第35話 扱いづらい存在
その会議に、アレン・クロウはいなかった。
王都、内務府の地下会議室。
重厚な扉が閉じられ、外部の気配は遮断されている。
「……では、本題に入ろう」
議長役の老官が、低く言った。
「レムナス周辺事案についてだ」
机の中央に、簡潔な報告書が置かれる。
「被害は最小限」
「都市機能の損失、ほぼなし」
「戦果記録、なし」
誰かが、小さく鼻を鳴らした。
「記録に残らない成功、か」
「成功と呼ぶかどうかも、怪しい」
別の声が続く。
「魔物は倒していない」
「脅威が“自然消滅しただけ”とも言える」
その言葉に、別の官が反論する。
「だが、住民は生きている」
「それは事実だ」
議論は、すでに割れていた。
「問題は、人物だ」
老官が、話題を切り替える。
「アレン・クロウ」
「彼の判断が、事態を動かした」
その名前が出た瞬間、空気がわずかに張る。
「彼は、軍人ではない」
「指揮系統にも属していない」
「にもかかわらず」
別の官が言う。
「現場は、彼に従った」
それは、称賛でも非難でもない。
危険性の指摘だった。
「個人に、判断が集中している」
「再現性がない」
「だからこそ」
若い官が口を開く。
「制度化すべきでは?」
その言葉に、何人かが顔を上げる。
「判断基準を抽出し」
「訓練体系に組み込む」
「彼自身を――」
言葉が、途中で止まる。
「……教官に据える?」
「あるいは、顧問として囲い込む」
空気が、重くなる。
「それは、危険だ」
反対意見が出た。
「彼の判断は」
「規範に落とし込めないから機能している」
「制度にした瞬間、意味を失う」
沈黙。
それは、正論だった。
「では、排除か?」
誰かが、冗談めかして言う。
だが、誰も笑わない。
「……極論だが」
老官が言う。
「自由に動かせ続けるのも、問題だ」
「管理できない存在は」
「国家にとって、リスクだ」
その言葉が、会議室に残る。
「囲い込むか」
「距離を置くか」
「どちらにせよ」
老官は、静かに締めくくった。
「今のまま、放置はできない」
結論は、出なかった。
だが、方向性は決まった。
注視対象。
それが、アレン・クロウに与えられた
新しい立場だった。
一方、その頃。
ギルドの一角で、
アレンは次の依頼票を眺めていた。
「……遠いな」
それだけ呟き、別の紙を手に取る。
彼はまだ知らない。
自分が、
“選ばれる側”から
“管理される対象”に変わったことを。
だが、
その違和感は、
そう遠くないうちに、
必ず形になる。
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