01
「いってらっしゃい」
「うん」
冬は静かな感じで一番好きな季節だ。
だからといって嫌いな季節は特になくて、それぞれの季節にそれぞれのよさがある。
家から学校までそれなりに距離があることも私にとってはプラス要素だった。
というのも朝はゆっくり考え事をしたりしながら歩いていたりしたいからだ。
賑やかなのが嫌とか教室が嫌とかでもないけど、朝にちゃんとそういう時間を確保しておくことでしっかり切り替えができるから。
それができなければどこかしゃっきりとしないまま一日を過ごす羽目になる。
「よう」
「おはよう」
若尾格先輩だ。
これは元々約束をしていることだから違和感はない、けどよく付き合ってくれるなあとはいつも思う。
まあ、高校になって出会ったとかでもなくて小学生の頃から一緒にいるから、いやでもそれにしてもという話だ。
「真白、今日こそは誰か一人でもいいから会話をしろよ」
「それならもう達成しているね」
「同級生でだ、いいな?」
「なんで格先輩は同級生じゃないの? 格先輩がいてくれれば楽でいいのに」
「楽をしようとするな、昔からすぐに俺を頼ってそういうところが真白の悪いところだぞ」
真っ黒でもないものの真っ白でもないから名前負けをしている気がする。
というか、こうして彼と登校しているのならゆっくり考え事はできていないよね。
となれば、これも当たり前の内に入ってしまっているわけで、寧ろこれがないとしゃっきりしないまま過ごすことになるのかもしれない。
まあ、彼と登校できなかったときがほとんどないからわからないけど。
「ほら、クラスメイトがいるぞ」
「待って、クラスメイトのことを把握しているの怖くない?」
「そりゃ毎時間とまではいかなくても真白の教室にいくんだからわかるだろ。前にも言ったけど俺は人の顔を覚えるのが得意なんだよ、だから顔限定なら少しの変化でもすぐに気が付けるぞ」
「ふーん、なら今日の私はどう?」
なんて、昨日と全く変わらない私でしかない。
お化粧もしたりはしないし、彼のことだから「普通だな」と言ってくることだろうな。
「そうだな、六時間ぐらいしか寝られなかっただろ?」
「え、こわ……」
「はは、自分から聞いておいてなしだぞ」
もうその能力を役立てる仕事を選んだ方がいい。
「着いたな、今日も頑張ろうぜ」
「うん」
ちゃんと登校さえできればあとは真面目にやっておくだけで問題もなにも起こらない一日となる。
あ、ただ全ての時間を真面目には難しいから適度に抜きつつ頑張るのが大事だ。
「あ、後藤さん少しいいかな?」
「うん、大丈夫だよ」
この子は……あ、高原さんだ。
委員会や係で一緒とかではないものの、ちょくちょく話しかけてきてくれるから彼女と一緒にいるところを格先輩に見てもらえれば満足してくれるのではないだろうか。
「私、みんなと最低でも一回は一緒にお昼ご飯を食べたいんだよね、だから付き合ってほしいんだ」
「先輩もいて大丈夫?」
「お、男の先輩?」
「うん、結構大きいけど優しい人だよ」
頭はじょりじょりしていて、体はがっちりしていて、寝転んでいたらダイブしたくなるぐらいの安定感があるぐらいだった。
「だけど頼んでいるのは私だからね、それでもいいからお願い」
「わかった、それなら空き教室にいこう」
急にメンバーが増えていても慌てたりしないのがいいところであり、面白くないところだった。
あと誰とでもすぐに仲良くなれるところも微妙だ、だってその場合は放置されることになるから。
「へえ、真白はちゃんとやっているみたいだな、安心できたよ」
「あと人のために行動できる子です」
「私が?」「真白が?」
やばい、もしかしたら彼女は人違いをしているのかもしれない。
係とか委員会のお仕事以外で誰かのために動けたことなんてないぞ……。
あ、最低限やらなければいけないことはやるけど、本当にそういう人間だから勘違いであったとしても申し訳ない気持ちになってきた。
「本人はともかくどうして若尾先輩もそういう反応をするんですか?」
「いやだって真白は他者と関わろうとしないからな」
彼は彼で自分を例外として扱うからよくわからない。
一緒にいたいのに拒絶をして一人で過ごし続けているわけではないのだからいいだろう。
というか、寧ろ一人の時間が少ないよ、放課後だって部活をやっていないのもあって彼はお家に来てくれたりするのだから。
「え、そうなんですか?」
「それは高原の方が近くで見ているのもあってわかるだろ?」
「うーん……」
「とにかく食べよう、真白のことについては後で色々と教えてやるから安心しろ」
「お願いします」
なんだ……? この彼女を見る彼の顔は。
「ん? なんかついているか?」
「ううん、あ、なんでもありません」
「なんで今更敬語なんか使っているんだ?」
「余計なことを言わずに食べてください」
こう……まだ女の子として見てくれている方がよかった。
妹のことが大好きなシスコンのお兄ちゃんみたいな顔をしているのが微妙だった。
「あれは真白の意思で近づいたわけじゃないな」
「それよりも妹を見るかのような顔で見るのはやめなよ」
「なんの話だ?」
く、自分の顔を自分で見られないからこういうときに延々平行線になるのだ。
これなら高原さんに怪しまれてもいいから写真でも撮っておくべきだった。
「それより敬語を使ったりなんかするなよ、寂しくなるだろ」
「中学三年生ぐらいまではずっと使っていたけどね」
常識はあるから一つしか違わなくても相手は年上ということで敬語は守り続けていた。
何回頼まれてもそうだったからずっと続いていくものだと思っていたけど、意外とそうはならなかったことになる?
