第1回十二支会合
十二支会合。それは、大将としての仕事や、天界での問題ごとの対応について議論するために、定期的に行われる十二支の会議である。
元十二支第5位、辰が所有する水晶は、会合における録音録画機器としての役割を果たしていた。
精霊一神セレンが飲み込んだのは、その水晶の欠片。
レコーダーにDVDが飲み込まれ再生されるように、彼の脳内においても、映像が再生されていたのであった。
「これより、第1回十二支会合を始める! 議題はお前らがこれからどうしたいかだ。人間だろうが流れは変わらねえ。いつも通り、順番に発言していくぜ」
他の11人は、何かを言いたそうにしながらも静粛にする。十二支会合においては、発言権は順番に回る。
首位ネズミから12位イノシシまで、それぞれの発言すべてが終了するまで口を挟むことは許されない。それがルールであった。
「十二支首席、鼠入子音。俺はこの選抜において、完膚なきまでに十二支を復活させる。お前らが邪魔しようがしまいが、関係なくだ。以上……十二支次席牛戸丑理は、疲労困憊のため割愛する」
「三席、虎城寅琳。俺はこの選抜において1位を狙う。そんだけや」
「四席、兎川李卯……十二支復活に異存なし。以上」
「五席、龍堂辰幻。吾輩は十二支なぞに興味はない。だが、貴様らや精霊にかけられた呪いの解明については協力してやろう。以上だ」
「六席、蛇平巳乃。十二支復活に異存ないよ。僕も、あの精霊くんについて解明すべきだと思うかな。以上だよ」
「七席、馬宮健午だ! 十二支であることは俺たちの誇り。他の動物に奪われてはならん。全員で協力し、元に戻る方法を見つけ出すべきだ! 以上!」
「八席、羊田亜未。十二支復活に異存なし。僕たちにかけられた呪い及び精霊の呪いにつき、解明協力求む。以上」
「九席猿爪申弥。ネズミさんに一部賛成、順番については変えてもいーと思うっす。以上」
「十席、飛鳥酉奈です! もちろん十二支の復活については異存ありません! 争わず平穏に、互いに協力し合って選抜を乗り越えましょう! 以上です!」
「十一席、犬浦戌慈です……僕は、神様の真意について知りたいです……以上です……」
「はーい、十二席! 猪野田亥寧! 大変だけどみんなで頑張ろうね! わは! 終わりっ!」
滞りなく発言していく十二支。
子音は、思ったよりも、彼らが十二支復活に反対していないことに違和感を覚えていた。
「……じゃあ、次に進む。質疑応答。何か言いたいことある奴は手を挙げろ。まずは俺の発言から」
一斉に上がる手。なるほどこっちを問い詰めるつもりかと、子音は顔を歪めて舌打ちした。
「何なんだお前ら。だいたいは俺の意見に異存ねえんだろ? んで、何だよトラ」
「まあまあ、頼りにされてるやないのネズミくん。俺は他の腑抜けたやつらと違うて宣戦布告や。俺は、お前を絶対1位にはさせへん」
「じゃあ俺もあらためて宣言してやるよ。お前は絶対、3位から上にも下にも順位は変わることはねえ」
「相変わらず言い切るんやな。おまえを負かしたら、さぞいい気分やろな!」
現状十二支が何を思って、この選抜において何をしたいのか。全部の本音は露わにはしていないだろうと、子音は勘繰っていた。
しかし寅琳は最初から一貫し、1位を狙うと豪語している。その自信に満ちた姿は、口にはしないが、子音にとっても好ましいとは思わせていた。
「ちなみにお前らもな。今の席次が変わることなんかねえから、現状維持派は黙って俺についてくればいいんだよ」
「……なぜそんなに横柄に、自信満々に言えるわけ?」
3位である寅琳が発言したからか、4位の李卯が子音に向かって発言する。その声には、少々トゲがあった。
「アンタの人気は僕の人気に勝てない。いくら神が抜け道を用意しているとしても、主題は人間からの人気を得ることでしょ」
「ウサギ、臆病はもうやめたんじゃねーのか? 俺は別にお前を爪弾きにする気はねえぞ」
子音は、李卯がこの選抜で有利であるがために、どこか自分らと一線を引いている、いや、引こうと無駄なことをしているのに気がついていた。
