08
「格先輩おは――もしかして寝なかったの?」
「わかるか?」
「ええ」
昨日はもう遅いからということで母に止められて朝にしたことが悪い方に影響したのだろうか。
「なあ真白、是恒は俺のことが嫌いなのか?」
「え、そんな訳がないじゃない」
「なら真白のことが好きなのか?」
「気に入ってくれているとは思うけど」
人として好きだとしても特別な意味で好きというわけではないだろう。
本人が自覚できないぐらいにはダメージが残っていてそれをなんとかするために他の誰かといるぐらいでしかない?
証拠……としては弱いかもしれないものの昨日遥のお家にお泊まりすることを選んだのはそういうところからきている気がした。
「なんか最近は感情を上手くコントロールできないんだ。ただ一つ言えるのは昔だったら間違いなく歓迎できたってことなんだよ、真白が俺以外の人間と仲良くできているなんて普通にいいことだからな」
「私も同意見よ、あの二人と一緒にいられて嬉しいわ」
「素直に喜べない自分がダサいんだ、だから昨日は沢山走った」
ああ……やっぱり走ることを発散方法に選んでしまったみたいだ。
まあ、ゲームとかをやって時間を潰すような人ではないから仕方がない面も、いやそれにしてもこう翌朝にしようという考えにならないあたりがいつも通りの彼ではないことを物語っているのかもしれない。
「四時ぐらいまで走ってさっきシャワーを浴びたところなんだ」
「それなら早めにいってよかったわね、流石のあなたでも時間が経過したら眠たくなっていたでしょうから」
「はは、六時に来るとは思っていなかったけどな」
「目が覚めてしまったからすぐに出てきたのよ」
信じられないかもしれないけどずっと気にしている状態ではあったからね。
とはいえ、朝から言葉で刺されたくはないから黙っておこう。
「楽しかったか?」
「ええ、お母さんも楽しそうにしていたから見られてよかったわ」
「よかったな、真代さんも安心できただろうな」
「そうね」
ただ昨日の母はかなりレアな状態だったからこれからも〇〇しなさいと言ってくることはないと思う。
「軽くでいいから走らないか?」
「ふふ、少しだけならいいわよ?」
「よし」
ある程度付き合ってあげれば今度英梨と会ったときに不満の感情が出てしまうこともないだろう。
もう恋愛的なそれの期待はできないけど前々からのお友達だと言っていたし普通に仲良くしてもらいたいのだ。
「真白と話せたら落ち着けたわ、本当にすごいな」
「それならよかったわ」
「出会った頃からそうだったよな、不思議な力があるんだよ」
「そういうのは側にいてくれているだけで力をくれる存在に言うことでしょう? 私で言えば両親やあなたね」
こんな話を出会ってから何回もしている。
でも、彼はどうしても私のことを高く評価したいみたいで言い合いとまではいかなくても違うと言いたくなる件だ。
「だから俺にとってはそれが真白ってことだろ」
「言ってしまえばただの後輩の異性というだけじゃない」
「前もこんな話をしたけどただそれだけならこうはなっていないだろ」
だけどその割には、という感じだ。
最近は嫉妬しているとか色々と言っている彼だけど私に対して本格的なアピールはしていきていないのだからこちらとしてはどうしようもない。
「え、もしかして意識してくれているってことかな?」
「戻すな戻すな」
「でも、これが本来の喋り方だから、そろそろいいと思うんだ」
「な、なにがだ?」
「え、だから喋り方の話だよ、お母さんの物真似タイムは終了です」
誰かの真似なんてしているから進んでいなかったのだとしたらアホとしか言いようがない。
「これまでとは違うんだ?」
「ああ、違う」
「そっか、それなら全部格先輩――格君次第だよ」
呼び捨ては私的に違うからこれが一番いい気がしたのだ。
先輩とかつけている限りは進めない……わけでもないだろうけど距離が近くなった感じがして頑張れるのではないだろうか?
