第37話 同行者という名の距離
その依頼は、内容だけ見れば何の変哲もなかった。
街道沿いの小村への定期護送。
魔物の出現率も低く、危険度は最低ランク。
「……条件に、一行追加されていますね」
フィオナが、依頼票を指でなぞる。
「同行者一名、指定あり?」
「指定?」
「はい」
彼女は少し困ったように言う。
「“観測担当”と書かれています」
嫌な予感は、外れなかった。
「……誰ですか?」
「こちらで手配された方です」
「冒険者登録は、されています」
登録がある、ということは。
表向きは、問題ない。
「断れますか?」
「形式上は、可能ですが……」
言葉を濁す。
「断る理由が、必要になります」
俺は、少しだけ考えた。
(ここで拒否すると、理由を作られる)
「……分かりました」
「受けます」
それが、今できる最善だった。
集合場所に現れたのは、
二十代半ばほどの青年だった。
「初めまして」
「カイルといいます」
柔らかな笑顔。
武装は軽いが、手入れは行き届いている。
「よろしくお願いします」
態度は丁寧。
敵意もない。
だからこそ――
余計に分かりやすかった。
(監視役、だな)
道中、カイルは必要以上に口を出さない。
「地形、詳しいですね」
「仕事柄」
「判断が早い」
「いつも、こうなんですか?」
質問は、自然を装っている。
だが、
記録するための質問だ。
「……慣れているだけです」
それ以上は、答えない。
村に近づく頃、
小さな魔物の影が見えた。
即座に、判断する。
「避けましょう」
「迎撃は?」
カイルが、さらりと聞く。
「不要です」
「進路を変えれば、終わります」
実際、そうなった。
魔物は、こちらに気づきもせず、
別方向へ去っていく。
「……なるほど」
カイルが、小さく呟く。
その視線が、
俺ではなく――
空白になった地図を見ているのに、気づいた。
依頼は、問題なく終わった。
村での休憩中、カイルが言う。
「あなたの判断は」
「派手ではありませんね」
「派手さは、必要ありません」
「国家は」
一瞬、言葉を選ぶ。
「派手なものを、好みます」
「でしょうね」
否定もしない。
「……それでも」
彼は、少しだけ表情を曇らせた。
「あなたのやり方は、確かに合理的です」
それは、評価だった。
だが同時に――
報告対象でもある。
帰路。
カイルは、ふと立ち止まる。
「……質問しても、いいですか」
「どうぞ」
「もし」
彼は、慎重に言葉を選ぶ。
「国が、あなたの判断を制度化しようとしたら」
「どうしますか?」
即答は、しなかった。
少し考えてから、答える。
「……多分、うまくいきません」
「理由は?」
「状況が、同じになることはないからです」
カイルは、黙り込む。
「それに」
俺は、続けた。
「判断は、責任と一緒でないと、意味がない」
書き留められる音がした。
小さな音。
だが、確かに。
ギルドに戻ると、フィオナが待っていた。
「……どうでした?」
「問題ありませんでした」
嘘ではない。
だが。
「ただ」
少しだけ言葉を足す。
「距離は、測られています」
彼女は、黙って頷いた。
夜。
宿の部屋で、考える。
自由は、まだある。
だが、
誰かが、測り始めている。
どこまで動けるか。
どこまで許されるか。
(……選ばされるな)
心の中で、そう呟く。
判断は、いつも自分で下す。
その覚悟だけは、
誰にも渡さないために。
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