04
「おー最近はよく来るようになったねー」
「はい、来てもらってばかりだと申し訳ないので」
「なるほどなるほどー」
階段のところで待っていたのに狙われたかのように遭遇してしまっていた。
私が求めているのは格先輩でこの人ではない、だというのに離れるつもりもないようだ。
だったら私が離れるかと動き出そうとしたところで「ちょっと待ってよ」と止められて動けなくなった。
「そう警戒しないでよ、別に敵視とかはしていないんだよ?」
「そうなんですか?」
「うん、それにこの前のはちょっとやりすぎたって私も反省しているからね」
「でも、格先輩にアピールをするなら大胆にやっていくしかないんですよ、言葉だけでは躱されてしまいますからね」
その後がその後だから不安になるかもしれないけど手に入れたいなら頑張るしかない。
「ありゃ、あはは、アドバイスしてくれるんだ?」
「はい、格先輩が微妙なこと以外についてはいいことですから」
似たようなことがなにもなかったのならなんでとなるし実際はあったのに全て教えてもらえずにいたとしたら寂しかった。
まあでも、相手の人のことを考えて黙ったままでいるのも優しさだと思うからこれは自分勝手な考えでしかないのかもしれないけど。
「でもさ、それで寝られなくなっているわけだから失敗だよね」
「そもそも寝られなくなることがよくわかりません」
「んー日頃から話してはいたけどそこまでは求めていなかったんじゃない? 私が言うのもアレだけど」
「そうなんですかね」
「とりあえず一ヵ月ぐらいは大人しくしておくよ。真白ちゃん、アドバイスありがとね」
どちらにしても話し合いはしてもらいたいところだ。
驚きすぎただけで冷静になったらいい方向に傾く可能性は普通にある。
なんにせよ、よく寝たり食べてもらって元気になってからか。
「いったか」
「隠れて見ていたんですか? 悪い先輩ですね」
「そう言ってくれるな、このまま話したいところだけど昼休みとかにしよう」
「わかりました」
このまま普通に仲良くなって四人で集まるようになってもいい。
何人いても関係ない、それどころかちゃんと仲良くできていれば増えれば増えるほど楽しそうな彼を見ることができるのだからいいことばかりだ。
「やっほー」
「こんにちは」
「真白ちゃんだけ? いつもは高原ちゃんもいるんじゃないの?」
「ああ、お友達に呼ばれていたので来ないかもしれま――来たみたいですね」
微妙な顔をした格先輩の後ろにいて難しそうな顔をしている。
私はよくても知らない人をすぐに歓迎できるときばかりではないということだろうか?
ただどうせ陽キャラさんだから細かくは気にする必要もないだろう。
「ちょっと、勝手にいかないことにしないでよ真白さん」
「はは、ごめんなさい、今日は誘われて無理になるのかと思ったのよ」
「お昼休みは真白さんを優先するって言ってあるからないよ」
「え、本当に?」
「うん、気になるんだったら友達に聞いてくれればいいよ」
疑っているわけではないからそれはしないでいいかな。
「真白ちゃんおかず交換しようよ」
「それなら卵焼きをあげます、あ、今日は私が作ったやつなので期待はしないでください」
母が珍しく寝坊をしたからささっと作って持ってきたものだ。
こういうところでもお手伝いをしておいてよかったということだ、流石にお昼ご飯なしは厳しいからね。
「え、ずるい、それなら私も欲しいよ」
「でも、なくなってしまうから、ウインナーをあげるから我慢してね」
いっぱい食べる人間ではないしそう何個も卵を消費はできないから二つしかない。
私だってお弁当ならではのおかずを食べたいから次まで待ってもらうしかない。
ただ変に時間を置くと期待させてしまうから我慢をするべきなのだろうか……?
