06
「んーお昼にご飯を食べるとやっぱり眠くなっちゃうね」
「高原さんも眠たいみたいですしどこかで休めるといいですね」
手とか腕を掴んでおかないと転んでしまいそう。
普段はお昼にご飯を食べてもこんな感じにはならないから――というのも彼女が頑張っているだけで実際は普段からこうなるタイプの子なのかもしれない。
「それなら一旦誰かの家に、と言いたいところだけど家に入っちゃったらもう出たくなくなるよね」
「暖房なんかが効いていたら尚更そうなりますね」
「でも、可愛い後輩達に無理はさせたくないし……じゃあ家にいって暇そうにしていそうな若尾君でも誘おうか」
このことは格先輩にも言ってあるから多分暇でも走ったりして時間をつぶしていると思う。
だから来られるのかどうかはわからないけど先輩が格先輩といたいのであればどんどん呼ぶべきだ。
「ん……いつの間にか若尾先輩までいますね」
うん、呼んだら速攻でやって来たから結構やばい状態だったのかもしれない。
「おう、是恒に呼ばれてな。それより高原は眠そうだな」
「はい、今日は凄く影響を受けたみたいで……」
「寝られていなかったとか?」
「確かに寝られた時間は遅いですが……私よりも早起きをしている是恒先輩がいるのに情けないですよね」
「いやそんなの人によることだからな、いちいち比べる必要なんかないだろ」
そうだ、疲れが溜まっていたりしたら早めの時間に眠たくなることだってあるだろう。
先輩を前にするとこういう弱気な発言を多くしてしまうみたいだ。
「ね、真白ちゃん、高原ちゃんっていつもこうなの?」
「いえ、いつもは明るくて元気な子ですよ」
「ということは私達、いや、私がいるところだけはこうなるってことか、別に私が素晴らしい人間というわけじゃないのに変だよね」
先輩も先輩でいちいちそんなことを言う必要はないけどね。
まあでも、自分のことを高く評価してそのまま出していける人ばかりではないか。
「大人の対応ができるところが素晴らしいと思います」
「え、あはは、なんか褒めてもらいたくて言ったみたいになっちゃったね」
もう完全に眠たいみたいだからお布団を持ってきてもらった。
「どうせなら格先輩も最初から呼んで食べてもらうべきでしたね」
「うーん、自信がないとかそういうことじゃないけど流石に朝から四人分用意するのは大変だったからこれでよかったんだよ」
「でも、ちゃんと食べさせないと格先輩はいい加減なところもありますからね」
大丈夫な状態ではないのに大丈夫とか言ったりするからそういうところではあんまり信じない方がいい。
「はは、よく知っているんだね」
「悪い癖ですからね、やりたいことがあったりするともっと酷くなるんです」
最悪の場合は夜ご飯も食べなかったりもする、朝かお昼を食べている状態ならよくても一日なにも食べないなんて駄目なのだ。
「若尾君、真白ちゃんはあなたのお母さんかな?」
「意外と冷たい顔で指摘してくるときがあるぞ、正論だから言い訳もできないけどな」
「なのに私にはお世辞しか言ってこない、これが関わった時間の長さの違いかー」
大して仲良くない先輩ではない先輩に対してはお世辞を言ったことがある。
機嫌が悪くなると普通に活動することすら大変になるから所謂よいしょというやつだ。
効果はあったようななかったような、というのもその人と仲のいい子がいてその子が話しかければすぐに変わっていたから。
「そういうことに関してもはっきりと言うからお世辞じゃないだろうな」
「え、そうだとすると照れちゃうけど」
「はは、素直に受け取っておけばいいんだよ」
「えー若尾君がそれを言うのー?」
おお、結構踏み込んだ発言だ。
ただ彼の方は「どういうことだ?」と全くわかってくれていないみたいだったから「いえ、なんでもないです」と先輩も切るしかなかったみたい。
「是恒先輩」
「うん、ありがとう真白ちゃん」
「え? あ、俺が悪いならちゃんと言ってくれ」
「ううん、寧ろいきなり呼んだのに来てくれてありがたいよ」
「いや、俺の方こそ暇すぎてやばかったから呼んでもらえてありがたいよ、ありがとな」
複雑になるとかそういうこともないからどんどん影響を受けて変わっていってほしいぐらいだけどね。
「それでお昼ご飯は食べた状態なのかな?」
「いや、ごろごろしていたからな」
「それなら作ってあげるよ、あ、その場合は真白ちゃんにも手伝ってもらうけど」
