第15話 いないと始まらない
ギルドでの朝は、いつの間にか俺を起点に回るようになっていた。
「アレン、今日はどこ入れる?」
「午後の護衛、時間空いてるか?」
声をかけられる頻度が、明らかに増えている。
だが、誰も大声では言わない。
あくまで自然に。
あくまで前提として。
「……午前は一件だけなら」
そう答えると、周囲が安堵したように息を吐く。
「よかった」
「じゃあ、あの依頼回せるな」
(……本当に、前提なんだな)
実感が、少しずつ積み重なっていく。
午前の依頼は、定期護衛。
顔なじみのメンバーだ。
「今日も頼む」
ガルドが、簡単にそう言う。
「……うん」
それだけで、準備は整う。
道中、俺は特別な指示を出さない。
危険がない場所では、何も言わない。
それでも――
「この辺、嫌な感じしない?」
ミーナが、小声で聞いてくる。
「……少しだけ」
「じゃあ、少し距離取ろう」
俺が答える前に、判断が共有される。
(俺が考えてる前提で、動いてる)
戦闘は起きなかった。
それで、誰も不満を言わない。
「何もなかったな」
「それが一番だ」
依頼主は、そう言って笑った。
午後、別の依頼に向かう途中。
フィオナが、控えめに声をかけてくる。
「アレンさん」
「最近、無理してませんか?」
「いえ……普段通りです」
「でも」
彼女は、少しだけ言葉を選ぶ。
「あなたが入らない依頼、断られることが増えてます」
「……そう、ですか」
「“今日はアレンがいないなら見送る”って」
それを聞いて、胸の奥がきゅっと縮んだ。
(俺がいないと、始まらない……?)
嬉しいより先に、怖さが来る。
依存。
それは、責任と同義だ。
「……無理な調整は、しないでください」
俺がそう言うと、フィオナは少し驚いた顔をした。
「自分のこと、後回しにしないでください」
「事故を減らすのが目的でしょう?」
「……はい」
静かに頷く。
その夜、ギルドの奥で小さな会話が交わされていた。
「最近、学園の方から問い合わせが来てる」
「学園?」
「卒業生の動向調査だ」
「“戦術補佐”って肩書きに、心当たりはないかって」
その言葉に、フィオナが一瞬だけ顔を上げる。
「……あります」
「名前は?」
彼女は、ほんの少しだけ迷ってから答えた。
「アレン・クロウです」
その名前は、まだ外には出ていない。
だが――
水面下では、確実に届き始めていた。
一方、俺はそれを知らない。
宿の部屋で、今日の流れを振り返りながら思う。
(ここは……悪くない)
学園とは違う。
誰も、俺を評価しろとは言わない。
ただ――
必要だから、そこにいる。
それが、今は心地よかった。
だが、その静かな日常の裏で。
過去が、こちらへ向かって動き出していることを――
この時の俺は、まだ知らなかった。
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