第6話 部活動
現在、十二支の元次席、丑と接触中。彼のマイペースに振り回され、教室の床に尻餅をついている状況である。
「精霊……部活動、とは何だろうか?」
「え……じ、実際に見た方が早いかなと。俺も、記憶でしかわからないので」
「……そうか。では、ネズミの言う通り、部活動見学とやらに行くとしよう。立てるか?」
「あ、はい……ありがとうございます」
急に部活動の話が飛び出たので戸惑う。床から見上げる丑理さんは大変迫力がある。
とはいえ、腰が抜けて立てない俺を見かねてか、手を差し伸ばしてくれたので、根は穏やかで優しい人なのだろうと思う……人ではないことはさておき。
部活動。放課後や休日に、顧問の指導の下、好きな分野で活動するもの。
与えられた記憶の片方には、リーダーである部長をやっていた女性がいる。
もう片方の男性は、生徒会長をやっていたため、部活動には参加せず、助っ人としていろんな部を渡り歩いていたようだ。
なるほど、身体を動かす運動部と、運動をしない文化部の2種類がある、と。
子音さんが作ろうとしている動物愛好部とやらは、文化部に該当するのだろう。
そうだ、子音さんは根回しが上手みたいだし、きっと丑理さんも何か聞いているかもしれない。
「あの、部活動見学ですが、子音さんから何か聞いていますか? どこから見ればいいか、とか。どこに行けばいい、とか」
「…………子音?」
「ね、ねずみさんのことです」
「……ああ。たしか、校庭……とやらに出ていけば間違いない、とは言っていたな」
そうか、校庭! 外でやる運動は、たくさんある。先ほどから、窓の外からカキン、と小気味良い音が聞こえている。
何より、外に出ればいいので迷いづらいだろう。
「では、丑理さん! 子音さんの言う通り、まずは校庭から行きましょう!」
「…………丑理?」
「…………う、うしさんの人間名です」
だ、大丈夫かな。そういえば、俺のこともセレンとは呼んでくれないし、子音さんの名前もかろうじて覚えている感じだ。
「む、そうだった。すまないな……混乱しているようだ」
「丑理さん……」
彼の瞳が、不意に揺れたような気がした。無表情のままではあったが、何故か、苦悶を浮かべたかの表情に見えて、心臓のあたりが、キュッと詰まる感じがした。
まるで、感情が呼応しているようだ、と思った。
どうして、丑理さんが苦しそうに見えるんだろう。子音さんもそうだった。勇気づけたい、力になりたい。
そう思うのは、己が神より賜った記憶と、使命によるものなのか。
「……お気持ちわかります。俺も、急に生まれて、記憶をもらって、何が何だかわからないまま、この世界に飛ばされてしまったので。子音さんの言うように、役に立たない精霊かもしれませんが、あなたたち12人、ん? 12匹……を、支えるという使命は、絶対に果たします。あらためてになりますが、俺の人間名は一神セレン。セレンと呼んでください」
感情の赴くまま早口で捲し立てて、しまった、と思った。
勝手に気持ちがわかる、だなんて言って烏滸がましいかもしれない。謎に、自己紹介もしちゃったし。
「あ。す、すみません、急に。部活動見学、行きましょうか」
俺はこのとき、十二支によれば、珍しい瞬間に立ち会っていたらしい。
仏頂面な彼の表情が、わずかに緩んで、その口元は微笑んでいた。
よく見なければわからない、ささやかな変化だったのだ。
「……よろしく頼む、セレン」
不器用に思える一言だったけど、俺を喜ばせるには十分だった。励ましたいという気持ちが、少しでも伝わったのだとわかったから。
「はい、よろしくお願いします!」
道は前途多難。残る元十二支は10人。この先どうなるかわからないけど、粘り強く……十二支へと続く道を歩んだ丑のように、地道に頑張っていこう。