「あれ、じゃあなんで逆にやめてくれたんだ?」
「格先輩のお友達さん相手に誤魔化すときに敬語をやめたからだね、そうしたら頼まれていたのもあってなんで続けていたんだろうって思ってさ」
「あーしつこく俺らの関係を聞いてきたよなあいつ。いまは別の高校にいったから落ち着けているけど、そうじゃなかったら疲れる毎日だったかもしれない」
「格好よくてもああいうところはマイナスだよ」
卒業式のときにやたらと「格のことをよろしくね」と頼んできていたものの、私はお世話になる側だったから微妙な感じになりつつもわかりましたと無理やり合わせるしかなかった。
「お、ああいうのがタイプなのか? 連絡先は交換してあるから呼んでやろうか?」
「私は格先輩、あ、格君がいてくれればいいよ」
「嬉しいことを言ってくれるなあ」
「はい」
毎日絶対に一時間以上はいてくれていることだから期待をして待ってみた。
だというのに彼は「ん? どうした?」とわかっていないみたいでなんでもないと答えるしかなかった。
まあ、他の誰かと過ごしたうえで来てくれているだけだからあくまでおまけ的な感じでしかないか。
それこそ妹のように見られているのは私、という話ではないだろうか。
「ほら格君、ここに寝て」
「おう」
「それで私は君のお腹に頭を預けるの、はあ~楽でいいな~」
「そうやって甘えられる存在ができればいいんだけどな」
「だから格君でいいでしょ?」
想像上の人物とか幽霊とか作った人間とかでもないのだから。
「いや、それだと真白のためにならないからな」
「あ、ちょ?」
「はは、あちょってなんだよ。ふぅ、さて、真面目に話し合おうぜ?」
今日の高原さんみたいに話せる人はいてもお友達とまではいっていなかった、だからそれこそそういうことに関してはずっと見てきた彼はわかっているはずなのに意地悪だ。
「誰か友達ができたうえで真白が俺を求めるならそれはいいんだよ、だけどいまのままだと違うだろ」
「違うかなあ?」
「違うよ」
出た、今度は親みたいな顔だ。
父もこういう顔をしてよく話をしてくるから付いていけなくなるときがある。
だってこういう顔の前だとなにかを言っても言い訳みたいになってしまうからだ。
「そうだな、真代さんの真似をしてみたらどうだ?」
「お母さんの真似とか無理だよ、だって初対面の人が相手だってさも前々からお友達でしたみたいに話せる人なんだよ?」
この前なんてお買い物にいったはずなのに食材達と一緒にそこで出会った人も連れ帰ってきたぐらいだから驚いた、なにが驚いたってリビングでだらだらしているところにそれだったから心臓に悪かった。
お部屋に帰ることもできずに愛想笑いを浮かべる繰り返し、しかも最後にはべろべろに酔ったその人をお家に着くまで支えることになってしまったぐらいだから正に地獄の時間だった。
絶望的に無理ではなくても限界がくるというやつだ。
「だからそれを真似をしてみるんだよ、血が繋がっているんだからワンチャンいけるかもしれないぞ?」
「じゃあ私が陽キャラさんみたいに行動しているところ、想像できる?」
「真白が陽キャラみたいにか、そうしたら明るくなって名前に負けないようになっていいな!」
「格君が明るく照らしてくれればいいよ」
とにかく、いい加減にそっち方向で期待することをやめるべきだ。
そもそも、後輩が無理をしているところを積極的に見たがる方がおかしい。
そしてそれが嫌なら距離を作るべきだけど、何故かこれまで色々と言いつつもいてくれているのだ。
「ただいま――また来てくれたのね」
「はい、俺も真白といたいですからね」
「いつもありがとう、真白もちゃんとお礼を言っておきなさい」
「いつもありがとう」
言えるときに言っておかなければならない、あとここでなら母もいるから受け入れられないこともないだろう。
「そうだ、喋り方を変えてみるのはどうだ? それこそ真代さんの真似をしてみろよ真白」
ああ、そういうことか。
いや、これまでも怪しく感じたときはあったけどこれは気持ちがいい。
鼻水がずっとつまっていたのに小さなきっかけ一つでつまりがなくなったときぐらい気持ちがよかった。
「ふふ、お母さんのことが好きなのね? でもね、お母さんにはお父さんという旦那さんがいるから諦めなさい」
「真代さん悪い、真白が壊れちまった」
「ふふ、ふざけたいお年頃なのよ」
あれ、真似をしてみろと言われたからしてみたのに壊れた扱いはあんまりだ。
気に入らなかったからつねる――ことはせずにお菓子を食べることでなんとかした。