人間に人気があるなら誇ればいい。威張り散らかせばいい。 どうせ、十二支と共にありたいという気持ちがあるくせに、なぜその気持ちに蓋をするのか、子音には理解できなかった。
黙ってしまった李卯を、もう発言は終わりだと判断し、子音は次の辰幻に視線を送る。
「そんで、辰。どうせお前は呪い関連だろ。俺は呪いについてはわかんねーしお前と双璧に任せるが」
「ああ。吾輩を十二支にするかどうかは、お前に任せよう」
「お前、ほんっと興味ないことは投げやりだよな……まあ、その方がやりやすいから助かるぜ」
辰幻は、呪いにしか興味がない様子。しかし、子音が十二支を復活させたいことを彼がわかっていないはずがない。
故に、十二支には興味がない。だけど、十二支になってもいい。辰幻はそう言っているのだと、子音は自分に都合よく解釈した。
「はい、ネズミくん。僕はちょっと謝りたくてね。精霊くんにちょっかい出しちゃったことなんだけど」
「あー……今後はやめておけ。呪いもかかってるし、最悪お前がヒツジみたいにやられるぞ」
「はーい」
「軽い」
巳乃は、長年関わりのある子音にとっても、いまだ掴めない者であった。彼が知っているのは、巳乃が辰に憧れ、呪いに対する造詣が深いことだ。
もしかするとセレンにちょっかいを出していたのは、呪いがかかっていたことを察していたからなのかと、子音は思う。
「やっと後半だな……ウマ。お前は恒例の反駁でもしてくんのか?」
「いや、今回は意見に相違はないぞ。提案をしたいんだ!」
「ふうん?」
子音と健午は互いに見つめ合う。円卓に並んで座っている中で、彼らの位置はちょうど対称であった。すなわち、向かい干支だ。
「人間界で問題を起こせば減点。神様がおっしゃっていた。だが俺たちは、人間の作法などサッパリわからんだろう?」
「ああ、そういうことか。後で結論のとき言う。お前と馬が合うなんてことあるんだな」
「向かい干支だからな、そういうこともあるだろう!」
子音は健午の一言で、彼が何を言いたいのか、何をしたいのかを察した。
冷静な子音と熱血な健午の意見が合うのは滅多にない。
そのためか、他十二支にとっては天変地異の前触れなどと言われていた。
いやもう大変なことは起きてるだろ、などといったツッコミも。
他方、健午の支合亜未。彼は子音を睨みつけていた。
「……すげえ顔しているがヒツジ、お前は俺に何か言うことあんのかよ」
「……別に君自体に言うことはないんだけど、ウシの件について気になることを伝えておくよ」
「ウシだあ?」
子音は隣で腕を組み、目を閉じている己の支合を見る。
「僕の首元の反呪の鈴。人間の姿になったとき僕にはあったけど、ウシの首には何もないんだよね。これって、今ウシがグダグダになっているのと関係あるかもなって」
「……たしかに人間体には首の鈴がねえな。ウシが起きたら聞いてみるぜ」
さすが呪いの双璧。よく見ていると子音は内心感心しつつ、呪いに関しては丑理に任せようと、子音は亜未の話を打ち切る。
そして次に手を挙げていた、申弥と酉奈を見て肩を落とした。
「ネズミさん、俺は選抜において具体的にどうするのか聞きたいっす」
「気を急くな。以上」
「えー、なんか俺にだけ返しが雑じゃないっすか?」
「ネズミくん、ワタシは全ての鳥類の運命を背負っていると言ったらどうします?」
「どうもしない」
「サルくんっ! 仲間ですね!」
「うわっ、こっちくんなっ!」
ふざけている申弥と酉奈を尻目に、子音は邪神が現れてから元気のない戌慈に、どう声をかけてやるべきかと思っていた。
「はあ……イヌ。お前はさっきから落ち込んでいるが。神の真意を知るには、前を向いて進むしかねえぞ」
「わかってはいるんです……わかってはいるんですけど……」
子音には、神については信用ならないイタズラ好きの邪神だという気持ちしか残っていない。だが、戌慈は違う。
裏切られようが消えない忠誠心が、もはや呪いのようだと子音は気の毒に思った。
「わは! ネズくんっ!」
「うおっ……お前は何か言いたいことあんのか、イノシシ」
「うんとね! そこで倒れちゃったセレン、どうする?」