「わかりました」
「え、いいのか? なにからなにまで悪いな」
これもいつもなら「気にしなくていい」と言っているところだけど直前にやってしまった感があるから受け入れただけだ。
なんで格先輩ってこうなのか、それこそ自分のことについてレポートを書いて提出をしてもらいたいところだった。
「はえ~もう夕方か~」
「あっという間でしたね」
お金も飲食店代以外はかかっていないから助かった。
なにかがあったときのために貯めておいた方がいい、私はそれで過去に一度後悔したことがあるから欲望に任せてお金を使うようにはしない。
「うん、それで高原ちゃんと若尾君はガチ寝だけど」
「是恒先輩は大丈夫なんですか?」
「うん、全然眠たくないよ、あ、だけど真白ちゃんを抱きしめたら余裕で寝られるかも?」
「休んでもらいたいですからいいですよ」
「あえ、あはは、可愛い子だねえ」
先輩は腕を組んだからするつもりはないのかと片付けようとしたところでがばっと抱きしめられて驚いた。
温かい、高原さんにも負けないぐらいだ。
ここは暖房が効いていて寧ろ過剰なぐらいなのに落ち着ける。
この前のあれも先輩がしてくれたら高原さん的によかったのかもしれないね。
「やばい、寝られるどころか興奮してハイテンションになっちゃったよ」
「はは、ふざけたくなるときもありますよね」
「ということでいつものをお願い」
いつもの?
「若尾君や高原ちゃんにやっているあれだよ」
「ああ、よしよし、これですか?」
そこで爆睡している彼が相手ならいいけど先輩が相手だと少し気になるな。
嫌ではないならこのまま仲良くなりたい、そしてこういうことも自然とできるようになりたい。
たまに私もやってもらえばウインウインの関係になれるのではないだろうか。
「んーそれもいいけど〇〇じゃないって喋り方のことだね」
「これのことね、だけどいいの?」
「そうそれ!」
「きゃ!?」
「はははっ、今日は楽しいなあ!」
おかしくなってしまった。
ただのいまの大きな声で二人が起きてくれたのはよかったと思う。
それでも先輩のご両親が帰宅して解散の流れになったから未だにしゃっきりしていない二人の腕を掴んで歩いていた。
「真白さん……お家まで来てくれる……?」
「ええ、送るわ」
「ありがとう、今日だけじゃなくていつもありがとう」
「こちらこそありがとう、あなたのおかげで教室にいることも楽しくなったわ」
お家はすぐのところにあるから最後まで問題もなかった。
問題があるとすれば彼だ、先程からずっと黙ったままで起きているのか寝ているのかよくわからない。
「っと、これ以上はやめておくか」
「起きていたのね」
「そりゃそうだろ、そうでもなければ歩けたりしない。俺がいままで黙ってなすがままとなっていたのは俺なりに甘えていたからだよ」
「だったらもっとストレートに甘えなさいよ」
ただ静かに側にいるだけで甘えているとは言わない、そういうのはいてくれるだけで役に立っている彼みたいな存在が相手をしてくれているときに、つまり私が言うべきことなのだ。
「そう無茶を言ってくれるな、それに年上が、しかも男が『真白ちゃん甘えさせて~』という態度でいられるわけがないだろう」
「ふふ、なによいまのそれは」
前もそうだったかもしれない、彼も同じ年ぐらいの人だからふざけたくなるときがあるということか。
「それに最近は是恒とか高原ばっかりずるいと思っているからな、あと真白もなんか俺のときと違うからさ」
「少なくとも変えているつもりはないわね」
「そりゃ本人はそうだろう、自覚がないから周りがちゃんと言わないといけないんだよ」
まあ、どんな理由からでもいいけどとりあえず寒い外からは移動しよう。
だけど何故か大人しく帰ろうとしないから結局私のお家で二人きりとなった。
「はっきりと言おう、俺は是恒や高原に嫉妬している。同性だからという理由で優先されてずるい」
「無理なの?」
「是恒には悪いけどそういう目では見られないな」
だったら言ってあげるしかないだろう。
無理なのにいままでの距離感ではいかせられない。
「ちなみにこれは真白がトイレにいっているときにちゃんと言ったよ」
「そうなの?」
「おう」
それならいま先輩は……。
大好きであろうご両親が帰ってきたってすぐになんとかなるダメージではない。
でも、一人になれずに無理に笑わせてしまう時間が長引いたパターンよりはマシなのだろうか……?
