第11話 名前のない指名
翌日、ギルドに入った瞬間、空気が少し違うことに気づいた。
視線が、わずかに集まる。
露骨ではない。
だが、昨日までの「無関心」とも違う。
(……気のせい、か)
そう思ってカウンターに向かうと、フィオナがすぐに顔を上げた。
「アレンさん、少しいいですか?」
「はい」
案内されたのは、いつも使わない小さな相談スペースだった。
「実は……」
彼女は資料を一枚差し出す。
「こちらの依頼、受けていただけませんか?」
内容を見る。
――《護衛/中距離移動》
――《危険度:中》
新人向けではない。
明らかに、俺のランクを超えている。
「これ、俺が受けていいんですか?」
「本来は、難しいです」
フィオナは正直に答えた。
「ただ、依頼主から条件がありまして」
「“例の補助がいるなら”と」
「……例の?」
「名前は出ていません」
彼女は少し困ったように笑う。
「でも、直近の依頼履歴から、あなたのことだと判断しました」
一瞬、言葉が出なかった。
(名指し、ではない)
だが――
条件にされている。
「どうしますか?」
フィオナは、こちらの反応を慎重に待っている。
「……受けます」
迷いはなかった。
「できることしか、できませんけど」
「それで十分です」
依頼主は、小規模商会の護送隊。
過去に二度、魔物の襲撃で損害を出しているらしい。
合流した護衛パーティは、経験者揃いだった。
「補助? ……聞いてた話と違うな」
最初は、やはり警戒される。
「戦えません」
「進路と隊列の調整ができます」
いつもの説明。
「ふん……まあいい」
隊長格の男が言う。
「結果が出れば、それでいい」
移動中、俺はほとんど前に出ない。
地形。
魔物の痕跡。
風向きと音。
「この先、道を外れましょう」
「遠回りになりますが、安全です」
「根拠は?」
「……嫌な予感です」
隊長は一瞬考え、頷いた。
「分かった。従う」
結果、迂回した先で、魔物の群れが本道を横切っているのを確認する。
「……なるほどな」
それ以上、何も言われなかった。
護送は、無事完了。
損害ゼロ。
「助かった」
依頼主は、それだけ言って頭を下げた。
帰還後、報告書が処理される。
フィオナが、珍しく目を丸くしていた。
「……また、被害なし」
「運が良かったですね」
「三回続くと、運とは言いません」
彼女はそう言って、こちらを見る。
「アレンさん」
「あなた、補助職ですよね?」
「はい」
「……不思議な補助ですね」
褒め言葉かどうかは分からない。
だが、否定ではなかった。
ギルド内の掲示板に、新しい噂が貼られる。
「名前は知らないが、補助がいると事故らない」
「指示が早いらしい」
俺は、それを見て首を傾げた。
(名前がないなら、問題ない)
目立つつもりはない。
ただ、必要な場所で、必要なことをする。
それだけだ。
だが、この日を境に――
“補助がいる前提”で依頼を組む者が、少しずつ増え始めていた。
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