第3話 歪んだ成功体験
正直に言えば、最近の模擬戦は楽だった。
――レオン・ヴァルディスはそう感じていた。
「やっぱ俺が前に出ると違うな」
「敵の動き、全部見えてる感じがする」
剣を肩に担ぎながら、仲間にそう言う。
誰も否定しない。むしろ、当然のように頷いた。
「そりゃそうだろ」
「お前、最近キレが違うし」
実際、結果は出ている。
撃破数も、評価も、すべて自分が中心だ。
(学園主席も、現実的じゃなくなってきたな)
そんな自負すら芽生えていた。
少し後ろを歩くアレンの存在は、視界の端にあるだけ。
指示は出すが、それはあくまで補助。
「無駄がないのは助かるけどさ」
レオンは気軽に言う。
「別にいなくても、俺たち回るんじゃね?」
仲間の一人が笑った。
「確かに」
「最近は動きも分かってきたし」
その言葉に、レオンは満足した。
(そうだよな。経験を積んだ結果だ)
成功体験は、人を盲目にする。
特にそれが、連続して続く時ほど。
「アレン」
ふと振り返って声をかける。
「次の実習、もう少し前に出てみないか?」
「補助ばっかだと、評価も上がらないだろ」
善意だった。
だが、そこに“理解”はない。
「……俺は、今のままでいいよ」
アレンは少し困ったように笑った。
「前に出るの、向いてないから」
「それに、今の形が一番――」
「効率いい、ってか?」
レオンは軽く笑って、話を切る。
「まぁ、好きにすればいいさ」
「結果出てるしな」
その会話を、リィナは黙って聞いていた。
(……本当に?)
胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
模擬戦の最中、
危険な場面の直前に、必ずアレンの指示が飛ぶ。
無意識に助けられている場面が、いくつもある。
それなのに――
誰も、それを意識していない。
「ねぇ、レオン」
リィナは勇気を出して言った。
「もし、アレンがいなかったら――」
「もしも、は意味ないだろ」
即答だった。
「結果がすべてだ」
「今勝ててる。それで十分じゃないか」
それ以上、話は続かなかった。
リィナは唇を噛みしめる。
(……このままだと)
何かが壊れる。
理由は分からないが、確信に近い予感があった。
一方、アレンはそのやり取りを聞いていなかった。
いや、聞こえてはいたが――
自分のことだとは、思っていなかった。
(俺がいなくても回るなら、それでいい)
そう思っていた。
役に立たないなら、いない方がいい。
足を引っ張るくらいなら、最初から。
それが、彼の自己評価だった。
その夜。
学園の掲示板に、新しい通達が貼り出された。
――《学園制度改革について》。
実力主義への移行。
非戦闘職の再編。
即戦力を育てるための見直し。
生徒たちはざわめく。
「補助職、減らすってよ」
「戦えないやつ、やばくない?」
アレンは、その文字を見つめていた。
(……来たか)
不思議と、驚きはなかった。
むしろ、
「やっぱりな」
という納得に近い感情。
自分は、この学園の評価基準に合っていない。
それだけのことだ。
だが――
その基準そのものが、
どれほど歪んでいるかを、
この時点で理解していた者は、ほとんどいなかった。
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