第23話 選ばれない選択肢
選抜会議は、王都寄りの臨時指揮所で開かれた。
円卓を囲むのは、国家側の軍務官、派遣将校、学園関係者、
そして冒険者ギルドの代表者たち。
俺の席は、末席だった。
発言権があるとは、誰も思っていない位置。
「状況は理解しているな」
口火を切ったのは、国家側の将軍だった。
「レムナス周辺の魔物出現は、想定内だ」
「迎撃戦力は、段階的に集結している」
地図の上に、駒が置かれていく。
防壁。
迎撃線。
増援。
“勝つための布陣”だ。
「問題は、いつ仕掛けるかだな」
「仕掛ける……?」
誰かが言葉をなぞるように呟く。
将軍は、当然のように続けた。
「敵が揃い切る前に叩く」
「戦果を挙げ、街の安全を示す」
国威。
報告書。
責任の所在。
そういったものが、言葉の裏に透けて見える。
「避難は?」
ギルド側の代表が、控えめに尋ねた。
将軍は、即座に首を振る。
「今は考えていない」
「混乱を招くだけだ」
その一言で、空気が固まった。
(やっぱり……)
俺は、内心で息を吐く。
この場では、
“戦わない選択肢”は、最初から選ばれていない。
「犠牲は、最小限に抑える」
将軍は、断言する。
「必要な犠牲、という意味で、だがな」
その言葉に、誰も反論しなかった。
反論できない。
国家の論理としては、正しいからだ。
俺は、地図を見る。
防衛線が敷かれている場所。
そこに、街がある。
(……間に合わない)
心の中で、同じ結論に辿り着く。
「補助役」
突然、将軍が俺を見た。
「君は、何か意見があるか?」
場の空気が、一瞬だけ俺に集まる。
だが、期待はない。
形式的な確認だ。
「……あります」
静かに、そう答えた。
「迎撃線は、時間を稼げません」
「魔物は、戦闘を避ける動きをしています」
「だからこそ、先に叩く」
「叩けば」
俺は、淡々と続ける。
「街に向かいます」
将軍の眉が、ぴくりと動く。
「君は、何を言いたい?」
「戦う前に」
言葉を選ぶ。
「街を動かすべきです」
沈黙。
「……避難、か」
誰かが、信じられないものを見るような声を出す。
「今の段階で?」
「被害も出ていないのに?」
「今だからです」
俺は、そう言った。
「被害が出てからでは」
「選択肢が、減ります」
将軍は、ゆっくりと首を振る。
「理想論だな」
「現実を見ろ」
それで、この話は終わった。
俺の意見は、
**記録に残らない“参考意見”**として処理される。
会議は、迎撃準備続行で閉じられた。
廊下に出ると、ギルド代表が小さく声をかけてくる。
「……悪くない意見だった」
「通りませんでしたけど」
「今はな」
その“今は”が、引っかかる。
外に出ると、空が曇り始めていた。
(選ばれなかった、か)
だが、不思議と落胆はなかった。
俺は、もう知っている。
正しい選択肢が、
いつも選ばれるわけじゃないことを。
そして――
選ばれなかった選択肢が、
後から必要になることも。
その予感だけが、
静かに、確信へと変わり始めていた。
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