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EVOLVE〜エヴォルブ〜 ― Interlude ―   作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 ― Interlude ―
1/2

― 私は虚像じゃない ―

この物語は、過去の記憶を通して

「自分とは何か」を見つめなおす一篇です。

誰かの期待でも、誰かが描いた像でもない。

“私自身”として生きるための、静かな決意の物語。


遠い昔の記憶。


私がまだ幼かったころ、

弟とケンカをすると、母はいつも言った。


「アンタはおねえちゃんでしょ! いい加減にしなさい!」


そう言って、私の腕をつかみ、

暗い物置きへ閉じ込めた。


「しばらくそこで反省しなさい。」


――反省? はんせい……。

何を反省するのか、当時の私にはよくわからなかった。


弟が悪くても、悪いのはいつも私。


おねえちゃんでしょ、ガマンしなさい。

おねえちゃんでしょ、弟にゆずりなさい。

おねえちゃんでしょ、反省しなさい。


おねえちゃんでしょ……。


母は、どんなときもその言葉を繰り返した。

いつしか父も母も、私を“おねえちゃん”としか呼ばなくなった。


「おねえちゃん」になんかなりたくなかった。


そうやって私は、

大人に甘えることも、駄々をこねることもしなくなった。


もともと口数の少ない子どもだった私は、

さらに言葉を失っていった。


それでも母は、私を“ワガママ”だと言った。


母の“ワガママ”の基準はわからない。

たぶん、私が母の意見と違うことを言ったり、

反論の言葉を探して黙り込んだとき、

それを気に入らなかったのだろう。


弟は――

「これはイヤ」「これがいい」「あれがほしい」

と素直に言葉にしていた。

子どもの私から見れば、

弟のほうがよほどワガママに見えた。


母にとっては、

弟のように“わかりやすい子ども”のほうが、

好みだったのかもしれない。


母に甘えたいとか、愛されたいとか、

そんな気持ちはほとんどなかった。


ただ、どうして私ばかり叱られ、

閉じ込められるのか――その理由を知りたかった。


でも、きっと聞いても

「おねえちゃんだから」

で終わってしまっただろう。


母はよく言った。

「アンタが何を考えてるのか、わからない」


――それは、見ていなかったからだ。


けれど、正直に言えば、

母が私を見ていようがいまいが、

どちらでもよかった。

どうでもよかったのかもしれない。


ただ――

知らないくせに、わからないくせに、

私の“虚像”を作って、他人に語るのはやめてほしかった。


「娘のことをよく知らない」と言う母を、

世間がどう見るかを気にしていたのだろう。


父はよく浮気をしていたらしい。

そんな家庭の中で、

“娘のこともわからない”なんて言葉を

自分に向けたくなかったのかもしれない。


それでも私は言いたかった。

私は、母に作られた虚像じゃない。


私は、私だ。


高校を卒業して家を出て、

社会人になって、たくさんのことを学んだ。

ちゃんと、大人になった。


大人になる過程を、

母はひとつも見ていないのに。


母は、私にどうしてほしかったのだろう。

私は、母に何を求めていたのだろう。


――それは、今もわからない。


けれどひとつだけ、今なら言える。


私は、

誰かの虚像の中で生きるために生まれたわけじゃない。

自分の心で考え、感じて、

自分の言葉で生きてきた。


だから――私は虚像じゃない。


人は誰かに形づくられながら生きている。

それでも、自分の中にだけある“声”を信じたい。

それが、私にとっての「進化(EVOLVE)」のはじまり。


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