03
十二月になった。
気温はより下がるけど外にいる人も少なくなってより静かになるのはいいことだった。
あと昔の冬とははっきりと違う点がある。
「真白さんにはこれかな」
春みたいな感じの高原さんがいるからだ。
「流石に冬にお腹を出すのは無理よ」
「お家限定でいいんだよ、それで若尾先輩に見てもらおうよ」
「そうしたら絶対に『風邪を引くからやめておけ』と心配をされるだけだからやめておくわ」
そう、静かなところは好きでも寒いのが大得意というわけではないのだから無理だ。
ちゃんと上から下まで対策してやっと元気に過ごせるというだけ。
そもそも服のパワーを借りたところで元々の魅力がいまいちだから大して役には立たない。
「デートのつもりで一緒にお家で過ごしたりお出かけしないからいまの中途半端な状態になるんだよ」
「デートとか考えたこともないわね」
解散になるまでお友達らしく楽しくいられたらいい、もちろん私だけが楽しくいられても駄目だから格先輩にもそうであってほしい。
「そう、だから少しずつ意識を変えていくの、そうしたらいつの間にかただお出かけすることすら難しくなるんだから」
「それは嫌よ」
なんで敢えていまの落ち着ける環境を壊そうとするのかという話だろう。
「だけどそうでもしないとずっと変わらないままだよ?」
「格先輩がいてくれるのならそれでいいけれどね」
「駄目だよ」
「はは、私のことで頑張ろうとしても無駄になるだけよ」
変える気があって少し意識したから変わるということならもうとっくに結果が出ているはずなのだ、なのにそうはなっていないのだから少ししか関われていない彼女でもわかるはずだ。
あともっと自分のことに集中するべきだと思う。
恋に興味があるのなら好きになれる人を探してその人との時間を増やした方がいい。
「ここに座って」
「ええ」
「この奇麗で長い髪も活かさないとね、四月からずっと見てきたけどまとめたりもしないからたまにまとめたらドキッとするかもよ?」
母の真似をしてずっと髪を伸ばしていた。
うんと小さい頃はずっと母みたいになりたいと思っていた、だからお洒落も意識していたけど早い段階で壁にぶつかって他のところの真似はやめた形になる。
「よし」
「どう?」
「眼鏡をかけたらもっといいかも」
目も昔からよかったから眼鏡とは縁がなかった、いやなくていいか。
鏡に映ったいつもと髪型が違った自分を見ても新鮮さはなにもない。
パーツがそのままだからこんなものだろうというそれ、そもそも眼鏡とか道具に頼らなければいけない時点でたかが知れているということではないだろうか。
っと、まただ、彼女を前にするとどうしてマイナス思考になりがちなのか。
本能が彼女に負けていることをわかっていて卑屈になってしまうのだろうか?
「高原さんは好きな人とかいないの?」
「いないかな、それに一回だけ男の子と付き合ったことがあるけど長くは続かなかったんだ。それで中学のときに恋愛相談を持ち掛けられてね、それからは協力する方が好きになったの。だからいまは真白さん達のことで頭がいっぱいだよ」
「切り替えるのが上手なのね」
私達との時間も増やしつつちゃんと他のお友達とも仲を深めているからすごい。
「あー授業とかでも集中できているように見えるかもしれないけど実際は……」
「集中できていないの? それなら駄目じゃない」
これほどお前が言うなとツッコまれそうなことはない。
いやもう本当に誰かがいてくれるのはいいけどその関係でそわそわしたり考え事が捗ってしまうから大変だった。
それでも私の倍以上お友達がいる彼女からすればもっと大変だろうから? なんとか表に出さずにやれている時点で違うというか。
「私としては好きだけど内に隠すしかないみたいな展開が一番なのっ、それでね、真白さんはアレだけど若尾先輩がそうなんじゃないかって期待しているの!」
「落ち着いて、それに格先輩はずっと昔からああいうことばかりを言ってきているからわからないわよ」
「だからこそだよ!」
他人のことでそこまで盛り上がれることがすごい。
あ、でも、他人のことで同じように喜んであげられるのならお友達が多いのも納得ができる。
「あー今日だって若尾先輩がいてくれたらなあ」