「嫌だっ。是恒先輩、ここは公平にじゃんけんといきましょう!」
「はは、それなら私がウインナーを貰うよ、私からは春巻きをあげよう」
「ありがとうございます、それならこの卵焼きは高原さんに――どうしたの?」
変に盛り上がってしまっただけに今更になって微妙になってしまったとかだろうか。
まあ、ここで受け取らなくたって別にショックを受けることもないうえに地味に緊張するからなしでもいい。
「……だって私だけわがままだから」
「あはは、気にしなくていいよ、私は友達らしくおかず交換ができればいいんだからね」
午前中もそうだったけど本当のところがどうであれ大人の対応ができる人だ。
自然とできてしまうところを彼が見られているのもよかった。
「ちょいちょい、若尾君はなんでそんなに静かなの? 女の子ばかりで緊張しているの?」
「ずっと言おうと思っていたんだけど、いいか?」
「うん、どぞ」
「トイレにいってくる!」
えぇ、お尻を押さえつつ走っていってしまったよ……。
先輩はお腹を抱えて笑いつつ「あははっ、私がすぐに連れてきちゃったからか!」と一人楽しそうにしていた。
「もう……若尾先輩って変な人だね」
「そう言わないであげて」
私達だって限界がすぐそこにあったらこんなところでゆっくりもしていられない。
二人には食べさせて私は待っておくことにした。
そこまでかからずにスッキリした顔で戻ってきたからそこはよかった。
「すんすん、前々から思っていたけど真白ちゃんの髪っていい匂いがするねえ」
「そうですか? 六百四十円ぐらいのシャンプーを使っていますけど」
拘りはないからみんな同じシャンプーを使っている、ボディソープも同じだ。
「んーとなると髪だけじゃないのかも? どこらへんが発生源かなー?」
「ちょっとやめてくださいっ、私の真白さんになにをするんですか!」
「おっとと、高原ちゃんは怖いねー」
とりあえず落ち着かせる、冗談から本気の喧嘩に、なんてこともあるから。
「学校では私がいるので真白さんを自由にできると思わないでください」
「そっか」
「大体、是恒先輩は若尾先輩のことが好きなんですよね? そっちに集中しておけばいいじゃないですか」
「あれ、取れるかどうかはわからないけど真白ちゃんの大事な相手なのに取っちゃっていいの?」
「そんなの若尾先輩次第ですからね」
はは、前と言っていることが変わっているよ。
あとただ見ただけだと彼女が格先輩のことを好きでいるけど本人の気持ちを大事にしているようにしか見えない。
あ、私の方は前と変わっていないから是恒先輩が本気になって格先輩が受け入れられそうなら受け入れてあげてほしいという考えのままだ。
「流石真白ちゃんの友達、だけど真白ちゃんに対しては同じようにいられないみたいだけどねー」
「それはそうですよ、だってやっと安定して一緒にいられるようになったんですから」
そうは言うけどこの前も言ったように私達は会話する仲ではいた。
わかりやすく変わっても付いていけているのはそうやって時間を重ねてきたからだ、そうではなかったら私だって拒絶をしていたかもしれない。
「んーなんかそういう言い方をされるとこれまで自信を持てずに近づけなかったように聞こえるな」
「その通りですよ」
「でも、高原ちゃんは友達がいっぱいいるんでしょ?」
「いっぱいと言っても六人ぐらいですよ?」
「それでも真白ちゃんに近づくのに勇気が必要だったのはよくわからないかな」
うん、本人もそうとしか思えない。
だからなんらかの別の理由があったみたいなことになった方がまだ受け入れられる。
まあでも、敵にならないのであればどんな理由からであってもどうでもいいか。
「これぐらいで終わりにしましょう」
「そうだね、ずけずけ聞いて高原ちゃんごめんね?」
「いえ……」
「さ、真白ちゃんの家にいこう!」
これは元々是恒先輩と約束をした状態で出てきていたから唐突というわけでもない。
でも、途中で参加した高原さんにとってはそうだったのか「えっ」と驚いているようだった。
特になにもないなら来てほしいと言ってみると「わ、わかった」と返してくれたけどなんてことはないお家だから緊張するだけ疲れるだけだ。
この時間なら母もいないから私だけだしね。
「おお、こんな感じかあ。ねね、ここに何回も若尾君を連れてきたりしたの?」
「小学生の頃から一緒にいますからね、一緒に寝たことだってありますよ」
「おおっ、それなのによく若尾君は真白ちゃんの魅力に負けずにいるなあ」
魅力……あるのだろうか。
何故か高原さんもこちらのことを気に入ったみたいに来てくれるけど一つもこれだ! というものを出せないから自信を持てない。
