【第1話】役立たず荷運び、運命の出会い
ごく普通の青年が、最弱職《荷運び者》として異世界に転生した──。
チート能力はなく、周囲からは見下され、何度も裏切りに遭いながらも、彼は決して諦めなかった。
この物語は、そんな彼が傷を抱えたまま、仲間と絆を深め、覚醒し、成り上がっていく物語です。
ヒロインたちの心の葛藤や愛憎を丁寧に描きつつ、シリアスな展開と日常の笑いを織り交ぜて、読者の心を揺さぶることを目指しています。
どうか最後まで、神代ユウトと彼の仲間たちの成長を見守ってください。
▼戦力ステータス:神代ユウト(現状)
【総合戦力値】:24
【身体能力】:8
【魔力適性】:3
【知識・応用】:6
【潜在覚醒値】:999(未開放)
「……ここ、どこだ?」
目を開けると、深い森の木漏れ日が揺れていた。
俺――神代ユウトは、背中にずっしりと重たい袋を背負わされ、膝をついたまま呟く。
「うわっ……重てぇ……」
まるで見知らぬ世界に誘導されたかのように、昨日までの記憶は霧の彼方だ。
気づけば、俺はこの異世界で最弱職《荷運び者》に設定され、冒険者パーティの雑用係を押し付けられていた。
(転生したはずなのに、チートなんて一切ねぇ……)
周囲を見渡せば、他の冒険者たちは軽装。軽口を叩きながら甲冑やローブを羽織っている。
しかし俺は、ただの帆布の袋一つ。荷車ですらない。
「おいユウト! さっさと運べよ! 足引っ張ってんじゃねぇぞ!」
パーティリーダーの剣士が後ろで声を荒げる。
俺は慌てて立ち上がり、汗で手が滑る袋を背中にがっちり固定した。
(これが、俺の最初の試練か……)
突然、森の奥から低い唸り声が響いた。
次の瞬間、巨体の魔獣が牙を剥いて飛び出してくる。
「なっ、嘘だろ!? こんなBランク級の魔獣がここに!?」
仲間たちが凍りつく中、俺はただ袋を抱え、後ずさるしかなかった。
(俺、死ぬのか……?)
絶望の淵で、鼓動が肉を震わせる。そのとき。
「あたしが――守ってやるっちゃ!」
目の前に飛び込んできたのは、碧眼の魔法使いミリア=ヴァルレイン。
長い銀髪が水面のように揺れ、彼女の一人称は「あたし」。やや東北訛りの響きが特徴だ。
「あんた、本当に役立たずだべさ。荷物は運べても、自分の命運べんのかいな?」
冷たくもどこか優しい声で、ミリアは呟く。
しかしその声が、初めて俺の心臓を真剣に鼓舞した。
〈戦闘ログ〉
魔獣グロウル出現
ミリア使用スキル:氷槍連射Rank B
「氷槍、展開ッ!」
ミリアの手から複数の氷槍が瞬時に発生し、魔獣を貫く。轟音と共に地面が震えた。
「……す、すげぇ……!」
俺は息を飲む。魔獣が倒れるまで、ミリアは一切のためらいを見せなかった。
戦いが終わると、ミリアは俺の横に歩み寄る。
息を整えながら、ふっと呟いた。
「あんた、なんか変だべ。絶望してんのに、どこか……あきらめてない感じがするんだよね」
その言葉に、俺は胸をぎゅっと掴まれたような気がした。
この世界で「役立たず」と呼ばれた自分に、誰かが目を止めてくれた瞬間だった。
〈スキル解放ログ〉
条件達成:危機回避〈質量操作〉
新スキル獲得:重力操作Lv1
視界の隅で青い文字が煌めく。
俺はさらに一歩、成り上がりの道を踏み出した――
この日が、すべての始まりとなる。
――次回【第2話】「森の襲撃と、荷運び者の覚悟」