02
「後藤さーん」
「あら、どうしたの?」
「え、後藤さんこそどうしたの……?」
このことは気にしなくていい、意外と楽しくて続けているだけだ。
ただ、続けておくとあの人の母への気持ちが益々強くなってしまうのが問題なだけだ。
「あのさ、また三人で集まってお昼ご飯を食べようよ」
「他のお友達はいいの?」
「うん、今日は特に誘われてはいないから大丈夫だよ」
「わかったわ、それなら連絡をしておくわね」
「うん、お願いね」
うーん、また妹を見るかのような顔をしたらどうしよう。
それでも受け入れたからにはちゃんと守る人間なので連絡をしておいた、すぐに『わかった』と返ってきたのも悪くなかった。
いまいち集中しきれない感じで午前中を過ごして、お昼休みになったら高原さんと教室をあとにして空き教室へ。
「待たせたな」
「こんにちはー」
「おう」
とりあえずは二人に任せて母作のお弁当をちびちび食べていくことにした。
学校に来ているのに集中できずに微妙な成績になったら嫌だから少しだけでも変わってもらいたい。
なにも特別視してほしいとかではなくてただお友達として仲良くしてくれればというだけ、それに口にするつもりはないから押し付けにもならないからどうにかね。
「若尾先輩には後藤さんのことを教えてもらいたいんです」
ずっと一緒に過ごしてきた人だから無駄な時間にはならないとしても本人に聞けばいいと思う。
人が一人も間に入らないぐらいの距離に本人がいるのだから。
「おう、知っている範囲で教えてやるぞ」
「それなら後藤さんはお付き合いをしたことってあるんですか?」
「ないな、ゼロだ」
「お家ではどんな感じなんですか?」
「家では結構ごろごろ寝転んでいるな、意外と菓子とかは食べないぞ」
手が汚れるのが嫌だし、箸を持ってくるのも面倒くさいから基本的にお菓子は食べない、というのは二つ目の理由で一番の理由は母が買ってこないからだ。
だからもう四十を超えているのにいつまでも細いままだ、その状態で胸もそれなりにあるからずるいと思っているぐらい。
「お家では真面目にお勉強をしているのかと思っていました」
「いやそりゃテスト週間とかは真面目だぞ」
「それ以外のときもです」
妄想が得意な女の子なのかもしれない。
こうなってくると予想が外れて来なくなる可能性の方が高い。
そうしたらまた誰か一人とぐらいは話せるようにと彼から言われるようになるから……。
「期待に応えられなかったみたいでごめんなさい」
「いや、逆に安心したよ、凄く距離がある子だと思っていたからね」
「高原さん、ありがたいけれど少し心配になるわ」
「いやいや、後藤さんの自己評価が低いだけだよ」
グサグサ言葉が刺さっているけど、意地悪がしたいわけではない……はずだ。
「若尾先輩、一緒に後藤さんを支えましょう」
「おう、高原は仲間だ」
「はい、仲間です」
ま、まあ、仲良くできているみたいだからいいか。
みんな食べ終わって更に緩くなったから教室内を歩いておくことにした。
積極的に動くことで少しでも消費しようという狙いがある、効果も案外馬鹿にならないぐらいになっている。
「そろそろいいですよね、若尾先輩と後藤さんのことを聞きたいです」
結局こうなることが面白いね、なんて考えている場合ではない。
だってお付き合いはしていないのだからお友達とか親友とか言えてもそれぐらいだろう。
「俺らは小学生の頃から一緒にいる親友だな」
ほら、彼だってこういう風に答えるしかない。
「おお……だけどだからこそ女の子としては見られないというやつですかね、それとも後藤さんのことを考えて見ないようにしているだけなんですか?」
「真白にちゃんと仲がいい存在ができてそのうえで求めてきたら俺は応えるぞ、一緒にいるの好きだからな」
これも彼女の前でも変わらず、か。
私がちょっろい人間だったら何回勘違いしてしまうのか。
「それは同性でも?」
「おう、仲良くなってくれればそれでいい、そのうえで求めてくれたら嬉しいぞ」
「それなら私が仲良くなります」
「ちゃんと高原にその気持ちがあるならいいけど、そうじゃないなら微妙だな」
「あります。そもそも、私は前々から後藤さんに話しかけていましたからね」
