第16話 勝てなくなった理由
学園の会議室には、重たい沈黙が落ちていた。
「……失敗、ですか」
マルグリット教官が、報告書に目を落としたまま呟く。
対外実習。
本来なら、学園の優秀さを示すはずの任務だった。
だが結果は――
撤退。
負傷者あり。
評価は最低。
「戦力は足りていたはずだ」
「前衛も後衛も、上位成績者を揃えた」
学園長が低い声で言う。
「それでも、連携が取れなかった」
「判断が遅れ、無駄な戦闘が多かった」
誰かが、資料をめくる音だけが響く。
「……以前は、こんなことはなかった」
そう言ったのは、別の教官だった。
「二年前の記録を見ると、同規模任務は安定して成功している」
マルグリット教官は、その言葉に反応する。
「二年前……?」
指先で、古い報告書を引き寄せる。
「この編成……」
「確かに、勝率が異常に高い」
学園長が覗き込む。
「補助職が一人、入っているな」
名前を見る。
アレン・クロウ
その瞬間、マルグリット教官の表情が凍りついた。
「……彼か」
「心当たりがあるのか?」
「除籍した生徒だ」
「戦術補佐。非戦闘職」
室内が、ざわつく。
「補助職?」
「だが、成績は低かったはずだ」
「数値はな」
マルグリット教官は、静かに続ける。
「だが――」
「彼がいた頃、連携は安定していた」
その言葉に、学園長が黙り込む。
「……偶然では?」
「そう思いたいが」
マルグリット教官は、資料を並べる。
「彼がいない任務から、失敗が増えている」
数字は、残酷だった。
撃破数は増えている。
だが、被害率も増えている。
「勝っているが、壊れている」
誰かが、ぽつりと呟く。
その時、扉が開く。
「……失礼します」
入ってきたのは、レオン・ヴァルディスだった。
「報告を聞きました」
「最近の任務、上手くいっていません」
その顔には、焦りが滲んでいる。
「理由が、分からない」
マルグリット教官は、彼を見る。
「……君は、アレンをどう評価していた?」
不意の問いに、レオンは言葉を失った。
「評価……?」
「彼がいた頃だ」
レオンは、記憶を辿る。
「……指示は、分かりやすかった」
「正直、考えなくてよかった」
それが、答えだった。
室内が静まり返る。
「考えなくてよかった、か」
学園長が、低く呟く。
「それを――」
「“不要”と判断したのは、我々だ」
誰も、反論できなかった。
「彼は、今どこにいる?」
学園長の問いに、教官の一人が答える。
「冒険者ギルドです」
「最近、指名されていると聞きました」
マルグリット教官は、目を閉じる。
「……皮肉だな」
学園で評価されなかった者が、
外の世界では――
必要とされている。
「接触すべきだろう」
学園長が、結論を出す。
「謝罪も含めて」
「今後の協力を――」
その言葉を、レオンは黙って聞いていた。
胸の奥で、嫌な感覚が広がっていく。
(もし……)
(俺が勝っていた理由が、彼だったら?)
答えは、もう出ている。
だが――
それを認めるには、遅すぎた。
学園は、静かに動き出す。
失ったものの価値を、理解してしまったからだ。
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