「よく勇気を出せたわね」
「その気もないのに曖昧な状態でいるなんて駄目からな」
自分が振ったとかでもないのに会いづらい。
そういうのもあってほとんどは来てくれたら相手をするというスタンスでよかったと思う。
明日はまだ日曜日だけどあとは月曜日のお昼休みに来てくれたら……と考えてしまうのは自分勝手だろうか。
「気になるのはあのとき高原も起きていたかもしれないってことなんだよな」
「ああ、できれば二人きりのときの方がよかったわよね」
「是恒のことを考えればな」
それなら彼も寝てしまったのは勇気を出すことになったからか。
よしよしと頭を撫でてあげたいところだけど今日のところは気になるからやめておいた。
それといまは先輩の笑顔が見たかったからもどかしかった。
「おはようございます」
「おはよー高原ちゃんでも待っていたの?」
「すみません、是恒先輩を待っていたんです」
結局待つことができなくて、あ、いやこうして待っていたけどできずにこうして自分から会いにいってしまった。
「んーあ、これはあれかあ」
「すみません」
「そういうことか、若尾君もやってくれるなあ。でも、そんなことはいいや、今日は朝から真白ちゃんを独占しちゃうよ」
珍しく朝から空き教室にいくことになった。
お昼と同じでしんとしていて冬なのもあってより寒い場所。
そんな場所だというのに、複雑な状態だというのに先輩は笑って「寒いね」なんて言っている。
「ダメージがない、とは言えないけどそこまでじゃないんだよね、これを言うとそれぐらいの気持ちだったのかと言葉で刺されそうだけど事実そうだからそうとしか言いようがないというかさ」
「やっぱり私ではまだ時間が足りませんよね」
「え、紛れもない本音だけど、気になるなら心臓の鼓動でも確認する?」
「それなら失礼します」
「うわお」
普通だ。
あ、いやでも格先輩が来ているわけではないから変わりようがないか、後輩の私相手に緊張したりする意味はないわけだし。
「ぎゅー」
「優しさを感じます」
「そりゃそう、何故なら私は優しいから。あとなに敬語に戻しているんだよーいますぐに戻しなさい」
「中途半端なことをしてごめんなさい」
頭を撫でるのを止めたけど裏でこそこそ会っていたりしていた時点で意味のない話だった、お友達だからと言い訳をしても微妙なことには変わらないだろう。
「ん? ああ、最初のときのことか。あはは、てっきり私を勘違いさせようとしてきたときのことについて謝ってきたのかと思ったけど」
「どういうこと?」
「だから私は前にも言ったんだよ、真白ちゃんはそういうタイプかーってね」
「答えてちょうだい」
「高原ちゃんが相手のときだけじゃないから怖いよねー」
結局答えてはくれないみたいだった。
いつの間に来ていた高原さんが「わかります」と乗っかって「でしょ?」と今度は仲間を見つけたときみたいに嬉しそうな感じの先輩に微妙な気分になる。
「だから若尾先輩以外に友達がいなかったって情報は信じられないんですよね」
「格先輩とはずっといるから聞けばいいじゃない、そうすれば他の人とは全くいられていないことをすぐに教えてくれるわよ」
一緒に過ごさない日がなかったと言ってもいいぐらいだからなんでも聞けばいい。
知られて恥ずかしいこととかもないし一人でごちゃごちゃ考えるぐらいならそうした方が彼女のためにもなる。
「もしかして若尾先輩が妨害していたんじゃ? ほら、真白さんには俺がいればいいとかなんとかで――」
「神に誓っていいけどそんなことはしていないぞ、そもそも妨害するタイプなら高原とだって一緒にいさせはしないだろ」
ないない、というかそういうのが少しあればこの状態ではいられないだろう。
「なら……どうしてですか?」
「真白ちゃんが若尾君以外はいらないって考えていたとか?」
「一つ言えるのは拒絶していたわけではないということよ」
自然と人が集まってきてしまう人からすればわからないかもしれないけどなにも悪いことをしていなくたって上手くいかない人だっているだけだ。
「いまだって自然と参加してきたのでやっぱり若尾先輩が怪しいです!」
「そうだそうだー」
「おいおい……そんなことをしたって真白の心が離れていくだけだろ?」
彼は呆れたとでも言いたげな顔でそう言った。
だけど二人の内一人はにやにやしていて、片方は真剣な顔で「本当ですか?」と聞くだけだった。




