第3話 生
神は意地悪だ。人間がこんなこと言うと、若干変な目で見られるらしいのだが、実際そうなのだから仕方がない。
いくら2人分の人間の記憶を与えられたといっても、生後5分で下界に飛ばされた精霊が、人の世に順応できるとお思いか!
たくさんの人間の視線が一点に集まる。自分に与えられた記憶の人間は、このような状況を数多く経験している者だった。
生徒会長とか、部活動の部長とか、卒業式の代表挨拶とか。随分と……活発な人たちの記憶貰ったんだな。
どちらの記憶も、人間の生の輝きに満ち溢れていて、何故だか、羨ましく思った。
自分は精霊だけど、こんな風に、悔いのないように「生きて」みたい、だなんて。
足は震えるし、心臓はバクバクと脈を打つ。ただ、自身の内にいる2人が、背中を押してくれているような気がした。
そうして、思い至る。これは、本当に神の意地悪なのか。意味もなく、挨拶などやらせるだろうか。
代表挨拶というものは、目立つ。自分という存在を、元十二支に認知させられるのではないのだろうか。
最初にすべきことは、元十二支たちを見つけることなのだから。
気づけば自然とマイクを持っていて、足の震えは止まっていた。
「7組代表、一神セレンです。一神家は、『十二支』という優れた12人の方たちに使える、特殊な家系です。12という数字を名に負い、数々の名士を輩出してきたこの十二将学園に入学できたことを、誇りに思います。自身の役目を全うするためにも、この学園で精進して参ります!」
い、言えた……! ちょっと無理やりだけど、「十二支」なんて単語を出せば、当事者は絶対分かる。
当然、十二支を選抜するのだから、十二支という言葉はこの世界にはない。
大体の生徒が温かい眼差しでこちらを見ていたが、反応した者がいた気がする。
遠くて顔までは把握できなかったが、おそらくその者たちが、元十二支だ。
緊張からの安堵でへたり込みそうだ。未だ速く刻まれる鼓動は、己が生を受けた証なのだろうか。
その後の他組の代表6人の挨拶は、意外にも無難な言い回しばかりであった。いわゆるテンプレート、というやつだ。
どうやら元十二支は自分と同じように無茶振りはされなかったのだろう。少し癪に触る。手掛かりが掴めると思ったのに。
「一神くん! 代表挨拶おつかれー!」
「あ、ありがとう」
さっきの優しい生徒さんだ。彼女に神からの無茶振りのことを教えて貰わなかったら、あの発言はできなかったかもしれない。本当にありがたい。名前を覚えてないのは申し訳ない。
あ、名前といえば、どうして自分の名前は「セレン」なのか。
男でも女でも、あり得る名前とは言える。
今は記憶の男性の青年期の姿をしているけど……人間の女性の記憶も貰っているのだから、何か意味はあるのだろう。
元十二支にも、人間として得た名前とか、性別とか、そういうことにもヒントがあると思いたい。
そうだ、彼女の名前を聞いておいた方がいい。ああでも、自己紹介さっきしたばかりだしなあ。
「梨花ちゃーん、部活動見学一緒に行こうよー!」
「はーい! じゃあまたね、セレンくん!」
「あ、うん」
何だかとても明るい人だ。梨花さん、か。すでに周りの人と仲良くなっているし、十二支とは関係なさそうだ。
元十二支は……神によればかなりの曲者だらけだし。
あれ。そういえば部活動見学って……自己紹介の日にいろいろやり過ぎじゃないかこの高校。
だ、誰か。一緒に校内を歩き回ってくれる人を探した方がいいのだろうか。
あたふたしていると、不意に誰かから声をかけられたのだった。
「おい、そこのお前」
「はい? 俺……ですか?」
そう、これが始まりだった。十二支を巡る動物たちの、因縁が絡み合った数奇な物語。
「俺は鼠入子音。十二支首位だった子だ。お前に聞きたい事が山ほどある。神の道楽で創られた精霊に、何ができるのかは知らねえが」
「ひえっ……」
いや、怖い。急に現れたと思ったら何! いきなり圧かけられた!? ネズミ……本当にあのネズミ? 小動物らしく俺より背は小さいのに、眼光の鋭さが半端ではない。
思惑通り、十二支側から来てくれたということだけは嬉しいけど!
先が思いやられる。助けて神様、そう言ったって、届きはしないのだろう。わかってはいる。
だけど一言くらいでもいいから、愚痴を言わせてほしいと思うのであった。




