第4話 覚悟を決めるもう一人の王子様
「あーー……。緊張した」
息をつきながら、廊下を歩く。
謁見の間を出て、王宮の客間で待っているはずのクラリス様のもとへ向かう。
後ろから慌てて追いかけてくる気配がするけれど……それは後回しだ。
「クラリス様!陛下の説得に成功しましたーー!本当に緊張しました!やっぱり子供の頃とは違うんだものっ!」
扉を開けると、すぐにクラリス様が抱きついてきて、歓迎された。
私はこっそりと後ろの人物に目配せした。
話があるから、ここまでついてきたのだろう。
しかし、今は早い。
彼女を落ち着かせるのが先だ。
――彼にはその意図が伝わったようで、私たちに声をかける事はしなかった。
「お疲れ様、エリーゼ。今度は私がレオナルド様を説得する番ね。二番手で甘んじて満足している彼に……」
「クラリス様?」
すると、クラリス様は私と自分の額を合わせて目を閉じた。。ふわりと、彼女の金髪からいい香りが漂う。
「彼を説教して焚き付けて、可愛げが無い女だと思われないかしら……。私の気持ちを疑われないかしら。ただの権力欲の強い女だと思われないかしら……!」
「あの、あの……。クラリス様、実は私の後ろにですね」
「私は、確かにそう育てられたけれど、人の心は別でしょう!?――諦めなくてはいけない気持ちを、ずっと抑えてきたのだもの、ここで失敗なんて……!」
健気に弱音を吐いているクラリス様は可憐だ。
しかしそのクラリス様の、死角、私の後ろにレオナルド殿下本人がいる。
彼は、私に手でここから立ち去れと合図を送る。
(知ってるよ!お前が、ずっとクラリス様に恋心を抱いていたのはさ!)
――はいはい。王子様。ちゃんと私のお姫様をお任せしますよ。任せたよ、レオ殿下。
本当に手の焼ける王子ばっかりだ。
後はレオナルド殿下に任せて、私は兄、ダレンのもとへ向かう。
計画の最終的な打ち合わせだ。
兄の協力は欠かせない。
あれでも、側近としては優秀だし。
アレクシス様は疑いもしていないだろう。
廊下の途中で会った文官に案内してもらう。
アレクシス様に見つからないように素早く部屋に入る。
「お兄さま、お久しぶりです」
「エリーゼ」
「アレク様は?」
兄の挨拶を遮り、確認する。
「しばらく、執務室から出てこれない量の書類を渡しておいた。しばらくは大丈夫だ」
平然と鬼畜なことを言ってるわね。
書類の山に埋もれているだろう、アレク様に同情――は出来ないな。
周りに心配をかけているんだから。
「陛下に話が通りました。後は当日のことなのですが……」
「よし、一番の壁を越えたな」
「それで、当日の事を詳しく詰めましょう」
「ああ、そのことだが……」
兄と話し終えて、クラリス様のもとへ戻ると、まだレオナルド殿下が部屋にいるらしい。侍女に止められてしまった。
羨ましくない。クラリス様の幸せが一番だ。
全然、これっぽっちも寂しくなんてない。
「アレク様のばかやろう……。1人ボッチだって平気だもん」
それでも。
今まで諦めていたもの。
私にも手が届くチャンスが回ってきた。
――強気で行こう。
私は再度、自分の頬を叩いて気合を入れ直した。




