第5話 成績通知
封書は、無機質だった。
厚手の紙。
学園の紋章。
事務的な書式。
寮の部屋の机の上に、それは置かれていた。
誰かが直接渡したわけではない。
いつの間にか、そこに「ある」。
それだけで、内容は察せた。
「……はいはい」
深呼吸を一つして、封を切る。
中身は、一枚の通知書だった。
《成績評価および今後の進路について》
文章は簡潔だった。
・実技評価が基準に達していない
・戦闘能力の伸びが見込めない
・学園方針との不一致
そして、最後に。
《よって、次回評価日をもって在籍継続不可と判断する》
「……そっか」
声は、思ったより落ち着いていた。
驚きも、怒りも、なかった。
胸の奥にあるのは、妙な納得感だ。
(やっぱり、そうなるよな)
俺は戦えない。
評価基準は変わらない。
制度がそう決めた。
それだけのことだ。
しばらくして、扉がノックされる。
「アレン、いる?」
リィナの声だった。
「どうぞ」
彼女は部屋に入り、俺の手にある紙を見て、表情を曇らせる。
「……来たんだ」
「うん」
それ以上、言葉はいらなかった。
「……おかしいよ」
小さく、だがはっきりと彼女は言った。
「あなたが何もしてなかったわけじゃない」
「私、何度も助けられた」
「それは……結果論だよ」
俺は苦笑する。
「数字に出ないことは、評価されない」
「学園は、それを選んだだけだ」
リィナは唇を噛みしめる。
「でも――」
「ありがとう」
俺は、先に言葉を切った。
「そう言ってくれるだけで、十分だ」
彼女は、それ以上何も言えなくなった。
午後、最後の訓練が終わる。
レオンたちと顔を合わせるのも、これが最後になる。
「聞いたぞ、アレン」
レオンが声をかけてくる。
表情は、困ったような、気まずいような。
「……残念だな」
「そうだな」
それ以上でも、それ以下でもない。
「でもさ」
レオンは少し言い淀んでから続けた。
「制度が変わったんだ。仕方ない」
「分かってる」
俺は頷く。
「俺も、この学園には向いてなかった」
「だから――」
言葉を探して、やめた。
感謝も、恨みも、今は出てこない。
「……今まで、ありがとな」
レオンはそう言って、手を差し出した。
俺は、一瞬だけ迷ってから、その手を握った。
「うん」
それだけだった。
握手は短く、軽い。
そこに、重みはない。
別れというより、処理だ。
その日の夜、荷物をまとめる。
持っていくものは少ない。
本と、筆記具と、最低限の衣類。
机の引き出しを閉めるとき、ふと思う。
(俺は、この学園で何を残したんだろう)
答えは、出なかった。
そして、翌朝。
学園事務室に呼び出される。
そこには、マルグリット教官がいた。
「アレン・クロウ」
「正式に、君の除籍を通告する」
事務的な声。
「異議はあるか?」
俺は、首を振った。
「ありません」
その言葉で、すべてが終わった。
――少なくとも、この学園での俺は。
だが、その時はまだ知らなかった。
この“静かな切り捨て”が、
後にどれほど多くの場所を狂わせることになるのかを。
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