【第026話】見えない恐怖
結月がゆかりへ駆け寄る。
「間一髪だな」
「......いったい何が」
「話はあとだ、こいつを早くなんとかしねぇと」
ゆかりは立ち上がり、真也を背負う。
「ゆづ、かおりの姉御に連絡できるか?」
結月はうなずく。
「“至急Irisへ、緊急処置”だと伝えてくれ」
*
「姉御、あいつは?」
部屋を出てきたかおりにゆかりが問いかける。
「命に別状無し。あとは、あの子次第ね」
「はぁ~そうか......すまねぇ、あたしが付いていながら」
かおりは首を横に振る。
「あなたが機転をきかせてくれたから、あの子は助かった。本当にありがとう」
彼女はゆかりを抱きしめ、頭を撫でた。
「ゆづは?」
「真也に付いててくれてる」
「そうか」
「気に病まないでほしいけど......」
かおりは心配そうに部屋の扉を見つめる。
「......」
「それはそうと、現場の方は?」
「所轄の方で神社は封鎖、異能対の方で調査を進めてる」
「そう」
彼女が歩き出すとゆかりもそれに続く。
「真也くんは?」
リビングまでくると藍が問いかける。
「大丈夫よ。しばらくお世話になるかもだけど」
藍は静かに息を吐き出す。
「心配ないわ。さっ、二人ともかけて、一息つきましょう」
*
「やっぱりか」
ゆかりは腕を組む。
「ええ、真也から抽出した“気力”には、得体の知れないものが含まれてた」
「吸い出せたのか?」
かおりはうなずく。
「姉御はどう感じた?」
「確かに、精神を浸食されるような感覚があった。そして、“陰”でも“陽”でもない」
彼女は険しい表情を浮かべる。
「陰陽区分ができないってことあんのか?」
「ないはずよ。少なくともこれまでは」
「新しい区分ってことか?」
「分からない。複雑に混じってる可能性もある」
かおりは口に手を当てる。
「そもそも、陰陽を混ぜるなんてできんのか? 性質が正反対だろう?」
「できないことはないと思う。二系統持ちだと、二つの性質を合わせることもできるじゃない?」
「確かに」
「ただ、一人の人間が持てる陰陽区分はどちらかだけ。二系統持ちでも両方持つことは不可能だ」
彼女の眼光が鋭くなる。
「ってことはだ、今回のは自然由来ではないってことか?」
「断定はできないけど、人為的に生み出された可能性はある」
「はぁ、これは大事になりそうだな」
ゆかりは額に手を当て、うつむく。
「サンプル、預かってもいいか?」
「ええ、装置の容器ごと持って行ってちょうだい。“理院”にも出すでしょ?」
かおりはゆかりへ鍵を渡す。
「そうだな、助かる」
ゆかりの携帯が鳴る。
「はい、鷲尾です......ええ......ええ......分かりました。こちらもサンプルを回収し次第、戻ります。はい、失礼します」
彼女は電話を切る。
「なんだって?」
ゆかりは小さく息を吐き出す。
「神社の地中から謎の装置が発見された」
かおりもため息をつく。
「どうやら、最悪のケースになりそうね」
「ああ。......たぶん、二人は保護特例になっちまう」
ゆかりは申し訳なさそうにつぶやく。
「心配ないわ。私と藍が付けば問題ないでしょ?」
彼女は顔を上げる。
「特級と一級なら十分過ぎる」
「今日から対応するから、二人にも説明していい?」
「すまねぇ、よろしく頼む。情報は追って連絡する」
かおりがうなずくとゆかりは処置室へと向かっていった。
「いったい奴らは何をしようというの」
かおりの言葉は静寂な空間へと吸い込まれていった。




