表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
8/29

第8話 寅

――元十二支第3位、(とら)。圧倒的なスピードをもって、神様の元へと辿り着いた。ある意味正規ルートを外れていたといえる子と丑がいなければ、十二支の首位となっていただろう。


「はあ、トラ……? 誰のこと言うとるかわからんけど、人違いやないの?」


「む? おまえは人間ではないだろう」


「……なあ、あんた。この様子のおかしい男、ツレなんやったらどうにかしてくれへん? なんや馴れ馴れしくて怖いわあ」


「え、ええっ!? で、でも。あなたって元十二支じゃないんですか!? 本当にわかりませんか、この人、2番の丑ですよ!」


「じゅうにし? 何やのそれ。危ない組織? この男も知らんわ。もう戻ってええかな?」


「わー! すみません! ちょっと待ってください」  


 今、何が起きているのかと言うと……ボールが勢いよく飛んできたところを、金髪の青年が助けてくれた。

 そして、丑理さんは彼を、十二支第3位の寅だと言うのだ。


 ところがどっこい、彼は完全否認である。


 十二支の方ではないのでは、と俺は小声で丑理さんに尋ねる。

 しかし頑なに彼を寅である、長年苦楽を共にした仲間を間違えるはずがないと、かっこいい感じで意見している。


 しかし根拠はただの勘らしいので、彼が寅であるということを認めない限り、決着はつかない。

 本当に彼が寅だとしても、そのことを隠す理由も皆目見当がつかない。

 

「……ど、どうするんですか、丑理さん」


「む……今は、やむを得まい。寅、お前が何を考えているかはともかく……私たちは再び、十二支の座を取り戻す。これだけは、言っておこう」


「……へえ、せいぜい頑張りや」


 十二支元3位の寅……と思わしき金髪の男子生徒は、丑理さんの言葉にも興味なさげで、すぐにこの場を去っていこうとする。

 このまま、彼を見逃してしまっていいのだろうか。


 せめて何か、できないか。そう思ったら、自然と足は彼を目掛けて走り出していた。


「あのっ、すみません!」


「ん?」


「その、お名前……聞いてもいいでしょうか?」


「それを聞いて、どないするん?」

 

 柔らかい口調なのに、凄まじい圧を感じる。捕食者に見つかった小動物の心地だ。身がすくむ。


 だけど、ここで負けてはいられない。


「鼠入子音、牛戸丑理……元々十二支だった方の人間名です。よく考えてみれば、あからさまだ。現状、俺たちにはあなたを元十二支No.3の寅と断定するには、丑理さんの勘しかない。だけど、もし……あなたの名に『トラ』に関わる文字があったとしたら?」


「………ほーん」


 追い詰めた、と思った。だけど、目の前の彼は、余裕たっぷりに口角を上げた後、大口を開けて笑った。


「あはは! アホやなあ。そんなもん、俺が口割らなきゃ意味あらへんやろ! なんや、お前俺を拷問でもするんか?」


「あっ……」


「まあ、良い手掛かりは見つけたんとちゃう? 生徒名簿、って言うやつか? 持って来られたらバレバレやしなあ。褒めてはあげるで、赤んぼ精霊はん」


「そ、それはもはや口を割ったも同然では……!」


「いやあ? 少なくとも今この場で、俺は寅やあらへんし〜」


「ご、強情な……」


 何となく、遊ばれている気がする。わざとらしく口笛を吹いて、猫のような金色の吊り目が愉快げに細められる。


 ああ、この人、絶対寅だ。今度こそさいなら〜と軽く手を振る後ろ姿を、次は覚えてろよ、と悔しげに眺めることしかできなかった。


 落胆しながら、そうだ、丑理さんは……と後ろを振り向く。

 丑理さんは俺と目が合うと、何も喋らないものの、よく頑張った、という感じでだろうか。

 真顔で親指を立てた後、視線をトラさんのいる方へと移した。


 何だろう、と思いつられてそちらを見る。

 驚くことに、そこには同じく出会いは良い印象ではなかった、かのトラと同じ、もはやそれ以上の意地の悪さを持っているであろう、鼠色の人物がいたのである。 

 

「え……子音さん!?」


「1年2組、虎城寅琳(こじょういんり)! これで、文句はないだろう?」 


 寅琳、と呼ばれた例の人は、スタスタと歩いていた足を止め、振り返る。

 生徒名簿……? のような物を持っていた子音さんを認めて、好戦的に光った瞳が、どこか嬉しそうにも見えた。


「ハッ! なんや、元十二支トップ様のお出ましか。ノロマなウシと間抜けな精霊を従えてご苦労さまやなあ!」  


「どーも。俺は今、猫の手も借りたいくらいなんでね!」


「む…………馬鹿にされているな」


「…………ですね」


 元十二支のトップスリーが揃うグラウンド。一筋縄では行かなそうな展開に、先が思いやられる。胃に穴が開きそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