第27話 成功として扱われないもの
小都市カレムの避難は、予定通り完了した。
人口三千。
高齢者が多く、移動に時間がかかる街。
それでも――
脱落者は出なかった。
「……終わりました」
現地責任者の声は、安堵に満ちている。
「全住民、避難完了」
「魔物との接触、なし」
報告を受けた瞬間、
冒険者たちの間に小さなどよめきが走った。
「マジで……?」
「被害、ゼロ?」
彼らは、互いの顔を見合わせる。
それが、どれほど異常なことかを知っているからだ。
「よくやった」
ギルド代表が、静かに言う。
派手な称賛はない。
だが、現場には確かな達成感があった。
一方で。
王都への中間報告は、淡白だった。
「小都市一箇所、住民避難完了」
「戦闘なし」
「魔物の撃退記録、なし」
報告官が、事務的に読み上げる。
将軍の眉が、僅かに寄る。
「……それだけか?」
「はい」
沈黙。
「街は?」
「空です」
「破壊は?」
「ありません」
「……敵は?」
「確認されていません」
そのやり取りが、すべてだった。
誰も、「よくやった」とは言わない。
「これは、成果として扱いにくいな」
監察官が、低く呟く。
「避難が必要だった証拠が、残っていない」
皮肉な話だ。
成功したからこそ、
必要性が証明できない。
会議後、廊下で将軍が俺を呼び止めた。
「……君の判断で、人は助かっている」
「それは、認める」
一拍置いて、続ける。
「だが、国家としては」
「評価の仕方が分からない」
「分からなくて、いいと思います」
俺は、そう答えた。
「分かる必要は、ありません」
将軍は、苦い顔をする。
「そういうわけには、いかない」
「分かっています」
だから、ここに立っている。
現場に戻ると、空気はまったく違った。
「次は、どこだ?」
「指示をくれ」
冒険者たちは、迷いなく動く。
彼らはもう、
“結果が出るかどうか”では判断していない。
生き残れるかどうかだけだ。
「……アレン」
フィオナが、控えめに言う。
「あなたがいないと、回らなくなってます」
「そうならないように、動いてください」
即答だった。
「俺がいなくても、判断できるように」
それが、本音だ。
俺がいなくなったら、
同じことが繰り返される。
それだけは、避けたい。
夜。
地図を前に、独りで考える。
避難完了した地域。
まだ残っている地域。
(……まだ、足りない)
このままでは、
評価がどうであれ、
次の判断が遅れる。
国家は、動きづらくなっている。
成功が、逆に足枷になっている。
(どこかで、歪みが出る)
そう思った瞬間、
胸の奥が、ひやりとした。
評価されない成功は、
いつか――
誰かの焦りを生む。
それが、最悪の形で出なければいい。
だが、
その願いは、
そう長くは保たれなかった。
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