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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
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第9話 王者

 十二将学園高等部、グラウンド。ここの一角で、一触即発の空気が流れていた……?


「猫の手も借りたい……か。大型ネコちゃんであるこの俺の手も借りたい、てことやんな?」


「猫は好きじゃねえ。が、トラ。お前はまだマシだ。つーわけで、これにサインして仲間になれ」


 子音さんが突き出したのは、入部届と書かれていた紙であった。

 ご丁寧に、部名は動物愛好会。その下の名前の欄には、美しい文字で鼠入子音と書かれてある。


「へえ。熱烈な歓迎、珍しいやんけ。そんなに俺がほしいんか?」


「勘違いすんな。お前はこれから仲間に引き入れる10匹のうちの1匹でしかねえよ。俺の目的は、『他の動物の付け入る隙のない、完膚なきまでの十二支の復活』だからな」


「……ふうん。嫌や、て言うたらどうする?」


「お前の手を借りるんじゃなくて、削ぎ落として持ち帰る」


「こっわ〜。リーダーの言うことは違いますわ〜」


「つーか、お前口調どうしたんだよ。いつもの威厳が半減してんぞ」


「……人間界に来たらなっとったんや!」


 テンポの速い会話の応酬に目が回る。丑理さんも同じ気持ちだろうか。

 一瞥してみると、彼はしゃがんでグラウンドの土いじりを開始していた。な、なんでこの状況で。


「なあ、ネズミ。完膚なきまでの十二支の復活……言うたな。俺はその条件やったら、仲間にはならへん」


「あ?」


「十二支を前と全く同じメンツにする。それには賛成や。せやけど、順番まで一緒なんか? 俺かてかつて十二支トップを目指した身。今度こそ1番は譲らへんで。他のヤツらも同じ考えやと思うけど、お前は仲間の援助もしつつ、仲間が1番になるのを阻止できるんか?」


 寅琳さんの余裕たっぷりに笑って子音さんを見下ろす姿から、王者の風格が漂う。辺りの空気すらも支配しているようで、目が釘付けになる。


 これが、密林の王者と呼ばれる、トラなのか。


 子音さんは幾分か背丈が小さい分、周りから見れば不良にいじめられているようにしか見えない。


 しかし、彼はやれやれとでも言いたげな呆れた仕草をし、真っ直ぐ寅琳さんの目を見据え、得意げに笑った。


「……上等。やるからには難しくなきゃつまらねえ。どんな競争でも、お前らを助けながら、お前らを負かしてやるぜ」

 

 寅琳さんはその言葉を受けて、満足げに笑った。まるで、その言葉、待っていた、という風に。


 このとき俺は子音さんが、キラキラして見えた。光のような……言うならば暗闇に光る星のような、生まれたばかりの俺の、こうなりたいと思う姿、すなわち道標みたいだと思った。


