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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
25/29

第25話 未

――十二支第8位、未。絵本では、道草を食い迷い、後半の順番になってしまったとか、午が未のペースに合わせて、仲良くゴールした、という説がある。  


 動物のイメージとしては……群れで行動していて、牧羊犬に追われているところを想像する。また、眠れないときに数えることも印象的だ。


 ここは学生寮の出入口前にある庭園。辺りは暗いし、庭木は風によりざわついて、俺を歓迎していないみたいだ。


 もっとも俺を1番歓迎していなさそうなのは、突如目の前に現れた人間だった。


「ヒツジ、呪い返しは大丈夫なのか!」


「ウマくん。身内のやり方なんて想定済だから大丈夫。それより、目の前のコレ……どうにかした方がいいよ」


 羊田亜未さん。またもや、他の十二支に聞いた話とは、違う。

 ヒツジをリードしているウマ。寅琳さんがそう言っていたから、勝手に亜未さんのことを消極的な人物だと思い込んでいたのかもしれない。


 彼の「異分子」という言葉に感じるのは、他の十二支よりも圧倒的に強い警戒心と敵意。どこか、李卯さんにも似ていた。


「異分子、なあ……ヘビが彼を排除しようとしていたのは、君の言う通り、異分子であると気がついていたからなのか?」


「や、アイツは多分からかい目的。地面スレスレで止まるように条件づけられた、タチの悪い呪いの形跡があるしね」


「おおっ、さすがだなっ! 人間になっても呪いに強いんだな!」


「……それほどでも」


 アレ……? なんか、2人の世界に入っていないか。

 さっきまで異分子とか言って俺を覗き込んでいた亜未さんは、俺に興味をなくしたかのように、健午さんの方しか見ていない!


 それにしても、巳乃さんは悪質すぎだろ……!


「あのっ! お言葉ですけど、俺は異分子ではないです! 神様直々に、神様の分身としてあなた方を支えるように命じられた精霊なんですから!」


「うむ、一神セレン! 神様の片鱗は俺にもわかるぞ! 俺から見る分には、君の言うことは正しいと思う。ヒツジ、彼はなぜ異分子なんだ?」


 異分子と言われて言い返さないわけにはいかないと、2人の間に入り意見する。

 健午さんが反応を示して、1番気になるところを亜未さんに振ってくれるものだから、ありがたい。


 まあ、亜未さんは半目で、俺を邪魔者のように見てくるのだが。


「……君には」


 亜未さんが何かを話そうとしたその瞬間、寮の玄関扉が開いて、大きな咳払いが聞こえた。驚いてそちらを見れば、寮父さんと目が合う。


「……青春はいいことだが、寮の外で騒ぐんじゃない! ほら、入るなら入れ!」


「わっ、すみません!」 


 寮の玄関前でごちゃごちゃ話してたわけだし、迷惑になっていたのだろう。


「まったく、今年の新入生は変な生徒ばかりだ。人間じゃないだの、寮に帰ってこないで校舎に居続けるだの……」


「うむ、俺は人間じゃないぞ! ウマ」


「わあっ、健午さん! 寮の中に入りましょうって!」


 この一連の流れ、既視感しかない。

 健午さんの言葉を誤魔化しながら、俺は寮父さんの脇をすり抜け、逃げるように中へ入った。


 やはり、俺は十二支が一般人に妙な行動や言動をしていると、不安になる。これはもう、精霊の本能だろう。


「……なんでそんなに焦ってるの?」


 亜未さんが気づけば横にいて、キョロキョロする健午さんの手を捕まえながら、不思議そうに俺に問う。


「……俺にもわからないです。本能的……に? 十二支の方々が人間界で問題を起こしてるんじゃないかと思うと、落ち着かなくて……」


「……ふーん、そうなんだ」


(興味なさげだ……!)


