第18話 立場の違い
学園の正門は、記憶よりも小さく見えた。
石造りの門。
かつては、ここを出るときに重さを感じた場所だ。
今は――
ただの通過点だった。
「こちらです、アレン・クロウ殿」
案内役の職員が、妙に丁寧な態度で先を歩く。
“生徒”に向ける態度ではない。
(……外部扱い、か)
当然だ。
俺はもう、この学園の一員じゃない。
実習地に近い臨時詰所へ入ると、空気が一瞬だけ止まった。
――視線が、集まる。
懐かしい顔。
知らない顔。
そして。
「……アレン?」
声をかけてきたのは、レオン・ヴァルディスだった。
剣を帯び、以前と同じ装備。
だが、どこか余裕がない。
「久しぶり」
俺は、それだけ言った。
特別な感情はない。
本当に、それだけだ。
「外部アドバイザーとして来てもらった」
マルグリット教官が、硬い声で説明する。
「今回の実習では、彼の判断を最優先とする」
その一言で、場の空気が変わった。
「……最優先、ですか」
レオンの声が、わずかに揺れる。
「彼は、現場の安全を最も重視する」
「命令よりも、状況判断を優先する」
それは、学園のやり方とは真逆だった。
(ああ……)
レオンは、ここでようやく気づいた顔をする。
(俺たちは、指示される側なんだ)
実習は、すぐに始まった。
地形。
魔物の動線。
生徒たちの緊張。
すべてが、手に取るように分かる。
「……隊列を詰めすぎないでください」
俺は、淡々と告げる。
「今は、戦う必要がありません」
「この位置を保ちましょう」
教官が、反射的に口を開きかける。
だが、止まる。
学園側が頼んだ条件――
“彼の判断を尊重する”。
「……従え」
短い命令。
生徒たちが、戸惑いながらも動く。
結果、魔物との遭遇は一度も起きなかった。
実習地の外縁を、安全に踏破。
「……終わり、ですか?」
生徒の一人が、拍子抜けした声を出す。
「はい」
俺は頷く。
「これで十分です」
戦果はない。
だが、誰も傷ついていない。
教官たちは、言葉を失っていた。
「……こんなやり方が、あったのか」
マルグリット教官が、低く呟く。
レオンは、黙って地面を見ている。
かつての自分たちが、
どれだけ無駄な戦いをしていたか。
それを、今になって突きつけられている。
休憩時間、レオンが近づいてきた。
「……なぁ、アレン」
「何?」
「俺たちが勝ってた理由」
「……やっぱり、お前だったのか」
俺は、少しだけ考えてから答えた。
「さあ」
「俺は、勝とうとしてただけだよ」
それ以上でも、それ以下でもない。
レオンは、何も言えなくなった。
その背中を見送りながら、思う。
(ここは、もう俺の場所じゃない)
必要とされている。
だが、居場所ではない。
それが、はっきり分かる。
学園側は、まだ気づいていない。
本当に突きつけられるのは――
次の現場だということを。
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