第42話 断らない拒否
返答期限の、夜。
ギルドの応接室に、再び国家の使者が現れた。
書類は、もう机の上にない。
条件は、双方とも理解している。
「……お答えを」
男は、淡々と促した。
急かしもしない。
だが、待つつもりもない。
「条件については」
俺は、静かに口を開く。
「理解しています」
男は、頷いた。
「国家として」
「最大限、配慮した内容です」
「ええ」
それは、本心だった。
「誠実だと思います」
その言葉に、わずかに安堵が走る。
だからこそ、続く言葉が重くなる。
「ですが」
俺は、視線を逸らさずに続けた。
「その枠では、私の判断は機能しません」
男の表情が、固まる。
「……拒否、ですか」
「いいえ」
はっきりと、否定した。
「拒否ではありません」
沈黙。
「国家の判断は、正しい」
「責任を集約する必要も、理解できます」
それは、譲歩ではない。
事実確認だ。
「ただ」
言葉を選ぶ。
「私のやり方は」
「判断と責任が、同じ場所にないと成立しません」
男は、眉を寄せた。
「国家が責任を負うのは、問題だと?」
「問題ではありません」
「ただ、意味が変わります」
ゆっくりと、続ける。
「私の判断が失敗した時」
「国家が責任を負うなら」
「次の判断は、必ず歪みます」
それは、理屈だった。
「責任を負わない判断は」
「安全になります」
「ですが」
「現場では、役に立たない」
男は、反論しなかった。
反論できない種類の話だと、理解している。
「では」
男が、低く言う。
「どういう形なら、応じられる」
その問いに、即答はしなかった。
少しだけ、間を置く。
「今のままです」
「……今のまま?」
「ええ」
頷く。
「冒険者として」
「現場で判断し」
「結果を、すべて自分で引き受ける」
それだけだ。
「それでは」
男の声が、わずかに強くなる。
「国家は、関与できません」
「承知しています」
それが、前提だ。
「依頼を受けるかどうか」
「国家の案件に関わるかどうか」
「その都度、判断します」
管理されない。
だが、敵対もしない。
「……危険な立場です」
「はい」
即答だった。
「ですが」
最後に、はっきり言う。
「それが、一番多くを守れます」
男は、長く息を吐いた。
「……分かりました」
それは、了承ではない。
受理だ。
「今回は」
「依頼は、成立しなかったという形にします」
「ありがとうございます」
頭を下げる必要はない。
それでも、礼は言った。
男は、立ち上がり、扉に向かう。
「一つだけ」
振り返る。
「国家は」
「あなたを、手放したわけではありません」
「分かっています」
「……いずれ、また」
「ええ」
それも、否定しない。
扉が閉まる。
応接室に、一人残る。
断ったわけではない。
従ったわけでもない。
ただ、
同じ枠に入らなかった。
それだけだ。
(これでいい)
自由は、守られた。
同時に、
国家の庇護も、遠のいた。
どちらも、選んだ結果だ。
俺は、立ち上がり、ギルドの喧騒へ戻る。
冒険者としての場所へ。
管理されない判断は、
常に危険だ。
それでも。
選び続ける覚悟だけは、
手放さなかった。
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