 そういえば……他の十二支はどうしているんだろう。結局、俺は部室に戻ることができなかったし、校舎に残ってる変な生徒とか噂があったし、心配だ。


 だけど、今は寮の自室に帰るしかあるまい。健午さんと亜未さんとは話し足りない。さっき何を言いかけたのか聞きたい気持ちが山々だ。


 だけどまた、寮父さんに怒られるのはよくない。

 現に、俺たちのことをめっちゃ凝視している。十二支に関することを一般の人間に聞かれてはいけない気がする、という意識もある。


「俺、自室に戻りますね。また明日、学校で話せるでしょうか? その、いろいろ聞きたいこととかあるので……」


「俺はいつでもいいぞ!」


 健午さん、即答した……彼が本当に十二支に戻らないと言ったことが、さらに謎を帯びてきたな。


 まあ、その真偽も明日確かめるとして……問題は明らかに俺を警戒している亜未さんだ。


 しかし、俺の心配をよそに、亜未さんは自ら提案をしてくれたのであった。


「……明日、家庭科室。ウマくんと一緒に来て。ただし、他の十二支連れてきたら、一切話さない」


「は、はい……」


 今は、条件を飲むしかあるまい。話をしてくれるだけありがたいのだ。亜未さんがかけたらしき呪いとか、俺をなぜ「異分子」と呼ぶのやら……聞くことがたくさんだ。


「それともうひとつ……ウシに、ちゃんとしろって伝えといて」


「ちゃ、ちゃんと……あ、はい。わかりました……」


 なんのことかはさておき……俺が了承すると、亜未さんがわずかに口角を上げる。

 犬猿までとはいかずとも、何かしらの因縁があるのではないかと思った。


「ウマくん、行こ」


「ああ。またなっ! 一神セレン!」


「は、はい。また明日……」


 仲良いなあ……1番ベッタベタしてる支合と寅琳さんに称されるにふさわしく、2人は手を繋ぎながら戻っていった。


(……………………疲れたな)


 今日の俺、やばくないか。しっかり授業を受けて、動物愛好部の部室に行けば、子音さんが誘拐されている。

 子音さんを探しに行けば、今度は俺が巳乃さんに誘拐された。


 それで、申弥さんとなんやかんやあって、それからもなんやかんやあって……まじない呪いがどうのこうので……空から落とされて……今に至るわけだけど。


 あ。もういいや、今日は寝よ。


 明日は明日の風が吹く。いいことわざだ。これ以上考えると、間違いなくキャパオーバーする。


 睡眠は脳内を整理するらしいし、今日あったことは重要なこと以外忘れてしまおう。 


「一神、疲れているのか」


 おっと、あまりに疲れた顔をしていたのか、寮父さんに捕まってしまった。心配してくれるのはありがたいけど、今は放っておいてほしい。


「いえ、その……新学期早々、いろんなことがありまして……」


 なるべく当たり障りのないように会話する。なぜか俺の言葉に寮父さんが同情的な目で見てくるが、彼も生徒を見守る立場だから、大変なのだろうと察する。


「そうか……私は、今年は問題を起こす新入生が多いと思っている。先ほどの馬宮や羊田も、授業を抜け出すらしいからな。関わる相手は……選んだ方がいいぞ」


「はは、そうですね……」


 優しいな、寮父さん。残念ながら、関わる相手を選ぶことはできないので、乾いた笑いを出す。


「……あの、問題を起こす生徒って、他に何をやらかしたんですか?」


「他に……か。たくさんあるが、聞きたいか……?」


「やっぱりいいです……」


 遠い目をする寮父さんに、今度は俺が同調する番だった。

 うん、聞かなかったことにしよう。今日は何も考えないって決めたんだ。


 何はともあれ、その後俺は寮父さんに挨拶して、ルームキー片手に自室へと戻った。


 しかし、部屋に着いた瞬間に、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、そのままベッドに倒れ込んでしまっていたのだ。


 目を覚まして見たのはとうに登校時間を過ぎた時計……ではなく、体温のような生温かさを感じ、柔らかくふわふわとした……


「メェ〜」


「はっ、えっ!? ひ、ヒツジ!?」


 ヒツジであった。

 気の抜けそうな鳴き声で鳴き、俺を乗せながらもトコトコと牧場のような場所を歩いていく。 


「亜未さん……ではないですよね」


 まさかと思って聞いてみるが、ヒツジは俺を無視してひたすら草原を進んで行く。

 なるほど、疲れ過ぎて夢を見ているのか。夢にヒツジとは、なかなか似つかわしい。


 ヒツジがぴょこんと柵を飛び越える。そして数歩歩いては動きを止め、小さく鳴いてその場に座った。


 降りろと言っているのかと思い、降りてヒツジから離れようとすると、服の裾を引っ張られて戻される。


「えっと、俺はここに居ろってこと?」


「メェ」


 俺が横に座ると、ヒツジはどこか満足げな様子だ。夢には何か意味があると言うけど、俺の深層心理はいったいどうなっているのやら。

 動くわけにもいかないから、夢から覚めるまで待つしかない。


「……だから……ですって……」


(ん? 何か聞こえる……)


