第13話 補助が違えば、結果も違う
その依頼は、二つに分けて実行される予定だった。
対象は、同じ区域に出没する魔物の群れ。
数が多く、放置すれば被害が拡大する可能性がある。
「同時進行で、二班に分かれる」
ギルドの会議室で、フィオナが説明する。
「編成は、ほぼ同じ戦力」
「違うのは――」
彼女の視線が、俺に向いた。
「補助役です」
一瞬、空気が張り詰めた。
A班とB班。
前衛・後衛の人数、装備、経験値はほぼ同等。
ただ一つ。
A班には、俺がいる。
B班には、別の補助が入る。
「……比較、ですか?」
俺がそう尋ねると、フィオナは首を横に振る。
「いいえ」
「効率の問題です」
だが、その目ははっきりと“見極め”を意識していた。
■ B班(別補助)
B班の出発を、俺は遠くから見送った。
補助役は、若い男。
知識もあり、理論も正しい。
だが――
判断が、少しだけ遅い。
その“少し”が、積み重なる。
「前に出すぎです!」
「後衛、詠唱を――今じゃない!」
指示は飛ぶが、常に事後対応。
危険を避けるのではなく、危険に対処している。
結果、戦闘は長引き、消耗が増える。
負傷者、二名。
致命傷ではないが、撤退判断が下される。
「……くそ」
報告を受けたフィオナが、表情を曇らせた。
「B班、失敗扱いです」
■ A班(アレン入り)
一方、俺が入ったA班は、同じ場所へ向かっていた。
「この先、進路を変えます」
「魔物の動線が重なっている」
「了解」
誰も、理由を聞かない。
事前に危険な地形を避け、
戦うのは分断できた時だけ。
「今です」
「ここなら、被害が出ません」
戦闘は短く、的確だった。
負傷者、ゼロ。
消耗、最小限。
同じ魔物。
同じ戦力。
違ったのは――
補助だけ。
ギルドに戻った後、会議室の空気は重かった。
「……数字が、露骨ですね」
フィオナが、二つの報告書を並べる。
「同条件、同任務」
「結果差が、ここまで出るのは異常です」
上司らしき人物が、腕を組む。
「偶然、とは言えんか」
「言えません」
フィオナは、はっきりと断言した。
視線が、俺に集まる。
「アレン・クロウ」
「君は、何をしている?」
突然の問い。
俺は、少し考えてから答えた。
「……できるだけ、戦わなくて済むようにしています」
沈黙。
「それだけか?」
「はい」
「危ない場所を避けて」
「無理な動きをしないように、言っているだけです」
誰かが、息を呑む音がした。
「……それが、できていなかった」
上司が、低く言う。
「今まで、我々は」
フィオナが、静かに補足する。
「戦力を足すことばかり考えていました」
「戦わなくて済む構造を、考えていなかった」
誰も、反論しなかった。
事実が、並んでいるだけだからだ。
「……君を、固定で回す」
上司が告げる。
「少なくとも、危険度中以上の依頼では」
「補助は、君を前提に組む」
俺は、思わず首を傾げた。
「俺が……前提、ですか?」
「そうだ」
即答だった。
「もう、“いない前提”では組めない」
その言葉が、胸に静かに落ちる。
だが、喜びはなかった。
ただ――
腑に落ちる感覚があった。
(学園と、同じことをしてる)
違うのは、
ここでは――
結果を無視されないということ。
ギルドの掲示板に、新しい内部通達が回る。
「危険度中以上の任務において、編成時の補助役選定を厳格化する」
その下に、小さく名前が書かれていた。
アレン・クロウ
それを見て、俺は思う。
(……別に、変わったことはしてないんだけどな)
だが、この日を境に、
冒険者ギルドにおける“補助”の意味は、
確実に変わり始めていた。
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