「物真似は終わりなんじゃないのか?」
「えぇ、最初に触れるところがそこなの? 私、結構大胆なことを言ったつもりなんだけど」
「って、さらっと前に進めようとするなよ、心臓に悪いだろ」
えぇ……。
「ここまででいい、この状態で走っていると軽くであっても負担がすごそうだ」
「うん」
「家まで送る」
「はは、朝だよ?」
「それでもだ」
それでも本当に送るだけで終わらせるところが彼らしかった。
それっぽいことを言っているだけでなにもないまま時間だけが経過しそうだけどどうだろうか。
そういうことに関しては実績があるからいい方に考えられなくても仕方がないと思う。
「出るのも帰ってくるのも早かったわね」
「うん、ちょっと格君と話してきただけだから」
「ふふ、拗ねていなかった?」
「私と話したらすぐに落ち着けたみたい」
「本当に真白のことが好きなのね」
安心できるのは確かなことかもしれない。
とにかく私は待っているだけでよかった。
「真白ーもうできたぞ」
「んー……」
「起きろ起きろ、年内最後の日はちゃんと蕎麦を食べないと駄目なんだぞ」
彼に寝かせてもらえなかったとか早い時間に起こされたというわけでもないのにとにかく眠かった。
だからいまは正直なにも食べなくていい、まだ十八時とかだから二十三時ぐらいに食べれば年内には食べられるわけだから放っておいてほしいところだ。
「……それはいいけどなんで私と格君の二人きりなんだっけ?」
「そんなの二人が旅行でいないからだ、というかだから来てもらったんだろ? これは言っただろ」
あーそういえばそんなことを言っていた気がする。
眠たい状態のときに言われても全く頭にならないことがわかった一日となった、なんてね。
「んー運んでー」
「触れるぞ」
「うん」
おお、楽ちん楽ちん。
もう注いである状態だったからいただきますをしてから食べ始めた。
「ほわぁ、落ち着く味だー」
「なんか幼児化していないか?」
「そんな訳がないじゃない」
「はは、一貫していないな」
味わっているとろなのだから色々と自由に言ってほしくない。
それにじろじろと見てくるのも問題だった、自分の分には全く手をつけていないところから他人のそれが欲しいだけなのだろうか――というのは置いておいて、どうしてそんなに見てくるのか。
「もしかして涎の跡がついていたりする……?」
「いや、作ってもらったことは何回もあったけど食べてもらうのはなかなかないから美味しいと言ってくれるのを待っていたんだ」
「あ、美味しいよ? じろじろ見られていたから言うタイミングを逃しただけで」
「悪い」
「ううん、こっちこそなんかごめんね?」
当たり前と言えば当たり前だけどそこまで味に差が出ないのも安心できるところではないだろうか。
「ふぅ、ごちそうさまでした。さて、私はまだ寝る作業に――あ、はい、洗い物をしてきます」
「いやそれはしなくていいけど食べたばかりで寝転んだらよくないぞ」
「年内最後の日ぐらいそういうお堅いことはいいっこなしだよ」
ごろーん、ううん、気持ちがいい。
別に彼のご両親がいても同じことはできるけど彼だけだからこそ百パーセント警戒せずにこうしていられるのだ。
正座なんてしておくのはキャラ的にも違うからこれが一番だ。
「ほらほら、格君もぼうっとしていないで同じようにしてみなよ」
「それなら」
おお、真隣に寝転んでくれているだけで暖かくていいなあ。
だけどそのせいで? おかげで? 眠気がやってきてしまったからまた任せることになった。
「おい起きろ真白」
結局日付が変わる前に起こされた形になる。
「あんまり無防備なところを見せるなよ、俺が勘違いをして襲ったらどうするんだ?」
「するの?」
「しないけど、流石にそこまで無防備なのはどうなのかって話だよ」
「男の子として見られていないように感じちゃう?」
「まあ、そういうのもあるかもしれない」
まだそんなところで止まっていたのか。
二十六日からそんなに時間が経過していないとはいえ、ただ誘ってきただけなのもわかる。
このままではどれだけ時間を使っても前に進めなさそうだ……。
「ないよ」
「え」
「あ、だから男の子として見られないということがないよって話だよ。私は待っているの、だけど目の前の男の子がいまいち勇気を出せないみたいだから動いてあげようかな」
とかなんとか言いつつ固まった馬鹿がいた。
だってこの状態で動いてあげると言ったところで抱きしめるとか手を握るとか接触関連のことしか出てこない。
ただそうやってくっつかれたぐらいでなにかが変わる可能性も低いだろうからもっとなんか効果的なことをしてあげたかったのに……。
