第2話 王子が降りる理由
7話完結予定です。順次SSを上げていきたいと思います。
穏やかな時間を、鳥の声と共に過ごしていた。
やわらかな日差しの中。
庭園のベンチに座って空を眺めていた。
「俺がいなくなれば、みんな上手くいくんだよな」
風の静かなささやきを聞きながら、目を閉じる。
――どこかから、懐かしい声が聞こえてくる。
「アレク様!どこまで行くんですか?疲れましたよ〜」
勝手に付いてくる乳兄弟、エリーゼ。
いつもいつも、僕を放っておいてくれない。
歩いていると、花の香りが強くなってきた。
「もうすぐ着く。王族専用の庭園だ。ほら、エリーゼはすぐに引き返せ――」
言い切る前に、馴染みのある声が風に乗ってくる。
叔父と王妃、従兄弟のレオナルドだった。
あの場所だけ、やけに明るく見えた。
足を踏み出して、声をかけようとする……が。
身体が硬直したようにピクリとも動けなかった。
暗がりから、腕を掴まれる。
「アレク様、実はとっておきのお菓子があるんです。……兄には内緒で食べましょう!」
強引にぐいぐいと引っ張る。
「どうせ、厨房から貰ってきたんだろ」
「でも、甘い物は好きでしょう?」
「うん……そうだな」
ようやく、動かなかった足が前に進みだした。
自分の立場はわかっていた。
前王の唯一の子ども。
第一王位継承権をもつ、厄介な存在。
王宮を歩くだけで、耳障りな言葉が聞こえる。
『アレクシス様は正直後ろ盾がな……』
『ああ。旨みがない。これではレオナルド殿下の方が……』
『能力もほぼ同じ。それなら……』
僕には、聞き慣れた言葉だった。
――今はもう。何も感じなくなっていた。
「お兄さま、ほら!ここの場面よ。王子様が、囚われたお姫様を格好良く助けちゃうのよ」
「お前、仮にも王子なら単独行動はしないだろう。ついでに、それは勇者の役目だし」
「あ〜、はいはい。モテないお兄さまには関係ないし」
二人のやり取りを見て、口元が緩んだ。
地面の感触が気持ちよかった。
芝生に手をついて、3人で座り込んで話していた。
土の匂いがする中で、風を浴びる。
まるでバカらしい会話。
すぐ兄妹げんかを始める。
この関係が気楽で好きだった。
僕が息が出来るのは、エリーゼとダリオの前でだけだった。
そう……もう遠い過去の話。
――風がいちだんと強くなり、遠くから声を運んできた。
涼やかな女性の声。
少し早口で、独特なテンポを持つ声。
静かに目を開ける。
少し離れた場所に、エリーゼとクラリスがいた。
随分と久しぶりだった。
声をかけようと、口を開いたが――。
レオナルドが現れて二人に話しかけていた。
アレクシスは、視線をそらし、逆の方向へ歩いていった。
後には、彼の座っていたベンチ。
そこに残る微かな温度だけが、彼の残したものだった。