円状に座っているので、最初の子音と最後の亥寧は隣り合う。なのに、わざわざ席を立って亥寧はさらに子音に近づいて話しかける。
何を言われるのか、身構えた子音だったが、亥寧の指摘は至極普通のことだった。
神に身体を乗っ取られたのち、意識を失った精霊。放置しておくのはよくない。
「ウシと一緒に俺が保健室に連れていく。あー……トラは運ぶの手伝え」
「何で俺やねん!」
小柄な自分では、セレンや丑理を運べないというもっともな理由を子音は口にしない。
子音には、寅琳を上手いように使う方法が見えていた。
「俺の発言への質疑応答は終了だ。つーかお前らあらかた言いたいこと言い尽くしただろ。もうめんどくせーから質問対象を全員にする。なんかあるかよ」
子音の仕切りは段々と雑になっていく。この状況も、恒例の流れであった。
「せやったら俺からウマに言いたいことがあるで。お前そないに十二支に戻る気満々やのに、何で俺に向かって十二支にならないとか言ったんや」
「ああすまん! それにはわけがある!」
「どういうわけや?」
「それ、僕が悪いから、ウマくんが謝る必要ないよ。ごめん。どうせまた辰のイタズラかと思って、いや、思い込みたくて呪ったり、ウマくんに協力してもらったりしてた。精霊の存在で、そうじゃないってわかってたんだけどさ……」
子音は納得した。健午が弱気になることはありえない。ただ妙な行動を取るとするならば、十中八九、相棒である亜未に影響されるときだ。
「だいじょぶだいじょぶ! おれいい夢見れたし、気にしなくていーよヒツジくん!」
「いのくん……ありがとう」
「そう。結局のところは辰が悪い。あんなに探したのになんで姿が見えなかったわけ?」
「いい質問だなウサギ。貴様は人間体でも聴覚が鋭敏になる呪いがかけられている。それと同様に、吾輩は呪いにかけられていたのだ。この水晶玉の中に閉じ込められるという、呪いをな」
「は?」
辰幻が饒舌になれば、大体話は脱線する。故に、子音は会合を終わらせるべきだと判断した。
「待て待て。今はこれからどうするかの議論のみだ。発言がゴチャゴチャすると、埒があかねえから今回は終わる。ウマ、後は頼んだ。俺はセレンとウシを保健室に連れて行く。トラ、加点どころだぜ?」
子音はセレンを担ぐ。寅琳は席を立って渋々丑理を担いでは、もう片手で、子音を安定させるためにセレンを支える。
子音の言う「加点どころ」という単語が、寅琳が彼に従わざるを得なくしていた。
「任された! 本会合の結論をまとめよう!」
一方健午は、意気揚々とその場で起立していた。
「俺たちは多少の意見の相違はあれど、目指すところは同じと見える! 俺たちは、全員が再び十二支に戻れるように行動していく。これを本会合の結論だ。賛成の者は拍手をしてくれ!」
子音、丑理、寅琳が保健室に行きいない中、健午以外の他の8名は拍手する。
「うむ、可決だな! ではこれにて会合を終了するが、その前に伝えることがある!」
健午が伝えたいこと、それはこれからの十二支の運命を左右する、重要なことであった。
「さっきも言ったが、俺たちは十二支に戻るためには、人間らしくしなければならない! 現状最も有効なのは、一神セレンに習うこと。彼には人間の記憶が混じっているそうだからな」
健午は淀みない弁舌をふるい、他の十二支に付け入る隙を見せない。
むしろ堂々たる振る舞いが、一部の十二支に安心感を与えるほどであった。
「先導の双璧より命令を下す! 本選抜において人間ごとに関することは、一神セレンに助力を頼み、彼の指示に従うように! そしていつも通り、何か問題が起きたときは、俺かネズミに一報入れてくれ!」
先導の双璧。子午向かい干支に与えられたのは、その名の通り、十二支や天界の動物たちの先導をする役目だった。
十二支は個性の塊。簡単に言うことは聞かない。しかしこの2人の先導に従わなかった者に、良いことが起きたことはなかった。
故に2人が命令を下せば、十二支は従わざるを得ないのだ。
「では、これにて第1回十二支会合を終わるぞ!」
健午が元気よく会合の終わりを告げれば、セレンの脳内で流れる映像は停止する。
録音録画されているのは、ここまでのようだ。




