第6話 本物の王子様の求婚劇
そして、現在――。
「言質は取りましたよ!アレクシス殿下!」
今まで隣で俺の演技に付き合ってくれた『恋人役』の女性が、バサッと茶髪のウィッグを投げた。
俺の目の前でキラキラと光に反射して舞う、ピンクゴールドの髪。
その、髪を靡かせて、パーティー会場の壇上にいる国王へ高らかに宣言した。
「――陛下!今の誓いをお聞きでしたよね?この方は、神の名のもとに私、エリーゼ・ルーベンスに愛を誓いました!私も神の名にかけて、アレクシス・バートランド殿下を生涯愛する事を誓います!」
「リゼ!? は!? え、なんで!?」
あまりにも驚いて、声が上擦る。
周りの目を気にせずに、エリーゼの顔を確かめる。ずっと隣にいた真っ赤なドレス。肌の露出が多く、派手な化粧で気づかなかったが、その顔はエリーゼのものだった。
「その場の流れに合わせろって、お兄様に伝言させましたけど? アレク様」
「エリーゼ!……痛っ」
高いヒールで思い切り足を踏まれる。
痛い!
――だが、隣にエリーゼが居るとは思わないじゃないか!
普通に驚くに決まっている!
「二人の結婚を認めよう。以前から二人は愛し合っていた。それを認めなかったのは、私が狭量だったせいだ。すまなかった」
陛下は一呼吸おいて、俺に命じた。
「アレクシス・バートランド。国王として命じる。継承権をレオナルドに譲り、そのままエリーゼ・ルーベンス子爵令嬢と添い遂げよ」
「……!はい。王命、承りました。」
「よって、我が息子レオナルドに譲る予定だった公爵領をそなたに任せる」
「拝命いたします」
臣籍降下の命を受け、頭を下げる。
「……この場で決定した。――王太子には、我が息子、レオナルドに任命する事をここに宣言する!」
一拍の後。
その王命を聞き、周囲の人間も一斉に膝をつく。
『エリーゼ、どうなってるんだ!?スムーズに上手くいきすぎじゃないか??』
『黙らっしゃい、馬鹿王子。貴方はエキストラ、脇役です。ここからが主役の登場なんですよ!』
あまりにも事が上手く運びすぎて不安になった俺は、隣のリゼに小声で話しかけたが取り合ってもくれない。
『脇役の王子様。これからが、本物の王子様の見せ場なんです。もうあなたの役目は終わりました』
意味ありげにウィンクして、俺を黙らせるエリーゼ。
この後に、『本物の王子様』の見せ場?それは誰の話だ――?
ザッと、
彼が通るために、人が避けるて道を作る。
堂々とした足取りで現れたのは、レオナルド。
王太子は、クラリス嬢に跪き、スッと片手を差し出した。
「クラリス・ディライト公爵令嬢。先日、求婚状を送ったと思うが、ここで改めて返事を聞きたい。レオナルド・バートランドは貴方を妃に迎えたい」
「はい。お受けいたします。レオナルド殿下」
クラリスはそっとその手を取る。
直後。
国王自ら盛大な拍手が送られた。
それに続き、会場が拍手に包まれた。
俺達のすぐ横で、従兄弟レオナルドと元婚約者のディライト公爵令嬢のプロポーズが成立した。
『いや、本当に。最初から?どこまで仕込んでいるのこれ??』
『あはは、素直なアレク様。私を出し抜けたことなんてありました?貴方には、私程度で丁度いいんです』
その美しいピンクゴールドの髪に、萌木のような鮮やかな緑の瞳。昔からキラキラと眩しかった彼女のままだ。
「俺には勿体ないけどな……。『王子様』が憧れだったんじゃないのか?」
「ええ、昔から『私の王子様』は一人だけですよ。アレク様」
会場中が祝福の拍手を送る、新王太子の婚約発表。
最大のクライマックス。
誰もが注目する、華やかな場面のすぐ横の影で。
もうここでの見せ場のない俺達も、誓いあった。
「じゃあ、エリーゼ。俺も一つ教えておくよ。昔から頑張ってこの役を演っていたのは、わがままな俺のたった一人の女の子の為だったんだ」
その俺の告白に少し目を瞬いて、ピンクの髪をかきあげながら胸を張る。迫力はあるが――その衣装では止めてほしい。
「今回は、私が救ってあげたんですよ?」
「我が姫は、随分と勇敢で――本当に愛らしい……。けど、そのドレスは、今後絶対に許さないからな……!」
俺は上着を脱いで、エリーゼの肩にかける。
後は主役に任せて脇役は、影で愛しい人を口説くとしようか。それに、今回の彼女の活躍も聞かなくては。きっと兄のダレンも絡んでいるのだろう。
――十年分の想いを、星空の下で存分に。
「リゼ。二人きりになろうか」
「はい!」
会場中の熱気が冷めやらない中、俺達はバルコニーに向かって歩き出した。




