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君の闇、光へと通ず ~現代異能探偵青春譚~  作者: A08_Studio
【序章】母と子

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【第011話】影の真実


「どこから話せばいいのやら」


母は、虚空の一点をじっと見つめていた。


「まずは、あなたたちの関係性からじゃない?」


見かねた久川さんが助け舟を出す。


「そうだな......」


母は小さく息をつき、こちらに目を向けた。


「私の旧姓は“雪峰”。ここにいる哲也は、私の実の弟だ。真也にとっては叔父にあたる」


「そして、ここは私の実家であり、Irisは元々、私たちの両親が営んでいた店だった」


リビングを見回し、在りし日の光景を思い出すように目を細める。


「藍は幼馴染であり、親友でもある。家が近所でね、幼いころからずっと一緒に過ごしてきた」


一瞬、口元に照れた笑みが浮かび、すぐに真剣な表情へ戻る。


「哲也、異能の話は?」


「触りだけだ」


壁に寄りかかった雪峰さんは短く答えた。


「そう。まあ、これを話さないことには始まらないか」


母は、何かを決意するように小さくうなずいた。


「この世には、異能というものが存在している。でも、なぜこんなものがあるのかは、いまだに分かっていない」


胸の中にざわめきが広がる。


(――やはり、その話になるのか)


「ただ、“人の心の闇や潜在的な願望に反応して生まれている”らしい、ということだけは分かっている」


言葉と同時に、母の眼差しが一瞬だけ鋭さを帯びた。


「異能は千差万別。人に、一人として同じ人間がいないようにね。誰しもが例外なく、異能を発現する可能性を秘めている」


「ちなみに、私たち三人は、全員、異能を持っている」


(......やっぱり)


疑念が確信へと変わり、静かに胸の深みへと沈んでいく。


「ただ、実際に発現する人間は少ない。現象自体が小さく、自覚できないことがほとんどだ」


母の声は抑揚を抑えているのに、不思議と重みを増して響く。


「でも、極まれに、その小さな現象に気づき、自覚する者がいる。そうして本人が現象を自覚することで、異能は発現する」


ふと視線を落とす。


「......けれど、それだけじゃない。他者の異能に共鳴し、発現する場合もある。異能は、周囲の強い異能に反応し、大きい現象になることがある」


短い沈黙のあと、母は唇をきゅっと噛みしめ――


「この三人の中で、一番最初に異能を発現したのは私だった」


絞り出すように言葉を吐き出した。


「哲也と藍は、私の異能に共鳴して発現してしまった。そして――真也、あなたもね」


背筋を冷たいものが駆け抜ける。

鼓動が早まり、声を出そうとしても、言葉が喉の奥で凍りついてしまう。


久川さんがそっと母の背に手を添える。


「私たちは、異能の恐ろしさと苦しさを嫌というほど知っている。私たちの両親の話は聞いたでしょ?」


視線でうなずくと、母も小さくうなずき返す。


「だから、あなたに、絶対に私たちのような思いをさせたくなかった」


母はテーブルの上で拳を固く握りしめた。


「真也が生まれるとき、真っ先に考えたのは、あなたが異能に苦しまないように生きてほしいということだった。そのためには、少しでも発現条件を消す必要があった」


声がわずかに震える。


「だから、哲也と藍、あなたの父さんと相談して、私たちは決めた」


壁時計の秒針が、静かな部屋に鼓動のように響く。


「私はそれ以降、自分の異能を扱うことを禁じた。そして、異能者である二人を、真也から遠ざけた」


自分を守るため――頭ではそう理解しても、胸の奥に小さな棘のような切なさが刺さる。


「これは、一縷の望みの賭けだった」


自分を見つめ、静かに続ける。


「でも、やっぱり、あなたは私の子だわ。それは、叶わなかった」


クスッと笑みを浮かべ、穏やかにその目を細める。


「私も異能を禁じたとはいえ、封じ込められるわけじゃない。抑えようとしても、どうしても不安定になる時期がある。今年は夏頃がそうだった」


母の声には怒りと悔しさがにじんでいた。


「そして、その頃から、あなたから異能の気配を感じるようになった。最初は確信できなかったけど、その気配は日に日に強くなっていった」


「それでも私は、直接あなたに聞けなかった。ただ時間だけが過ぎていった」


雪峰さんと久川さんに目をやり、再びこちらに視線を戻す。


「そんな時に、手を差し伸べてくれたのが、哲也と藍だった」


「それによって、あなたが異能を発現していたことを確かめられた」


吐息が深く落ちる。


「哲也と藍にあなたを託すと決めたとき、いつかはこの日が来ると覚悟していた。でも、言えなかった。私は、あなたの可能性すら奪っていたのだから」


「かおり......」


久川さんが母の肩にそっと手を回す。


「藍がそのキッカケをくれなければ、私はいつまでも言えなかったかもしれない」


母はまっすぐ俺を見据えた。

その瞳には、後悔と恐れ、そして決意が複雑に交じり合っている。


「これが、事の顛末よ。あなたに恨まれても、しょうがないわよね」


最後の言葉は震えとともに沈み込んだ。


「......そんなことないよ」


心の中の思いが、自然に言葉となって零れ出る。

それに寄り添うように、温かな灯火が全身へと静かに広がっていった。

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