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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
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第28話 双璧

 十二将学園3階。俺は今、家庭科室へと向かっていた。元十二支第4位、李卯さんの左肩に、俺はヒヨコの姿でちょこんと乗っていた。


「……あの、李卯さん。どうして俺、ヒヨコの姿から戻らなかったのでしょう?」


「さあ? 僕は解呪に強くないから仮説だけど、アンタには複数の呪いの跡が見える。その呪いの解呪条件が混線して、解けなくなっちゃったのかもしれないね」


「なるほど……難しいですね……」


 呪い。陰陽のうちが陰が用いる、悪意を源に、対象に害を与える術。例えば、鎖で拘束したり、空中に転送して落としたり……巳乃さんのイメージが強すぎるな。

 

 丑理さんが解呪したらしい、亜未さんの呪い。あれはいったい、どういう仕組みだったのだろう。


「亥寧さんが亜未さんの呪いにかかって眠ってしまったこと、あったじゃないですか。あれって、どういう仕組みなんですか?」


「ヒツジの、対象を眠らせる強力な呪いだね。耐えられるのは、ウシくらいかな」


「丑理さん……?」


「……呪いについては学んだようだけど、まだ知らないことがありすぎるみたいだね」


「うっ……」


 こちらを小馬鹿にするように、李卯さんは笑う。だけど、こういう態度取ってくれるところに、以前は空いていた距離が少し近づいた気がして、嬉しかった。

 

「ま、いいや。僕も頭の中を整理したいし、教えてあげる」


「お、お願いします!」


「……向かい干支。僕と酉のように、十二支を並べたとき反対にくる十二支を、そう呼ぶ」


 向かい干支は、人間の記憶にある。正反対の性質を持っていて、互いを成長させるという。

 「裏干支」とも呼ばれている。卯年の人間なら、酉をモチーフにした物を身につけ、運気を高めるということもするらしい。 


「はい、それは知っています!」


「じゃ、向かい干支が負わされている役目、これについてはわかる?」


「や、役目……?」


「問題ごとに立ち向かうための『双璧』。僕とあのやかまし鶏が担当していたのは、争いごとを鎮める『和の双璧』だった」


「双璧……?」


 双璧、その言葉は、するりと俺の心に入ってきた。初めて聞く、そのはずなのに聞き覚えがあって。 


 ある言葉が、俺の頭に浮かんだ。その言葉がどうしても気になって、李卯さんにこう問いかけていた。


「あの、呪いの……双璧……って、あったりします?」


「あれ、知ってるじゃん。丑と未だね。呪いに対抗するための『呪いの双璧』。だから呪いで困ったことがあれば、どっちかに対応してもらえばいいわけ。今ヒツジに会いに行く理由でもあるよ」


 心臓が、ドクリと脈打つ。どうして、俺はこの言葉を知っている? 

 何か……大事なことを忘れている、そんな気が。


「あった。ここだね、家庭科室は」


 顔を上げれば、家庭科室の表示プレート。新学期早々ということもあって、まだ使われてはいないのだろう。室内から声がする様子はなかった。


 よく考えてみれば……今は授業中。亜未さんがこの中にいるという確信はない。

 ただ、俺が放課後に会いに行く、と言っただけで、時間は指定していない。

 この中にいるという可能性も、完全には否定できなかった。


――明日、家庭科室。ウマくんと一緒に来て。ただし、他の十二支連れてきたら、一切話さない。


 あ。やばい。時間とかの問題じゃないかも。条件破ってる。李卯さんを連れてきてはいけなかったのでは?


「何さっきから震えてんの?」


「り、李卯さん。俺、亜未さんに言われていたんです。会いに来るとき、健午さん以外の十二支を連れてこないで、と」


「へえ……ヒツジらしいこと」

 

 李卯さんはなんてことないように、穏やかに笑った。そして、家庭科室の扉に手をかけ、勢いよくあけたのだ。


「邪魔するよ!」


「し、失礼します」 


 肩口にいるから、李卯さんが息を呑んだのが伝わる。

 亜未さんが、机に伏して眠っていた。問題は、亜未さんが苦しげな呻き声をあげていることだった。

 

 健午さんが俺らの姿を認めると、椅子から勢いよく立ち上がり、李卯さんと距離を詰めた。

 

「う、ウサギ〜! 助けてくれっ!」


「わっ、わかったから、それ以上近づかないで! 暑苦しい!」


「ヒツジがな、具合が悪そうで今朝からずっとこんな感じなんだ。俺は呪いに関しては門外漢だし、何もしてやれなくて……」


「まずは落ち着け。僕が探って、まず呪いが原因なのか判断する。場合によってはウシを呼ぶから」


「わかった! 頼む!」


 健午さんの取り乱した姿から、亜未さんを心から心配していることが伝わる。


 李卯さんは寝ている亜未さんに近寄り、背中に触れて目をつぶった。しかしすぐに目を開けて、ギョッとしたような表情で、彼から距離を取った。


 俺は振り落とされないように、李卯さんの肩にしがみつく。


「り、李卯さん?」

 

