外では、灯りが揺れている。
完全な成功はない。
完全な失敗もない。
「私たちは」
参事が、ゆっくりと言う。
「正解を求めすぎていたのかもしれません」
俺は否定しない。
求めること自体は、悪くない。
ただ、
それを先に決めることが危うい。
「明日」
参事が立ち上がる。
「区画ごとの判断記録を集めます」
「それが良いと思います」
「あなたの名も、記録しますか?」
少しだけ間を置く。
「不要です」
参事は、わずかに笑った。
「分かりました」
正解は、決めない。
だが、
判断の過程は残す。
それが、
この街に残るものになる。
外では、まだ森がざわめいている。
終わってはいない。
だが、
何かが少しだけ変わり始めていた。
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