 十二支のリーダー、と呼ばれる彼に、記憶からではなく精霊として初めて抱いた、憧れの感情だったのかもしれない。


「その言葉、どんな競争内容でも忘れるんやないで!」


「当然。んじゃさっさと名前書けよ」


「相変わらず仲間に対して塩やなあ。まあええけど。ところで、ウシは別として、コイツ、ほんまに使えんのか? 雑魚精霊やんけ」


「へ!?」 


 良かった、うまくまとまりそうだと成り行きを見守っていたのだが、思わぬ飛び火が来た。


 でも、たしかに子音さんに全てを頼ってしまった。偶然にも彼がやってこなかったら、寅琳さんを仲間に引き入れることはできなかった。


「ああ。たしかに雑魚だが、片鱗に神の面影が見える。この気に食わねー感じが!」


「い、いたひ。いたひです、ひおんしゃん」


 ああ、やはり意地悪だ。今回はたしかに何もできなかったけど、何もほっぺを横につねることもないだろう。


 いたいと抗議していると、満足したのか彼は手を放し、未だに土いじりしている丑理さんのほうへと向かっていった。

 すれ違いざまに、トラにギャフンと言わせてやれ、と呟いて。


 これは、寅琳さんに認めてもらえ、ということか。彼を見ると、興味津々そうなまんまるな目が、俺をジッと捉えていた。猫みたい。だけど、怖い。


「なああんた。なんでタイミングよく俺の前にネズミが現れたのか、理由わかるか?」


「え……えと、ぐ、偶然じゃないんですか?」


「あかんな〜。何も知らんやん」


「へ?」 


「あっこで土いじりしとるやつ、いるやろ?」


「あ、はい。丑理さん、ですね」


「ネズミ呼び寄せたの、アイツやで」


「ええっ!? どうやって……」


 俺を見つめていた目が、鋭いモノへと変わる。さしずめ俺は、品定めされる獲物だ。


 俺は、何も知らない。もらった記憶が、機能しない。どうしてなのかと不甲斐なく思うばかりだ。


「……あの、寅琳さん。俺に、十二支のこと……教えてもらえませんか。俺にあるのは、十二支を支えるという使命からくる熱意だけですが、このままでいたくない」


「なあ、精霊はん。十二支を支える、なんて簡単に言うけど、ソレ、さっきネズミが言うたのとほぼ似たようなことやで。十二支ひとりひとり、考え方は違う。意見は食い違うのは日常茶飯事や。それをひっくるめて受け入れて、みんなが納得する方向へ持っていく、その覚悟があるんか?」


 子音さんの言ったこと……十二支を元に戻すことを前提に、己も1番を勝ち取ること。


 そうか。例えば、俺が12人のうち1人を優遇してしまったら、他の方達をないがしろにしたことになる……ということか。


 平等は、難しいことだ。誰かを上げれば、誰かが下がる。競争とは、当たり前だが勝ち負けがあるのだから。


「なんやかんや、1番残酷なのはネズミやろなあ? アイツ、時がきたら躊躇なく俺らを切り捨てんで。なんせ、ネコを罠に嵌めて、ウシの努力を利用した、卑怯者の1位なんやから」


 パチ、と脳内で何かが弾けたような気がした。憤りのような、悲しみのような……形容し難い感情が俺を襲って、その心の勢いのまま、口を開いていた。


「覚悟なら、ありますよ。俺はひとりひとり、助けたいし、守り抜きたい、大事にしたい。たとえ赤ん坊のように無力でも、神様にプログラムされた意志のない精霊でも。だから言わせてください。冗談でも、仲間を貶める言葉を、言ってはダメです」


 不意をつかれたのだろうか、彼の鋭い眼差しが、再びまんまるへと変わる。


 まただ、この感覚。子音さんや、丑理さんと会ったときも妙に心が昂って、心のままにペラペラと喋ってしまったときがあった。何なのだろう……これは。


 俺が自分の行動に自分で驚いて固まっていると、寅琳さんは呑み込み顔でうなづいて、誰に向かって話しているのやら、独り言のように呟いた。


「へえ、おもろいやんけ……これがネズミのいう神の片鱗。五行術は使えんにしても、神通力なら可能性はあるんかなあ」 


 また、業界用語だ。五行? 神通力? やっぱりさっぱりわからない。

 恨めしげに寅琳さんを見ていると、彼はフッとこちらをあしらうかのように鼻で笑った。


「しゃあないから、かわいそーな精霊はんのために、トラさんがいっこ教えたるわ。実戦でな」


「じ、じっせん?」


「おう、一石二鳥やで〜。お前は知らんこと知れて、上手くいけば仲間も増える。俺はお前が役に立つかどうか知れる〜ってことで」


「え、ええ!? は、話が見えないんですが……」


 知らないことを教えてくれるのはありがたいけど、まんまと罠に引っかかった、いや……引っかけられた、というか。


 不敵に笑う王者の前ではなす術もなく、こうなったらもう、ギャフンと言わせてやるぞ、と闘志を燃やすのであった。

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