「何度でもいいます。僕がそんな大層な役割につけるわけないです」


「……神様の御心のままに従うつもりです。ただ……呪いとは感情の揺れ動きが必要なもの。感情の起伏に乏しい私が、務まるものか……」


「んもう、どうしてそんな弱腰なの〜! 動物の大将の自覚が無いんじゃない!? 陰だからって陰気くさくなる必要ないんだからね!」


 ヒツジが立ち、首元のカウベルが揺れる。カランコロンと音が鳴ると同時に、俺は欠けていたジグソーパズルのピースを見つけたような心地がした。


 俺は、この会話を……知っている。


 十二支が決まってしばらくは、神は大将に与える力や役割を考えるため、動物たちを観察していた。


 この会話は、神が丑と未に能力を与える瞬間。

 2人は、天界や仲間を守るための「呪いの双璧」だった。

 他の十二支よりも、抜きん出て呪いに対する耐性が強く、敏感で、なお使用する際も強力になる。


 そのことだけは……思い出した。だが、ピースは見つかっただけで、完全には嵌まりはしない。


 もっと会話を聞けば、記憶が蘇るかもしれない。そう思ったものの、やがて会話は電波を拾わないラジオのごとく途切れ途切れになり、聞こえなくなってしまった。


「メェ〜!」


「どわっ! な、なに?」


 急に隣のヒツジが俺を小突く。立派なクルンとしたツノが当たりそうで怖い。突進はせめて亥寧さんだけがするに止めてほしいものだ。


 しかし、不思議なことだ。さっきの会話を聞いて、俺の中に組み込まれたのあろう、遠い遠い遥か昔の神の記憶が蘇った。


 はっ、睡眠は記憶を整理する……?  


「違うよ。君は呪いをかけられている。それも、かなり厄介な……」


「えっ?」


 今までメエメエ鳴いていたヒツジが、人の言語を喋り出し、人間の形を成す。


 モコモコした毛は、そのまま毛量のあるホワイトアイボリーの髪に。カウベルは鈴付きのチョーカーに。羊の目の独特な瞳孔の形はそのままだ。 


 こうして見ると、亜未さんの容姿は、元の動物の特徴をしっかり捉えている。


「なに、ジロジロ見て」


「あっ、いえ。急に姿が変わったので、驚いてしまって」


「なーんだ……気づいてたんじゃないんだ。僕を見るなり、人間名で聞いてきたのに」


「あはは、まさかと思って聞いただけなんですけどね……」


「ふーん……」


 彼らにとっては、まじないだの呪いだの、幾多の能力を目にしているだろうし、姿形が変わるなんて慣れっこなのかもしれない。

 俺は精霊とはいえ、思考はほぼ人間と同じようなものだ。


 ところで、夢の中で彼と話しているということは、実際の亜未さんと話しているということになるのだろうか。

 現実と夢は、繋がるとは思えない。


 それに、俺にかかっている「呪い」って何だろう。


「一神セレン。呪いの双璧とは、何を指す?」


「あ、さっき聞いた会話のことですね。たしか、亜未さんと丑理さんが…………あれ?」


(亜未さんと丑理さんが……何だっけ?)


 さっき聞いたはずなのだ、「呪いの双璧」という言葉。十二支に関わる言葉なのは間違いなくわかっている。

 なのに、なのに、どうして思い出せない……?


 俺が答えるのに手間取っていると、亜未さんが俺との距離を一気に詰める。互いの額が合わさるほどの至近距離に驚き、俺は動くことも言葉を発することもできない。


 ただ、次に紡がれた言葉こそは、確実に聞いたものであった。丑理さんが妙なポーズをして唱えた、亜未さんの呪いを解呪するための呪文だ。


「やっぱりか……其身にかかる呪縛の根源へ。返し報いよ」


 亜未さんの人差し指が俺のおでこに当てられる。瞬間、バチッと火花が飛び散るような音がして、彼は俺から飛び退いて距離を取った。


 呆然とした表情を浮かべた後、亜未さんは頭をおさえてその場に倒れ込む。


「亜未さん!?」


「ああもう……完全に弱ってる。十二支のままだったら……解けたかもしれないのに……!」


 急いで駆け寄って、明らかに変だったのはチョーカーの鈴。元は光沢を放つ金色だったのに、今やその面影もない漆黒。


 どうすればいい? 苦悶の表情を浮かべる彼を目の前にして、俺はまた、何もすることができない。


「一神セレン……これだけは忘れるな……君は、何者かに……記憶を、操作されている……!」


「記憶を……操作されている?」


 狼狽する俺に、亜未さんが訴えかけるように話す。どういうことなのかと内容を反芻しようとすると、頭を打ち付けられるようで、内部から何かに抑え込まれているような、気持ち悪さに襲われる。


 やがて亜未さんの姿も見えず、ぼんやりと目の前の景色が遠のいていく。

 チリン、と、わずかに鈴の音が鳴ったような気がした。


「……っ! はあっ、はあっ……」


 ジリリリリ、けたたましい目覚まし時計の音が耳に届いて、俺は飛び起きた。


「……すごい寝汗」


 内容は思い出せないが、悪夢を見た気がする。


 とりあえず、学校に行く準備をしなければと、未だ鳴り響く騒音を止めようと時計に手を伸ばす。

 しかし目にとまった時刻は……とうに、登校すべき時間になっていた。


「は? う、嘘だろ!」


 これでは、十二支に示しがつかない。俺は、彼らを指導するためにも、模範的な生徒でいなくてはならないのだ!


 遅刻だけはまずいと、準備もそこそこに急いで制服に着替え、俺は自室から駆け出したのであった。

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