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非戦闘職として学園を追放された俺、冒険者ギルドでは危険回避の前提になっていました 〜戦わない戦術補佐は、勝たないことで評価される〜  作者: 蒼月アルト


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第34話 名前を知らなくても

 それは、依頼でも報告でもなかった。


 避難が終わり、街に人が戻り始めた頃。

 ギルドの外で、俺は呼び止められた。


「あの……」


 振り返ると、年配の男性が立っていた。

 顔に見覚えはない。


「お忙しいところ、すみません」

「少しだけ、お時間をいただけますか」


「……はい」


 断る理由もなかった。


 男性は、帽子を取り、深く頭を下げる。


「レムナスの者です」

「避難の時……」

「孫と一緒に、街を出ました」


 それだけで、察しはついた。


「家も、店も」

「全部、無事でした」


 言葉は、簡素だった。


 飾りも、上手さもない。


「誰に礼を言えばいいのか」

「正直、分かりませんでした」


 そう言って、困ったように笑う。


「でも」

 少しだけ、声が震えた。

「あなたが、そこにいたと聞きました」


 俺は、何も言えなかった。


「戦ってくれたわけじゃない」

「剣を振ったわけでもない」


 それでも。


「……帰れました」


 その一言が、胸に落ちる。


 男性は、再び頭を下げた。


「ありがとうございました」


 それだけだった。


 何かを期待している様子はない。

 返事も、見返りも、求めていない。


 ただ、

 言わずにはいられなかったという顔だった。


 その後、似たようなことが二度あった。


 子供を連れた母親。

 無言で、深く頭を下げていった。


 名前も、肩書きも、聞かれない。


 誰も、俺を英雄とは呼ばない。


 それで、よかった。


 夕方。


 ギルドに戻ると、フィオナが待っていた。


「……何か、ありました?」


「いえ」


 少し考えてから、続ける。


「ただ」

「帰れた人が、いたみたいです」


 彼女は、一瞬だけ目を伏せ、

 それから、静かに笑った。


「それが、一番ですね」


「はい」


 それ以上、言葉はいらなかった。


 夜。


 宿の部屋で、灯りを落とす。


 今日のことを、思い返す。


 評価も、表彰も、記録もない。


 だが。


(……間違ってなかった)


 それだけは、確信できた。


 選ばなかった命の重さも。

 救えた命の存在も。


 どちらも、消えない。


 それでも。


 名前を知らなくても、

 意味は残る。


 それで、十分だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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