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非戦闘職として学園を追放された俺、冒険者ギルドでは危険回避の前提になっていました 〜戦わない戦術補佐は、勝たないことで評価される〜  作者: 蒼月アルト


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第31話 戦わなかった理由

 魔物の群れは、散り始めていた。


 はっきりとした瞬間があったわけじゃない。

 数が減り、影が薄くなり、

 やがて――

 脅威として認識されなくなった。


「……撤退、ですね」


 斥候の報告に、誰かがそう呟く。


「迎撃は?」

「追撃は、しなくていいのか?」


 問いは出る。

 だが、声に勢いはない。


「不要です」


 俺は、静かに答えた。


「追えば、また集まります」

「刺激しなければ、戻りません」


 国家側の将軍が、地図を見つめながら言う。


「……つまり」

「我々は、戦う必要がなかったと?」


「最初から」

 俺は、否定も肯定もしない言い方を選ぶ。

「可能性は、ありました」


 沈黙。


「魔物は、目的を持っていません」

「人が集まる場所に、寄ってくるだけです」


 地図上で、空白になった区域を指す。


「街が空になった」

「それだけで、理由は消えました」


 それは、

 単純すぎる答えだった。


「……そんなことで」


 誰かが、信じられないように言う。


「そんなこと、です」


 俺は、頷く。


「だから」

 少しだけ、言葉を続ける。

「戦う必要が、なかった」


 国家側の将軍は、目を閉じた。


「我々は」

「戦う前提で、考えすぎていたな」


 それは、反省でも後悔でもない。

 ただの事実認識だった。


 後処理の会議は、淡々と進んだ。


「死者数は、歴史的に見て極少」

「都市壊滅、なし」


 数字は、控えめに並ぶ。


 だが、

 戦果欄は、空白だ。


「……報告書が、書きづらい」


 監察官が、正直に言う。


「英雄がいない」

「撃破数もない」


「それでいいと思います」


 俺は、そう答えた。


「英雄が出なかったのは」

「最初から、必要なかったからです」


 誰も、反論しなかった。


 会議の後。


 若手将軍が、俺のところに来た。


「……あの時」

「迎撃しなければ、もっと楽だったか?」


 俺は、少し考えてから答える。


「楽では、なかったと思います」


「なぜ?」


「戦わない判断は」

「戦うより、ずっと怖い」


 彼は、黙り込む。


「責任の所在が、曖昧になる」

「成果が、見えない」


「それでも?」

 彼が、聞く。


「それでも、選ぶ価値はあります」


 それ以上、言葉はいらなかった。


 夕方。


 避難した人々の一部が、戻り始める。


「……何も、壊れてない」


「本当に、帰れたんだ」


 その声を、遠くから聞きながら思う。


(これでいい)


 評価されなくてもいい。

 英雄にならなくてもいい。


 ただ、

 戦わない判断が、正しかった。


 それだけが、

 この章の答えだった。


 だが、

 その判断は――

 誰にでも、歓迎されるものではない。


 国家は、理解し始めている。


 同時に――

 警戒も、始めている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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