まあ、私も私でもっと考えてから動けよという話か。
「とまあ、そういうことだからその気があるならどんどんアピールをしてきてよ」
「ちょっと待ってくれ、まだ真白はなにもしてくれていないぞ……?」
「全く問題がないどころか大歓迎ということよ」
よし、言いたいことも言えたからあとは日付が変わるまで頑張って起きていよう。
初詣にいきたいと言われた場合でも対応をできるようにちゃんと暖かい格好には変身できるから問題はない。
結果は、
「あ、やっほー」
「こんばんはー」
ここにきておねむになった格君からではなく二人に誘われて出てきていた。
ただそういうのもあって彼は更に無理をしている形となっている。
大人しく待っていてと言っても「そういうわけにもいかないだろ」と目がガンギマリ状態で言ってきたから流石に重ねられなかった。
「お、おぉ、なんか今日は初めて怖く見えたよ」
「眠たいだけで怒っているわけじゃないから安心していいよ」
「ん……?」
「遥ちゃんは大丈夫? 寒かったら温かい飲み物でも買ってあげるよ」
「あれ……?」
いちいちあの喋り方をやめたとか言わなくても重ねていれば気づいてくれるだろうからこれでいい。
それよりもどうせ出てきているからには神社にいかなければ意味がないので移動を開始した。
ここからそう距離もないから緩く静かにお喋りをしているだけであっという間だった。
「もう今年も終わりかー私は正直どこか物足りない一年間だったなあ」
「私はもう少しぐらいは早く真白さんに話しかけておけばよかったと思っているだけで基本的には悪くない一年間でした」
「俺は趣味のランニングを継続してできたことがよかったな」
一緒に帰って更にそこから一緒に過ごさなかった場合は繰り返していたのだろう。
それなのにこの前のあれもきついとは感じなかったから相当合わせてくれていたということだ。
いつか気にせずに本気を出せるようにこちらも努力をするべきだろうか? まあ、絶望的に無理、ぽんこつではないはずだからなんとかなりそうだ。
「はは、若尾君はマラソンにでも出たらどう?」
「そこまで本格的じゃないから俺は緩く走るぐらいでいいよ、それに本気でやり出したら多分楽しめなくなるから駄目だ」
「あ、それならわかるよ。私も小学生の頃まではお母さんと一緒に楽しくバレーをやっていたけどいざ中学で本格的にやり出したら全く変わったからね」
「私もそうです、友達と楽しくわいわいやるテニスと部活動のテニスは全く違いました」
「中学レベルでそれなんだから高校の部活なんて無理だったろうなー」
部活動か、これといった思い出がないからこの話には加われなさそうだ。
「おーい、真白ちゃんも眠たいの?」
「私は特になにも感じなかったから話に加われないと思って黙っていたの」
「あ、なにか変だと思ったら喋り方を戻していたのか。ちょいちょい、真代さんの真似をさせたのは若尾君なのに今度は戻してほしいってお願いをしたわけ?」
へ、変……そんなに変なのかな?
ふざけたわけではないけど母の真似をした結果、やっと合う喋り方を見つけられたということなの?
「違うよ、ふざけるのはおしまいって言って真白が終わりにしたんだ」
「んーあの喋り方は本当に似合っていてよかったけどなあ」
「私もそう思います。真代さんの娘さんっ、って感じがしてよかったです」
もうこれは母を褒めているだけだろう。
だけどいちいち言われるとへこむから二人の前でだけは戻せばいいか。
プラスの方向に働いてくれた方が間違いなくいいから。
「わかったわよ、これでいいのでしょう?」
「それだ!」
「しー怒られてしまうわよ」
「そうだね」
彼から言われた場合には戻さないようにしようと決めた。
意地悪がしたいわけではないけどそれなら母を求めればいいでしょと言わせてもらう。
「「ぎゅ――む」」
「仲いいなあ」
それこそ茶番的なことをしている間に変わってしまって遅れて挨拶をした。
最初から言われていたようにこのまま私のお家にみんなでいくことになったから残らずにすぐに移動をした。
「はあ~屋内というだけで暖かいねー」
「そうですね、手袋とかをしなくていいのは楽でいいです」
とりあえず限界そうな彼のためにお布団を敷いてあげることにした。
そうしたら抵抗することもなく寝てくれたからリビングへ、少女さん達は元気だったから温かい紅茶でも出すことにする。
「さ、私達だけの時間だよ」
「ふふ、楽しそうね」
「楽しいよ、やっぱりこういうときってテンションが上がるよね」
わからなくもない。
だから今日――あ、昨日の朝からずっといい時間だと言えた。