「呼ぼうか?」
「ううん、それはいいよ」
難しい。
髪の方も終わったみたいだからベッドに寝転ばせてもらう。
このお部屋に格先輩以外のお友達的存在が入ったのは初めてだ。
こうして時間が経過したいまとなっては落ち着けているけど実は遊びにいきたいといわれたときに一瞬ドキッとしたのも本当のことで。
「ごめん、疲れさせちゃったね」
「別にあなたが原因ではないわ、私がただ単にこうしていることも好きだというだけよ」
一番好きなのはリビングだけど。
あそこなら意識をしなくても家族と話せる時間が増えるからだ。
そのためそこまで引きこもっているわけではないから勘違いはしないでほしかった。
「今日も元気ねえ」
見る度によくあれだけの人といて大して問題にも繋がらずに仲良くやれているなあと思う。
こうして高原さんを見ているとたまにお友達さんと目が合いそうになるから基本的にはすぐにやめるけどなんとなく目で追ってしまっていた。
「ふふ、ふふふ」
でも、こんなことをしていると本人からすればわかるみたいで近づいてくる度に壊れたロボットみたいになるのだ。
こんなことを繰り返して疲れないのかとこれまたお前が言うな系のことを言うことになる。
「いやー真白さんもグループに入っちゃう?」
「高原さんは少し変わったわね、少し前までなら間違いなくぺちぺち叩きながらは言ってきていなかったわよね」
地味に痛いからやめてほしい。
だけどこういうのもお友達同士のやり取りらしく感じるから微妙な状態だ。
自分の中に全く逆の感情同士があって疲れるとかアホらしいとは思うけど。
「だって嬉しいんだもん、真白さんが見てくれているんだよ?」
「そんな高嶺の花みたいな存在が相手をしてくれているわけじゃないんだから」
「む」
そう、そこで乗っかれるはずもない、格先輩だって真顔で固まるところだろう。
一回止まってしまえば落ち着けるもので静かに席に戻ったから今回はやめて次の時間に格先輩に会いにいくことにする。
直前に微妙なことや興味を持つようなこともなかったから集中できたのはよかったかな。
「あれ」
朝から眠そうにしていたから意外でもなかったけど今日は突っ伏しデーのようだ。
となれば起こすわけにもいかないから戻ろうとしたら「若尾君だよね? ちょっと待ってて」と女の先輩が動いてしまって待つしかなくなった。
この階に上がってきたのは必要なとき以外は三回目だというのに覚えているなんてすごい。
「ふぁ……真白か、今日は悪いな」
「寝られていない……んですか?」
近くに年上の人がいっぱいいるから流石にここで敬語をやめるのは無理だった。
「おう、最近はちょっとな、嫌な夢ばかり見るから睡眠不足なんだよ」
「それだと困りますよね。そうだ、足を貸しましょうか?」
「なら昼休みに頼む」
「はい」
よしきた、こんなことは滅多にないから絶対に役に立ってみせる。
どんな邪魔が入ろうと絶対にやる、高原さんが付いてきたって関係ない。
ということでお昼休みになった瞬間にいつもの空き教室に移動してやる気を出して待っていた。
「よう」
「さあ使って」
「おう、いまは食欲よりもそっちだ」
なんていい日なのか。
高原さんにしていたときみたいに髪を撫でておくだけでもっと上がっていく。
その途中、流石に今日は来なかったかとあの子のことを考えたところでこちらを見る二つの瞳と目が合って驚いた。
「そんなところで見ていないで入ってきなさいよ」
「あはは、邪魔をしない方がいいかなって考えたんだけど離れるのももったいないしって感じだったよ」
「いいから来なさい」
そもそもある程度したところで起こして理由を聞かなければならなかったから誰がいようとね。
「んが……ああ、高原も来ていたのか」
「それでどうして寝られていないの?」
そこまで残っていないからそうゆっくりもしていられない。
少しだけでも進むためにも言えることなら吐いておいた方がいい。
「……あんまり言うべきじゃないんだろうけどさっきの女子がいたろ? この前誘われて付いていったら急に抱きしめられてな、あれから全く集中できていないんだよ」
「なんだ、普通にいい話だね」
嫌な夢を見ていて寝られないことに繋がってはいないけどそこに関しては間違いなくそうだ。
