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出口のない部屋  作者: 三嶋トウカ


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第13話:長くて短い一日_4


 「――それで、珍しく今日は楓に誘われたよ」

『阿形さん珍しいね。どこいったの?』

「あぁ……ゲーセン行ってきた!」

『好きだったっけ? ゲーセン』

「それが思ったよりも大きいところで、そもそも楓に誘われるってのが珍しくて嬉しくってさ。初めてレースゲームしたけど、あれって結構面白いんだね。つい夢中になっちゃったよ」

『あはは、いいんじゃない? 結人も桐人ももう少し大きくなったらやりたがると思うの』

「俺もそう思って、そのころには新しいヤツが出てるだろうけど、今から練習しとこうかな」

『ふふふっ。気が早いよ』

「そうかな? やっぱり『パパカッコイイ!』とか『パパすごい!』って言ってもらいたいからさ」

『じゃあ言われるくらい練習しないとね?』

「あぁ。また行ってくるよ。ハマりそうで怖いけど」

『ゲーセンくらいいいんじゃない? 趣味として私は悪くないと思うよ? めちゃくちゃお金かかるわけでもないし。子どもも楽しめるし?』

「あぁ……」


 隼人は実家に戻っているリコと電話をしていた。今日あったことをぼかしながら話した。とてもリコ正直に話せやしない。誰も何も言わなかったが、あれは違法賭博だ。ずっとそう思っていた。ただジュースやお菓子をかけるならまだしも、賭けたのは現金と同等の価値があるコインである。コインはあの場でしか使えないが、あの場で現金やブランド品、宝石類などに交換している。そして、隼人の手元には交換した品と現金がある。

 これがテレビ電話でなくて良かったと、ぎこちない笑顔を浮かべながら冷や汗を拭きつつ喋る隼人は思った。繋いでいたら、自分の態度に気づかれたかもしれない。


「結人と桐人は?」

「もう寝ちゃったよ。今日は遊び疲れたみたい。そうそう、お父さんとお母さんと水族館に行ってね……」


 今度はリコの番だ。リコは実家でゆっくりとしている間に、義父母が息子たちを水族館に連れて行ってくれたらしい。イルカのショーを見て、期間限定の特別展示も楽しみながら、大きなサメのぬいぐるみを買って帰ってきたと、リコは楽しそうに話していた。


「明日は? 来る?」

「あ……明日だけど、ちょっと俺もベビー用品見に行きたいなと思って」

「ちょっと気が早くない? 二人分のお下がりもあるし、性別もわかってないし」

「でもホラ、ベビーカーとかチャイルドシート、下見しといたほうがいいかな? と思って。高価なものだし、でも性能や安全性は妥協はしないほうがいいだろ? 安くていいヤツあったらラッキーだし?」

「なんか急に隼人が赤ちゃんのお父さんになってる」

「お、俺はずっとお父さんだよ?」

「あはは、そうだよねゴメン。わかった、良いのあったら教えてね?」

「任せとけって! 色々調べて表にでもして、プレゼンするから待っててよ」

「そこまでするの? ……楽しそうだね」

「そりゃ楽しいよ? だって、久しぶりの赤ちゃんだし」

「……結人と桐人の時も、それくらいの熱意持ってほしかったな……」

「ん? なに?」

「ううん、なんでもない! それじゃあ、私もそろそろお風呂に入って寝ようかな」

「あぁ。もし体調悪くなったり、何かあったらすぐ連絡して」

「うん。それじゃあ、お休み隼人」

「おやすみリコ」


 プツリと切れた電話を置いて、勇人は頭を掻きながらソファに寝転がった。


「……年中無休なんだもんな? 明日も開いてるはず……。俺もう一人で行っても良いんだよな……? 一応聞いてみるか楓に」


 勇人は楓にメッセージを送ると、返事待ちの間でお風呂へ入った。出たときには返事が来ており、来週行く話をしていたが『隼人が明日行くなら俺も行く』と返ってきていた。……隼人に、ベビー用品を見る気はなかった。嘘も方便として使っただけで、今日行った会場が目的だった。しかし、ベラベラと喋った手前、何も見に行かないのはバレてしまうと、ネットで調べて簡単な表を作ることにした。

 行ってはいけないのではという気持ちと、お金のためにまた行きたいという気持ちがせめぎ合っている。隼人は結人が産まれたころ、まだ安い給料で苦労していた。車がないと大きな買い物や頻繁な買い物には不便ということで車を買い『今なら安く家が買える』と言われて若い身でマンションを購入した。それに一人増えた家族。

 苦労したのは家族全員だが、あの時ほど『お金が湧いて出てきたら良いのに』と思ったことはなかった。夫婦で奨学金を返しながら、それらの借金を増やすことは無謀だった。双方の両親がいたから、なんとかなったのかもしれない。