体育のときとかもよく喋りかけてきてくれて緊張しないで済んだことも多い。
自分から行ったりはしていなかったけど拒絶をしていなかったのは彼女が優しかったからだ。
私は人間関係については恵まれていると思う。
「だってよ?」
「私も高原さんなら大歓迎だよ――あ、大歓迎だわ」
「それならまずは連絡先を交換しよう」
一緒にいすぎるせいでほとんど使用していなかったけど、これはわかりやすく大きい変化だ。
「後藤さんの連絡先がずっと欲しかったんだ、だから願いが叶って嬉しいよ」
ただのお世辞だとしても悪い気はしない。
悪用のしようもないし、ここは半分ぐらい信じてしまっても悪くはない気がした。
「いっぱい送られてくる」
「なんの話?」
「あ、お友達ができて連絡先を交換したんだけど、その子からメッセージがいっぱいきていてね」
「いいことじゃない」
「うん、こんなことは初めてだから驚いているだけで嬉しいよ」
格先輩に興味を持ったとか、他の子に興味を持ったとかの内容ならもっとよかったけどね。
私のことを何回も聞かれても答えられる内容のバリエーションが少ないからすぐに飽きられてしまう。
「でも、格君ともいてほしいわね、あの子は本当にいい子だから」
「離れるのは無理だよ」
「別にお付き合いとかはしなくてもいいけど、お友達としてはいてもらえるように頑張りなさい」
「もしかしてお母さんがその気になっていたりして?」
「馬鹿言わないの、私はお父さんが好きよ」
よかった、あと会いたくなってしまったからいまから突撃してこようと思う。
課題やお手伝いも終わらせた状態だったからやることがなかったのも大きかった。
「あれ、なんで外にいるの?」
「真白こそこんな時間になにをしているんだ?」
しかもこんなに私のお家寄りのところで、怪しい。
「質問に質問で返さない、と言いたいところだけど、格先輩といたかったから出てきただけだよ」
「はは、もう喋り方が戻っているな」
「どっちが好き?」
「どっちもいいと思うぞ、それに真代さんの真似をしろって言ったのは俺だしな」
それならもう少しぐらいは母の真似をしてみようか。
高原さんにとってもあっちを多くしておけば自然に感じるようになるかもしれない。
「それで格先輩はどうしてこんなところに?」
「家にいても暇だったから走っていたんだよ、つか女子なんだから夜に出歩くなよな」
「それなら私も走る」
ここで帰ったらせっかくいい感じだったのにもやっとしたまま寝ることになりそうだから付き合ってもらおう。
中学のときと比べれば間違いなく運動不足だからそういう点でもよかった。
「え、いや嘘だよな?」
「え、逆になんでそんな反応をするの?」
私は基本的に誘いを断ったりはしな、
「だっていこうぜって言っても付き合わないのが真白だろ」
うん、しないのだ。
それでもどうしても断らなければいけないときもあってそういうときの印象が強くなりやすいだけではないだろうか。
例えばお腹が猛烈に痛いときとか、お小遣いを使い切っているのにお買い物にいこうと誘われたときとか、相手に気を使わせてしまったら申し訳ないから最初から避けているだけだった。
「いまはいい気分だからいくの」
「そうか、じゃあ走るか!」
こういうところが本当に好きなところだ。
何度もしつこく誘ってこないし、参加しようとしても抵抗をしてきたりもしない。
突然、転びそうになってもさっと体を支えてくれるところも……。
「ごめんね?」
「気にするな、だけどやっぱり夜に走るのは危ないんじゃないか?」
あー……微妙なところを見せたせいで止めようとする彼になってしまった。
「よいしょっと」
「きゃっ――あ、ごほんごほん」
「家まで運ぶから大人しくしておけ」
運ぶにしてもお米とかそういうのでもないのだからおんぶとかでいいのに彼ときたら。
でも、楽でいいと考えてしまっている自分もいたから素直に甘えておくことにした。
「悪い、こうして触れるのも本当はよくないよな」
「気にしなくていいよ」
「そういうわけにもいかないだろ、下ろすぞ」
少し前まで汗をかいていても近づいてきて頭に触れたりすぐに持ち上げてきたりしていたのに急にどうしたのか。
あ、私以外の女の子と過ごしたことで――って、別に同級生の女の先輩と楽しそうに話しているぐらいだからそれぐらいで変化したりはしないか。