「しまった、若尾君も呼べばよかったか、女の子だけで集まろうとしたのが失敗だったね」
ちなみに私は学校から離れる前に格先輩を連れてこようかと言ったものの「ううん、今日はいいや」と断ってきたのが先輩だった。
「はは、それは是恒先輩が若尾先輩といたいだけですよね」
「おー高原ちゃん結構ストレートに言ってくれるねー」
「自分の気持ちに素直になるべきですよ」
「でもさー素直になりすぎた結果があれだからね、好きな人を困らせてしまうなんて駄目でしょ」
そんなことを言ったら私は何度も困らせてきているからこちらに突き刺さる――あ、男の子として意識をしている状態ではないとしても役に立てたことよりもそちらの方が多いのなら考えた方がいいという話だ。
一番悪いのはこういうことを考えておきながら結局は自分に甘くして離れることをしないことだ。
「だから当分の間は大人しくしておくよ、真白ちゃんにも相手をしてもらいたいからね」
「む、なんですぐにそっちに持っていくんですか」
「いいでしょー真白ちゃんだって誰かといられた方がいいはずだよ」
誰かといられた方がいいのは確かなことだけど私のことで時間を使わせるのは微妙だった。
だけどこれも結局口にはできずに来てくれていることに甘えてしまうから意味のないことだった。
「ふぅ、やっと腹が落ち着いたよ」
「なにか変な物でも食べてしまったの?」
自分の許容量を超えてしまうほど食べてしまう人間ではないからそういうことぐらいしか思い浮かばない。
「三日ぐらいなら大丈夫だ」などと言って消費期限が切れた食べ物も食べた過去があるからなのも大きい。
「いや……食べていないと思うけどなあ」
「それならお腹が冷えてしまったのかしら、お昼はお尻を押さえていたぐらいだけど結構ギリギリだったの?」
「ありゃやばかった、あそこで是恒がこっちに意識を向けなかったら漏らしていたぞ」
「ふふ、真剣な顔でなにを言っているのよ」
「真白も気を付けろ」
漏らしたくはないから気を付けるけどすぐにトイレにいける環境ではなかったら涙目になるどころか泣いてしまいそうだ。
だからそういう点でお腹が緩くなりやすい冬にはお家で大人しくしておいた方がいい気がする。
「あー是恒とはどうだった?」
「最後まで楽しくやれたわよ? 連絡先も交換したわ」
「そうか、仲良くなれているようならよかったよ」
今度の土曜日に一緒にお出かけする約束をした、もちろん高原さんもいるから多分今日みたいにやれると思う。
最初から最後まで微妙な雰囲気にさせずに帰ってこられたら勝ちだ。
というかこうしていちいち聞いてくるということは一応は効果があったということだろうか?
「でも、私としてはあなたにちゃんと相手をしてもらいたいのよね」
「ん……? ああ、真白がじゃなくて是恒の相手をってことだよな」
「ええ、あ、私もなのは変わらないけれど」
これはずるいか。
「はは、相手をしなくていいとか言われたら泣くからありがたいな」
「あり得ないわね、あなたなら相手のことを考えて『わかった』で終わらせてしまえるはずよ」
小さい頃に怪我をさせてしまっていまは来ないでほしいと言って距離を作ったときも「わかった」だけで終わらせてしまったから。
しかも勝手に離れておきながら寂しかったとかぶつけてしまったのに「そんなの気にしなくていいんだよ」と言って頭を撫でてくれたぐらいで。
「どこの俺だよ」
「どこのって目の前にいるあなたよ」
「ないぞ、真白が相手のときだけは絶対に無理だ」
「なにを――別に無理やり合わせようとしなくていいのに、格先輩っていつもそうだよね」
例えば猫ちゃんを拾って飼い始めた人がいたとして、その人がちゃんと責任を持ってお世話をするのと同じような気がする。
問題なのは猫ちゃんみたいに可愛くはないということだけど……努力で可愛気のある存在にはなれるかもしれないものの物理的には難しいことだ。
「なんで喋り方を戻したんだ?」
「この方がちゃんと伝わるかなと思ってね」
「嫌ならそれでいいけど真白はあっちも似合っているぞ」
「あ、やっぱりお母さんが狙い――ははは、冗談だよ、あ、冗談よ」
喋り方一つで変わったりするのは事実だ。
仮に先輩が敬語キャラだったらいまよりも破壊力が増していたかもしれないしいまの喋り方だからこそ実は効果があって影響を受けているのかもしれないし。
「よしよし、いつもありががとう」
「逆じゃね?」
「たまにはあなたもされる側でいいのよ――私のは駄目よ」
「なんでだ?」
少なくとも先輩とのそれが片付くまでは駄目だろう。
応援的なこともしてしまっているから余計に気を付けなければならないのだ。