「…………ウシ案件」


「大丈夫か!? ウサギ!」


「静かに! 集中する」


 顔面蒼白のまま、李卯さんはこめかみ付近に人差し指を当てる。間違いない、思念伝達だ。


『ウシ……ウシ……! 緊急事態。今すぐ家庭科室に来て』


『む……ウサギか。何があったのだ?』


『とにかく緊急! 早くこっちに来て!』

 

『……家庭科室、とはどこに?』


『あーっ、もう! ネズミに言えばわかる! じゃ!』


『……承知し』


 ツー、ツー……あちらが電話だったらこんな感じだろう。李卯さん、丑理さんの返事を待たずに受話器を置いたな。


 いや、何で俺は、彼らの思念伝達を聞くことができるんだ。

 亥寧さんのように、喋って筒抜けというわけでもなかったはず。


「……一刻も早く診てもらうのがいいんだけど、ウシのヤツ……大丈夫かな」 


「安心しろ、ウサギ! ウシを連れてくればいいのだろう? 手っ取り早い方法がある!」


「なに、アンタのまじないで連れてくるわけじゃないよね? 目立つからダメだけど」  


「違うぞ? まあ任せてくれ!」


 再び、思念伝達のポーズが視界に入る。しかし今度は、彼の会話の内容を受信することはできなかった。


 彼が指を下ろした瞬間、健午さんの横から白線が円を描き、そこからある人物がひょこりと顔を出した。


「いや〜、イタチのまじないってホント便利っすね。あ、しばらくぶりっす、ウサギさん」


「サル……? あっ、そういうことね! ウマ、アンタやるじゃん!」 


「え? 褒めるべきはウシさんを連れてきた俺では?」


「む……むむ、穴から出られないのだが……」


 得意げな健午さんが、手だけ出ている丑理さんを引き上げる。   

 

 なるほど。健午さんは申弥さんのまじないによって、丑理さんを一瞬で連れてこられると気づいたわけだ。


 この部屋にいる元十二支、計6名……賑やかになってきたな。


「ウシ、猶予はない。早くヒツジを診て!」


「……ああ。その前に」


 丑理さんと目が合う。パチリ、彼が瞬きすると、俺は体が伸ばされるような、酉奈さんの呪いにかかったときとは、逆の感覚に襲われた。

 そしてポンッという音がすると、俺は元の姿に戻っていた。李卯さんの肩口に、居たまま。


 当然、李卯さんを下敷きにした状態になってしまう。


「李卯さんっ! すみません。大丈夫ですか?」


「……ちょっと、解くなら言ってよ! 僕が潰れるでしょうが!」 


「む……すまん」


「おお!? ウサギに何かついているとは思っていたが、一神セレン、君だったのか!」


「あー、トリの呪いっすか……」 


 解呪とも言わず、俺を一瞥しただけでヒヨコの状態を解いた。やはり、呪いに強いのだろう。 

 彼は李卯さんに言われたとおり、苦しげな亜未さんに近づいては手をかざし、目をつぶる。


 思えば、丑理さんと初めて出会ったときも、俺の額に手を当てて、同じような動作をしていた。


「…………む!」


「何かわかった?」


 李卯さんが問えば、丑理さんは眉間に皺を寄せて答えた。


「反発だ。ヒツジは何らかの呪いを解呪しようとしたが……」


「そんな……ヒツジに限って……」


 目を伏して静かに放たれた言葉が、この場に緊張を走らせる。


「……私が解こうにも、まずは解析が必要だ。時間がかかる。辰がいれば……手間がかからないだろうが……」


「辰は……昨日1日探したけど、見つからなかった。とりあえず、僕が解析手伝うから」 


「……頼む」


 苦しむ亜未さんを見ていると、心が酷く痛む。

 丑理さんや李卯さんが亜未さんのために動いているのに、何もしないままではいたくない。 


 辰……龍堂辰幻さん。あなたはどうして仲間が探しているのに、現れてくれないんだ。

 李卯さんや酉奈さんは、あなたに会うことを「望み」とするほどだというのに。


「俺が、辰さんを連れてきます!」    


 見つけられる確証はない。でも、俺だって探すことはできる。


 突拍子もなく言い放った俺の言葉で、この場に沈黙が訪れる。

 お前に何ができるのか、そう言いたげな眼差しをされようとも、できることはやるんだ。  


 十二支の願いを叶えるのは、俺の役目なのだから。


 この気まずい空気を破ったのは、意外にも俺の背後にいた陽2人だった。

 申弥さんが俺の肩に手を置いて、ニヤリと笑った。

  