それならなんなのか。
「じゃ、暖かくして寝ろよ」
このまま「うん」とだけ返して帰らせたら終わってしまう気がする。
「ねえ、一緒にいられなくなるとか嫌だからね? 私、格先輩といられなくなったら本当に駄目になるから」
これはどれだけ目を逸らそうと自分の中にあるものだから絶対に避けられないことだった。
こういうのが重いからとかなら……彼のためにも離れるしかないけど、そうではないのならちゃんといてほしい。
「俺だって真白といたいからそこまで極端なことはしないよ、ただ気を付けなければならないことだってあるだろ? 仲がいいからこそだ」
「それならいいけど」
「おう、俺は絶対にいなくならないから安心しろ」
「約束だからね」
「おう!」
これが彼との最後の会話だった、とかにならなければいいけどなあ。
時間が経過してみないとわからないことだから結局もやっとした状態で寝ることになった。
「お母さんおはよう」
「おはよう、もう朝ご飯はできているから早く顔をあらったりしてきなさい」
「うん」
しゃこしゃこ歯を磨いたり、もしゃもしゃご飯を食べてから制服に着替え外に出る。
それで集合場所へといくと、
「よう」
「おはよう」
今日もいてくれて少し安心できた。
「ねえ、手を握ってもいい?」
「おいおい……もう昨日のことを忘れてしまったのか?」
「お願い」
「んー学校までならいいぞ」
昔のことを思い出せて一人ほわほわしていた。
ただ学校でもその状態が続いたから高原さんに心配をされてしまいなんとか切り替えたのだった。
「これでよし、っと」
授業で調理実習があって高原さんとは全く別の班になったけど、特に問題もなく終えることができた。
常日頃からではなくてもお手伝いをしておいてよかったと思った、なんなら結構任されて別の意味で緊張してしまったぐらい。
だけど、やっぱり母が作ってくれたご飯が一番だなと考えつつ食べたかな。
「後藤さんお疲れ様ー」
「高原さんもお疲れ様、間違いなくあなたはあの班のリーダーだったわね」
こちらも同じような子が指示してくれたから楽でよかった。
そういうことまで求められていたら逃げ、はしなかったけど嫌になっていたと思う。
まあ、授業の時間で集まっているわけだから嫌になっていても合わせるしかなかったとしても、そうではなかった今回みたいな場合とは違うから本当にありがたかった。
「あはは、だけど色々と信じて任せてもらえたのは嬉しかったな」
「そういうところが可愛いわね」
「でも、後藤さんと同じ班がよかったな」
「これから先もこういうことはあるし、チャンスはあるわよ」
さ、あと一時間頑張ればお昼休みだ。
本当ならクッキーとかを作って格先輩にあげたいところだったけど、そういうのではなかったから諦めるしかない。
それなら今度一人で作ってみようかと別の意味で頑張ってしまった結果、今回もあまり集中できずに午前中が終わってしまった。
「ふぅ」
「疲れているの? 私の足でも使う?」
「大丈夫よ、それよりあなたが疲れているんじゃない? 格先輩が来るまで足を貸すわよ」
「それなら借ります」
陽キャラさんはなにもかもが違うみたいだ。
許可を貰ってから髪を撫でていると「その喋り方の後藤さんが好きだな」と言われてしまった。
楽しく続けているし、私としても悪くはないと思っていたから自分ではない存在にそう言ってもらえるのは嬉しかった――のになんなのか。
それならいつものあれは駄目だったのかと無駄にマイナスに考える自分がうざったい。
「よーう」
「こんにちは」
「疲れることでもあったのか?」
「いえ、甘えているだけです」
「はは、そうか」
それでもそのうざったい自分も消えて単純に喜んでいるわけだから面白い話だ。
というか、どれだけ彼の存在が大きいのかという話になっていく。
そして、それを直接言えてしまえる現時点では特別視しているわけではないのかなと。
「むぅ、まだまだ好感度が足りないみたいだね」
「焦るなよ、普通にいればいいんだ」
「はい、参考にさせてもらいます」
うん、焦る必要は全くない。
途中で対象が彼に変わったとしてもまだ二年生で時間はあるから。
彼女らしく存在してくれているだけでよかった。