言葉で伝えても躱されるだけだから物理的に行動してしまうのが一番効果があると思う。
だからその人のきっと頑張ってきたけどどうにもならないから一番の勇気を出したということではないだろうか。
この途中のところで大きく出せれば告白のときも動きやすくなるかもしれないし上手だ。
「ちょ、真白さんっ?」
「え、違う? 私はそうとしか思えないけど」
「いい話じゃないんだよなあ……だって少し前まで俺の友達と付き合っていたからな」
まあ、そういうのもありがちな話ではないだろうか。
嫌いになるのも一瞬、好きになるのも一瞬、とまではいかなくてもすぐに変わったりすることもあるだろう。
「でも、振られたり振ったりしたらいつまでも引きずっとくわけにもいかないでしょ?」
「一週間前の話だぞ」
「だけどその前から格先輩のことだって見てきたわけだから、ね?」
「いや、ね? と言われても困るな」
必要なことも聞けたから黙るか……。
こういうときでも高原さんは邪魔どころか必要な存在でしかなかった。
利用してしまっているようなものだけど感謝するしかない、ありがとう。
内がどうかはわからないもののいまは私の方が一旦時間を貰いたかったからそこまで余裕のないお昼休みでよかったね。
「うぅ……なんで真白さんってこうなんだろう」
「急ね」
私のことでテンションを上げたり悲しそうな顔をしたりと忙しい。
嫌になって距離を作らないことは本当にすごいことだと言えた。
「んあ……真白の足ってすごいな、マジでよく寝られるよ」
「硬くなかった?」
「ああ、適度な柔らかさで逆にいいんだよ」
とはいえ喋りたいのに喋れないのがもどかしいところだ。
それでも表に出さずに表に出てきた、もう時間も時間だから帰らなければいけないからだ。
「自分が困ったときだけ利用するようなことをして悪い」
「なんで、格先輩はいつも私のために動いてくれているでしょ?」
「そうか? 真白が合わせてくれているだけだろ」
「嫌な夢ばかりを見ていたのもあってマイナス思考だね」
お前のために動いてやっているだろと偉ぶってもいいぐらいだった。
でも、寝不足とかそういうわかりやすい状態でなければなにをすればいいのかわからないから延々平行線になりそうだ。
「ねえ、わからないと思うけどどうすればその状態から変われる?」
「真白がいてくれれば、だな、あとは高原と仲良くできていたらか」
「わかった、私ならちゃんといるからね、それに高原さんとは仲良くできているから安心してよ」
元気になってくれればいいな、そうでもなければふざけることもできない。
「だあ……せっかく真白から来てくれたのにもったいないことをしたよな俺」
「はは、もったいないことってそれは言い過ぎでしょ」
「だってレアだろ」
「それなら明日もいくからノーマルになるようにするよ」
刺激したいわけではないからそれでも教室辺りで話すのはやめよう。
幸い、授業中に使わなければスマホの使用は禁止されていないからその都度メッセージでも送ればいい。
「真白」
「わ、はは、なに?」
「いつもありがとな」
「はは、どういたしまして」
「じゃあおやすみ」
お家に着いてから十九時までの約三時間も寝ていたのに寝られるのだろうか。
下手に寝かせてしまったせいで夜に寝られなくなってしまったら本末転倒だからこれは失敗をしてしまったかもしれないと不安になり始めた。
「ぷるぷるしてどうしたの?」
「お母さん、逆効果になってしまったらどうしよう」
今日は素直に甘えてくれたけどいつもあんな感じとは限らないから怖くなる。
なにが怖いって結構内に抑え込むことが多いことだ、長年一緒にいても変わらなかったからどんどん酷くなっていそうで微妙だ。
「だけど寝られていなかったのでしょう? でも、あなたの足を借りたらすぐに寝られたという話じゃない、逆効果になんかならないわよ」
「そうかな、そうだといいけど」
よし、眠そうにしていたらまた貸そう。
それで足を好きになってもらえば自然と求めるようになって格先輩との時間も増えていくはずだ――なんてね。
そういう変なのは求めていないからとにかく元気になってくれればそれでよかった。