 それを思い出すと、どうしてもお金に執着してしまいそうだった。


 あそこに行けば、お金を増やすことができる。自分には、楓にもらった軍資金も、自分で増やしたコインもある。引き際さえきちんと見極めれば、マイナスになることはない。……それに、どんなにマイナスになったって、あのシナガワのように……。


「……いや、いやいやいやいや! ……俺、今何考えてたんだよ……最悪じゃん……」


 嫌なことを思い出してしまったと、隼人は楓に『それなら一緒に行こう』と返事を出して、ベビー用品を調べることへ集中した。


 ――そして、次の日。


「あの、俺ってもう一人で来ても大丈夫なんでしょうか?」

「えぇ、勿論でございます。譲原様の登録は済んでおりますので、これからはお一人で来ていただいても、何ら問題はございません」

「良かった」

「おいおい、来るなら俺も誘ってくれよ」

「タイミング合わないかもしれないだろ?」

「そりゃ合わせるよ! 俺が一緒に行きたいし? あーでも、誘うのは週末だと助かるな、休みの前の日の夜とか、土日の昼間とか」

「土日は無理だよ。嫁たちいるし」

「今いないだろ? それにまた、里帰り出産するんじゃねぇの?」

「あー、今回は俺育休取ることにしたから。嫁は実家に帰らないよ。産まれたら休み開始」

「えぇ!? 飲み屋ハシゴするの楽しみにしてたのに……」

「仕方ないだろ」

「たまには息抜きで来ようぜ?」

「息抜きするなら俺じゃなくて嫁のほう。産後ってヤバいんだぞ? とにかく、産まれたらしばらくは無理だな」

「じゃあ今のうちに行っとこうぜ!」

「はいはい」


 昨日の今日でまた会場へ来た。楓の運転で。家の中へ入り、また地下への階段を下りていく。


「現金はちゃんと家の中にへそくりでしまう分も稼いどけよ?」

「必要か? それ」

「必要必要! 結局、裏切らないのは金なんだよ。最後に必要になるのも金だし、金がありゃだいたいのことは何でもできる。だから、へそくりは絶対必要!」

「参考にさせてもらうよ」

「マジで必要だからな? これ超超有益情報よ?」


 そんな話をしながら手始めに大富豪をプレイする。適当に声をかけた二人組に協力を仰ぎ、数回行った。まだ二回目の来店なのに手慣れたもので、デバイスに表示されたコインの枚数が淡々と増減していった。この日もツキが回って来ていたのか、隼人はコインの枚位数をプラスにして帰った。

 すっかり気をよくした隼人は、楓を誘わずに平日の夜、仕事を早く終わらせて足しげく会場へ通った。負けることもあったが、それ以上に勝っており、負け越すことはない。それが隼人の気持ちを大きくしていて緊張感をなくしていることに、隼人は気が付いていなかった。


「君、才能あるね。俺結構ここに来るから、良かったらまた一緒に遊んでほしいな」

「えっ、あ、ありがとうございます」

「遺書に遊べる人が増えたら嬉しいんだ。話も出来るし」


 そしてそんなことを繰り返して四ヶ月、すっかり会場の空気にも慣れ、次の新しい人間が入ってくると指南のために優しく負けることも厭わなくなっていた。そして、自分が初めて来た日の台詞を思い出す。ドキドキしながらババ抜きをした後に『ちょっとでも慣れてくれて、一緒に楽しめる人が増えたら嬉しいし』という台詞を。新しい人には優しくできる。自分がしてもらったときのように。今一緒にプレイしていた今日初めて会場へ来た人に向けて、自分が言われたような言葉を気が付いたら送っていた。


「……やっぱ才能ある」

「気のせいだよ。ビビって慎重になって、神経研ぎ澄ましてるだけ」


 新しい人と別れた後、楓と合流してポーカーを嗜む。『よく知らなかったゲーム』は、いつの間にか『長く楽しんで遊べるゲーム』へと変化していた。


「あー、俺も神経研ぎ澄ませれば良いのか? すぐ飽きちゃうんだよな」

「……俺もちょっと飽きちゃったかも。一通りゲームして、稼げるやつにシフトしたって言うか……」

「あー、わかる。この階のゲームは慣れてくるよな」

「この階のゲーム? 他にもゲームがあるの?」

「あ……えーっと……」


 わかりやすく目が泳ぐ楓を見て、隼人は興味を持った。そういえば、以前帰り際に何か言っていたような、とも。


「んー……結構稼いでるし、四ヶ月経つし、話しても良い……かな……」

「え? なにがあるの?」

「いや、ちょっと、そのー……アングラ、だからさ」

「十分今アングラじゃない?」

「そうなんだけど。……お前、競馬みたいに勝負自体にコイン賭けるのって、どう?」

「競馬はやったことないけど」

「わかってる。……馬じゃなくて、人間は、どう?」

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