第46話 確定しない違和感
リーヴァの朝は、静かだった。
石畳の通りに商人が並び、
荷車の音がゆっくりと流れる。
平和、と言って差し支えない。
だが。
「……揃いすぎていますね」
城壁の上から外を眺めながら、俺は言った。
参事が隣に立つ。
「何が、でしょう」
「動きです」
遠く、森の縁を横切る魔物の影。
数は多くない。
だが、散発的でもない。
「通常の移動なら」
俺は続ける。
「ばらけます」
「今回は?」
「同じ方向へ、流れています」
参事は、目を細める。
「異常、ですか?」
その問いに、即答はしなかった。
しばらく観察してから、首を振る。
「……まだ言い切れません」
参事が、わずかに眉を寄せる。
「ですが、何かあると?」
「可能性はあります」
断定しない。
決めつけない。
それが、最初の準備だった。
昼前、街の会議室。
若手騎士団長が、強い口調で言う。
「数は少ない」
「今のうちに叩くべきだ」
対して、商人代表が反論する。
「刺激する方が危険だ」
意見は、割れていた。
視線が、自然とこちらに集まる。
「……どう思われますか?」
参事が、静かに問う。
俺は、少しだけ間を置いた。
「今の情報では」
「異常とは断定できません」
騎士団長が、不満そうに言う。
「だが、揃っていると」
「ええ」
「なら、異常では?」
「揃う理由が分からない以上」
「判断材料が足りません」
会議室が、静まる。
誰も“正解”を出してくれないことに、戸惑っている。
「では、何を準備すべきか」
参事の問いは、冷静だった。
俺は、地図を広げる。
「仮に、移動が拡大した場合」
「街全体を動かす必要はありません」
「分割、ですか」
「ええ」
区画を三つに分ける。
「一部だけを、事前に動かす」
「残りは、通常生活」
「全面避難ではない、と」
「全面は、過剰です」
騎士団長が、腕を組む。
「結局、避難を想定しているのでは?」
「可能性として、です」
それ以上は言わない。
会議後、参事が廊下で言う。
「はっきりとは、おっしゃらないのですね」
「はい」
「不安になりませんか?」
「不安だからこそ」
答える。
「断定しません」
参事は、ゆっくり頷いた。
夕方。
城壁から、再び森を見る。
動きは、変わらない。
少ない。
だが、揃っている。
(……まだ、決めない)
決めるのは、最後だ。
早すぎる判断は、
失敗よりも厄介になる。
街は、まだ平穏だ。
だからこそ、
準備だけを進める。
確定しない違和感は、
否定もしない。
断定もしない。
それが、
最初の一手だった。
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