「いいっすね。どうせ呪いに関しちゃ陽は役立たず。辰さんを探すのに徹した方がいいや。ウマさんも行くでしょう?」


 申弥さんの問いかけに、健午さんは眩しい笑顔で返答する。


「ああ! ヒツジのためなら何だってしよう! ヒツジを頼むぞ、ウシ、ウサギ!」  


「申弥さん、健午さん……!」


 さすが、幸福を祈る者というべきか、陽は重苦しい空気を振り払い、勇気を与えてくれる。

 悪く言えば楽観的とも思えるが、陽の明るさは陰にも影響を及ぼすらしい。

 現に、李卯さんと丑理さんの深刻な表情が、少し和らいだ気がした。

 

「……イヌとトリ、イノシシが辰を探してる。合流するかしないかはアンタたち次第」


「……ネズミとトラに用があれば、部室にいるぞ」


「うぇ……ヘビさん何してんのかわかんねえの、気がかりだな……」


 誰1人真面目に授業を受けていない。まあ、そんなこと言っていられる状況ではないのだけど。


「よし、わかった! しかし、どうやって探す?」 


 そう、問題は辰幻さんを探す方法だ。李卯さんが昨日1日かけても見つけられなかった。

 がむしゃらに校内を捜索したとして、見つけるのは至難の業だろう。

 

 ただ、俺は思う。十二支の特殊な能力は、このときのためにあるのではないかと。 


「あの、戌慈さんのまじない。彼のって、呼びたい相手を呼び出すものですよね? 辰幻さんを呼び出せないんですか?」


「あー、アイツのはダメっすよ。今の辰さんの姿形を記憶してないと。それに、心から再会を望んでないと……まあ、試しては見たんでしょう? ウサギさん」


「うん。呼び出せたのは……これだよ」


 李卯さんは、剣に巻き付いた龍のキーホルダーを出した。ああ……観光地とかで定番のお土産の、アレだ。


「おお、カッケーすね」


「カッコいいな! 御利益がありそうだ!」


「……アンタらの感性、疑う」


 俺もカッコいいと思ったり……思わなかったり。記憶が2人分あるだけ、複雑な気持ちだ。 

 

 申弥さんがキーホルダーを手に取って、室内の照明に当てる。大きく口を開き、メタリックに輝く龍の姿は、俺たちを嘲笑っているかのようだった。

 心なしか、申弥さんまで半笑いな気がする。


「俺ら全員、心のどこかで辰さんに会うこと嫌がってるでしょう? だからまじないも働くもんも働かない。純粋に、心から辰さんに会いたいと思うヤツがいれば、まだ可能性はあるんじゃないか……」


 申弥さんと目が合う。目を見開いて、だんだんと彼の言葉が尻すぼみになっていく。何か思うことがあるようだ。 


「申弥さん……?」


 腕を組み、ブツブツと何か言い始める。健午さんはその申弥さんの様子を、優しい目で見守っていた。

 少しの沈黙。丑理さんと李卯さんは亜未さんの傍で、こちらを 気に留めないほど、集中している。


「よし……試行錯誤あるのみ! やってみるか」


「おお! サルなら何か思いつくと信じてたぞ!」

  

 俺は子音さんの言葉が頭に蘇る。申弥さんは、頭が切れて、器用である。

 一点の迷いもない表情に魅せられていると、申弥さんは俺を指差してこう言った。


「精霊さん。アンタは今から、余計なことを考えずに龍堂辰幻に会いたい、いや、会うんだと心から強く念じてください」


「は、はいっ!」


 俺が肯定しかしないであろうことを見越してか、彼の指はすぐに健午さんの方向へ。


「ウマさんは、風馬襲歩を俺にかけてください。俺のまじないを強化してもらうっす」


「了解した!」


 健午さんが返事をすれば、2人は両手を合わせて組む。寸分違わぬ、息ぴったりの動作が美しくさえあった。

 

馬式呪法(ばしきじゅほう)風馬襲歩(ふうましゅうほ)!」

猿式呪法(えんしきじゅほう)猿狙倣影爪(えんそほうえいそう)・鼬!」 


 彼らが呪文を唱えると同時に、俺はとっさに目をつぶり、神仏に祈るときのように、手を合わせる。


 彼らが今からまじないを用いて何をするのか、わからない。

 だけど、彼らを信じる自分を、反射的にしたこの行動を、信じるべきだと思った。


 申弥さんに言われたままに、ただ、願う。強く、念じる。


 辰、龍堂辰幻さんに会いたい。会う。会うんだ。 


 浮遊しているような感覚が俺を襲う。これは間違いなく、申弥さんが出したまじないの感覚だった。


 しかし、意識が遠のいていく。自分という存在ごと、どこかに飛ばされているみたいだ。

 目を閉じていても、自分が暗闇の中にいる。それだけは認識していた。


 俺が生まれた日。神に突き飛ばされ、空間に吸い込まれていったあのときと、酷く似ていた。

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