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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第2章 選抜始動編
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第35話 印象

 十二将学園、屋外プール。すっかり様子の変わってしまったこの場所を、教師にどう説明するか。

 口火を切ったのは、やはり子音さんだった。


「まだ早いですが、これからプール開きを控えているでしょう? 僕、プールを見学させていただいたお礼にプール清掃しました」


「たった3人でか……?」

    

 先生の疑問はごもっともである。プール清掃は、水を抜いた上で1年間の汚れを落とさなければならない。たった数時間でできるわけがないのだ。

 しかし隣のネズミは貼り付けた笑みを崩さない。


「まあ僕たちは正式な清掃業者ではないですし、水を入れ替えたり検査したり、先生方でしっかり管理してください。俺たちはちょっと掃除してみたかっただけです。勝手な真似をしたのは、申し訳ありません」


 まさに立板に水。堂々と嘘を並べ立てる姿は、さすがネコを騙しただけあると言わざるを得ない。

 白水先生はポカンとしながらも、子音さんの頭に手を置いて、ニコリと笑った。


「……そっかあ。いやあ、君たちいい子だな!」


 信じちゃった。頭を撫でられている子音さんが、計画通りだとほくそ笑んでいるのが見えて、恐怖を覚える。


「それで、僕たちは動物愛好部でもありまして、動物がいないかどうか探していたんですよ。たまにネズミとか、迷い込んでプール周りに現れちゃったりするでしょう?」


 さりげなく、ネズミの話題を出すところが抜け目ない。なるほど、こうして自分の動物のことを話せば、人間からの印象は聞くことができる。

 白水先生は、複雑そうな表情を浮かべていたが。


「ああ……ネズミはいけないなあ。一度現れると、駆除とか衛生管理が大変で……」


 「駆除」、「衛生管理」という単語に、やはり一般的なネズミのイメージは悪いことを実感させられる。


「ちなみに先生は……ネズミがお嫌いで?」


「うん? まあ現れると、駆除しなきゃいけないってのが、心痛いよなあ。ネズミ自体は、見る分にはかわいいんだが」


 そうだ。ネズミは見た目はかわいいのだ。問題なのは、不衛生であること。 

 同じく汚いと言われるゴキブリは不衛生じゃなくてもあの見た目で嫌われるだろうが、ネズミはそこまでではない。と、思いたい。


「……尻尾についてはどう思います?」


「あーっ、気持ち悪いってよく言われているよな。俺は、個性的でいいと思うけど。鼠入はネズミが好きなのか?」


「まあ、そうですね。この世の全ての人間が、ネズミを好きになってくれたらと思いますよ」 


 欺瞞を得意とする彼でも、その言葉だけは真意によるものだとハッキリとわかった。

 その思いを、どうにか叶えてあげたい。でも、たくさんの人間にネズミを好きにさせるには、どうしたらいいのだろう。

 

「いい夢だな、応援する! おっと、俺は仕事が残ってるからな。じゃ、プールの門の戸締りだけよろしく!」


「……わかりました」


 そうして白水先生は、何事もなかったかのように帰って行った。いいのか、先生。プールでの不可解な現象を、まあいっかで片付けたというわけだが。


「……いい、先生でしたね」


「ああ。白水っつう先生で、俺んとこの担任だ。ああいう人間もいるんだな」


 どこか感傷に浸っているような、物憂げな雰囲気を出す子音さん。水面に映る顔を見ているのだろうか、どう声をかければいいかわからず、その姿を俺はただ見守っていた。


「……ネズミ」


 当然、丑理さんも話す方ではない。しかし予想外にも、彼は子音さんの頬に向けて、泥をぶつけていたのである。


「…………おい、何の真似だお前」


「私は2位になる」


「……なればいいだろ」


「おまえもだ。おまえは1位でなければならない」


 丑理さんの強気な様に子音さんは驚いたようで、目をパチパチさせては、反応するのをためらっている様子である。

 人間相手に余裕であった彼も、このように動揺を露わにするのだと、俺も少々驚いた。


「お前、俺を呪うつもりか……?」


「お互いすでに呪われている。お前が1位になるのに私を使ったときからな」


 全くもってよくわからない丑理さんの言葉。だが、子音さんには通じたようで、困ったように頭をかいていた。


「…………励ますならもっと直接的なのにしてくんねえか? なあセレン、コイツが何言ってるかわかんねえだろ?」


「いえ、俺も同じ気持ちなので、子音さんに元気出してほしいのだとはわかりました! 言ってることはサッパリですけど!」


「ああそう……はあ。今日は疲れたから帰る。ウシ、明日はお前だからな。セレンに今日の続き、しっかり教えろよ」


「よろしくお願いします!」


「む……承知した」

 

 五行とか、精霊とネコの襲撃とか……プールの修復現象とか。覚えなければいけないこと、考えなければいけないことはたくさんある。

 帰ったら、今日あったことを忘れずに整理しよう。


 さて、善は急げというわけで、十二将学園、寮の一室。帰った俺はすぐさま机の上にノートを広げ、今日あった出来事を整理していた。

 というのも、俺は記憶操作の呪いを受けているわけだから、いつ何を忘れるかわからない。

 記録しておけば、万が一忘れたとしても思い出せるし、何だっけと思ったときに見返せるわけだ。


 まずは、子音さんに教えてもらったこと。陽が使うのは、相生。


(水→木→火→土→金の流れで、循環……)


 子音さんの生み出したかわいいネズミの水分身。順番に変身していくから、とてもわかりやすかった。

 

 問題は、陰が使う相剋。


 ネコこと猫口玉置さんは、陰の水五行の使い手。

 水をネコの手のような形に変え、絶大な威力で更衣室を破壊していた。

 かわいい肉球とは裏腹に、恐ろしいネコパンチであった。

 

 対して陰の土五行、丑理さん。彼は猫口さんの攻撃を、土の壁で打ち消した。それを、相剋と呼ぶらしい。


 土が水をせき止める。土は水を汚す。


(じゃあ、他の五行は何によって相剋される……?)


 陽であれば五行は全て使えるということ。それは、相生によって、他の属性に変化させることができるから。

 陰の相剋は、1つの五行の攻撃で、1つの五行を打ち消すもの。使える五行は固定される代わりに、その威力は凄まじい。


 何というか。陽は柔軟で、陰は頑固というべきか。


 相生をイメージし、五行の文字を順番につなげれば、輪になる。そして土の文字から、水の文字へと矢印を描く。


 そして、ふと火の文字に目がとまる。


(火を消すといえば、水しかなくないか……?)


 水から火へと、矢印を描く。そうすると、俺が描いている図の完成形が、わかったような気がした。


(木は火を燃やすけど、相生の関係で繋がってる。だから……火は金を溶かす……? そして、金は木を切ることができて、木は土の養分を吸い取る?」


 思うがままに、矢印を描く。そうして全て描き終わって図を見た瞬間、それは、魔法陣のようになっていた。


 きっと……十二支にとっては当たり前のことなんだろう。だけど、俺にとっては世紀の大発見をした気分だった。 


 答え合わせは明日してみようと、俺はちょっと浮き足立つ気持ちのまま、ノートを閉じてベッドに飛び込んだ。


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