第33話 割れる評価
公式の評価は、静かに出た。
「本件は、関係各所の連携により
大規模被害を回避した事例である。
特定個人の功績を称する段階にはない」
それが、王都からの結論だった。
言葉としては、穏当だ。
だが、意味ははっきりしている。
――英雄はいない。
――名を残す者はいない。
報告書は、整っている。
整いすぎていて、
誰の判断だったのかが、きれいに消えていた。
一方で、ギルド内の空気は真逆だった。
「……あれで“特筆事項なし”は、無理がある」
「現場を見てない連中の評価だ」
酒場の片隅で、冒険者たちが声を潜めて話している。
「死者数、あの規模で二百以下だぞ」
「普通なら、桁が一つ違う」
誰も、俺の名前を大声で出さない。
だが、
出さなくても、全員が分かっている。
ギルド奥。
フィオナが、困ったように眉を寄せている。
「……国から、正式な感謝状は出ませんでした」
「そうですか」
想定通りだ。
「ただ」
彼女は、少し言いにくそうに続ける。
「内部では……英雄扱いです」
「扱い?」
「依頼編成の際」
「“アレンが関わるかどうか”が、基準になっています」
胸の奥が、わずかに重くなる。
(また、前提か)
「それは、良くない」
即座にそう言った。
「依存が進みます」
「……でも」
「俺がいなくなった時」
「同じ判断が、できなくなります」
それが、一番怖い。
その日の夕方。
国家側の監察官が、非公式に訪ねてきた。
「……少し、話がしたい」
場所は、ギルドの応接室。
公的な場ではない。
「君の判断は」
彼は、慎重に言葉を選ぶ。
「結果として、正しかった」
「ありがとうございます」
だが、続きがあることは分かっていた。
「だが、国家としては」
「君の存在を、どう扱うべきか迷っている」
その言葉に、俺は視線を上げる。
「戦わずに結果を出す」
「だが、再現性の説明が難しい」
「……説明が必要ですか?」
「必要だ」
「制度に組み込む以上は」
制度。
その言葉に、違和感が走る。
「制度に、なりますか?」
「しなければ、危険だ」
監察官は、はっきり言った。
「君の判断は」
「個人の裁量に依存しすぎている」
それは、正しい。
だからこそ。
「だから、囲い込むか」
「排除するか」
「……どちらかになる」
空気が、凍った。
「極端ですね」
「国家は、極端なものしか扱えない」
彼は、そう言って立ち上がった。
「しばらくは、様子を見る」
「だが、覚えておいてほしい」
扉の前で、振り返る。
「君は、もう“ただの冒険者”ではない」
それだけ言って、去っていった。
夜。
ギルドの喧騒を、少し離れた場所から眺める。
(評価が割れた、か)
それ自体は、問題じゃない。
問題は――
どちらの評価も、俺を“管理したがっている”ことだ。
英雄として。
危険因子として。
どちらにせよ、
自由ではいられない。
だが。
(だから、動けるうちに動く)
依頼は、選べる。
場所も、選べる。
そして――
必要とされる場所は、一つじゃない。
この“割れた評価”は、
新しい火種になる。
それを、俺はもう察していた。
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