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非戦闘職として学園を追放された俺、冒険者ギルドでは危険回避の前提になっていました 〜戦わない戦術補佐は、勝たないことで評価される〜  作者: 蒼月アルト


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第36話 いつも通りのはずの日

 ギルドの朝は、騒がしかった。


「依頼、増えてきたな」

「避難終わったからか」


 掲示板の前で、冒険者たちがいつもの調子で話している。


 俺も、その中に混じって依頼票を見ていた。


 小規模討伐。

 護衛。

 物資運搬。


 どれも、見慣れた内容だ。


(……戻ったな)


 国家案件の緊張感が、ようやく抜けてきた。


「アレンさん」


 声をかけてきたのは、フィオナだった。


「今日は、どうされます?」


「これと……」

 二枚、指差す。

「あと、余裕があれば一件」


「分かりました」


 彼女は、いつも通りに処理する。


 だが――

 ほんの一瞬だけ、視線が俺から外れた。


(……?)


 違和感は、それだけだった。


 午前の依頼は、村への物資護送。


 街道は静かで、魔物の気配も薄い。


「平和だな」


 同行した冒険者が、笑う。


「こういうのが、一番助かる」


「そうですね」


 俺も、同意する。


 危険がないことに、理由はいらない。


 村に着くと、顔なじみの老人が出迎えてくれた。


「おお、今日は何事もなかったか」


「ええ」


「それが、一番だ」


 そのやり取りだけで、仕事は終わる。


 午後、ギルドに戻ると、空気が少しだけ違った。


 視線が、集まる。

 だが、すぐ逸らされる。


(……またか)


 悪意はない。

 むしろ、遠慮に近い。


 誰も、俺を英雄扱いしない。

 だが、以前より距離がある。


「……気のせい、か」


 そう思おうとしたところで、

 フィオナが声を落として言った。


「アレンさん」

「最近、依頼の割り振り……」

 一瞬、言葉を切る。

「少し、変わっています」


「変わっている?」


「はい」

 彼女は、視線を伏せる。

「あなたに、直接回らない依頼が増えました」


 胸の奥が、わずかに冷える。


「俺を外している?」


「外している、というより……」

 言いにくそうに続ける。

「“様子を見ている”感じです」


 様子見。


 その言葉には、聞き覚えがあった。


「誰が?」


 問いは、短い。


「……王都からです」


 やっぱり、か。


 夕方。


 ギルドの上階から、街を見下ろす。


 何も変わっていない。

 人は歩き、店は開き、

 危機は去った。


 それなのに。


(……自由が、少しだけ狭まっている)


 明確な制限はない。

 命令もない。


 だが、

 選択肢が、静かに削られている。


 その感覚だけが、はっきりしていた。


 俺は、依頼票を一枚、畳む。


「遠いのは、後回しだな」


 そう呟いて、近場の仕事を選ぶ。


 まだ、動ける。

 まだ、選べる。


 だが、

 いつまでかは分からない。


 その問いが、

 静かに胸に残ったまま、

 一日は終わった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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