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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
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第20話 呪いとまじない

「……お前も連れてこられちまったのか。まったく、アイツらは何してやがんだ?」 


 薄暗い中、子音さんの声が聞こえて安堵する。廊下から急に連れてこられたこの場所は、いったいどこなのだろうか。


「子音さん……! 無事だったんですね!」  


「無事ではねえよ!」


「そ、そうですか……」


 段々と目が暗闇に慣れてきた。目に入るのは、少し埃のかぶった、バスケットボール、マット、跳び箱……

 なるほど。俺がいる場所は、体育館の用具倉庫だ。


 座っていたマットから立ち上がり、周りを見回す。

 あまり用具が使用されていないみたいだけど、一見普通の学校の体育館倉庫だ。


 それにしても、子音さんはどこにいるのだろう。声は聞こえるけど、姿は見えない。

 やけにガタガタ動いている跳び箱はあるけど……まさかこの中に?


「子音さん、今ってどこにいるんですか?」


「よくわかんねえ。暗くて何も見えやしないからな。狭い場所に閉じ込められているってことだけはわかるぜ」 


「なるほど……俺、多分子音さんが閉じ込められている場所、わかると思います! 今すぐ助けますね!」


 狭い場所に閉じ込められている、ならば、やはりあの妙な跳び箱の中ではないだろうか。


 急いで近づき、白いクッションのついている1段目を取ろうとするも、動かない。

 思い切り力を込めているのにびくともしないなんて、そんなことあるのだろうか。


「な、なんで! なんなんだこの跳び箱〜!」


「おいおい、大丈夫か?」


 人間の俺って非力すぎ? いや、記憶の人間はそんなことなかった。男女2人、どちらも肉体的にも精神的にもパワフルだった。


「手伝おうかい?」


 柔らかな声が聞こえたかと思えば、件の跳び箱が嘘のように持ち上がる。

 隣を見れば、片目の隠れた糸目の華奢な青年が、上品に微笑んでいた。

 見た目とは裏腹に、力持ちなんだなあ。じゃなくて。


「あ、ありがとうございます……ええと、どちら様ですか?」


「ふふ、十二支の一員であったということだけは言っておくよ」


「十二支……!」


 やはり、十二支のうちの1人……! だけど、誰なんだ? 

 子音さんがこの場にいる、ということは、巳申の2人が彼を跳び箱の中に閉じ込めていたのには違いないのだろう。


 でも、目の前のこの人は子音さんを助けたも同然。つまり、巳と申ではないのか?


 そうだ。子音さんがこの人を見れば、間違いなく誰かわかるはずだ。


 とはいえ、跳び箱は1段目が取れているはずなのに、子音さんは中から出てこないし、何の反応もしない。

 不思議に思って跳び箱の中を覗き込む。そこは、ただの空洞になっていた。


「あれ、子音さんは……?」


「ああ、ネズミくんなら元いた場所へと送ったよ」   


「え……?」


 振り向けば、彼の手が俺の頬に添えられて覗き込まれる。なぜか、蛇に睨まれた蛙のように、身がすくんで動かなかった。


「僕はね、君に興味が湧いたんだ。感情の揺らぎが起爆剤となって、神様の片鱗が見えるのかな? でも精霊にしては不安定すぎるかな? 神通力が使えれば、僕たちにもっと影響を与えるだろうね……あはっ、興味深いね!」


「ひえっ……」


 やばい。おかしい人だ。ブツブツと何かを呟きながら、彼の手は俺の頬を撫でる。全身の毛がブワッと逆立つような、おぞましい恐怖に襲われる。

  

「おや、怖がらないでおくれ。君に危害を加えるつもりはないよ。ただちょっと、イロイロ見せてほしいだけなんだ」


「そ、それが怖いんですけど! そもそも、あなたは元十二支のどなたなんですか!」


「鈍感なんだねえ。僕が誰か当てるなんて簡単だろうに。あ、そうだ。一旦窮地に陥ってみればどうだい? 君の本来の力が見えるかも」


「い、いやいやいや。な、何しようとしてるんですか!」


 首元近くに伸びてきた手。その手から、明確に俺を害する意思を感じ取った。これに捕まったら、死ぬ。


 嫌だ。まだ生まれたばかりだぞ。元十二支に関しては、まだ全員と会えていないんだぞ。役目を終えるまでは、絶対に死ねない!


「おや、残念。帰ってきちゃったか」


「へ?」


 手が首元に触れただけで止まった。残念と言う割には、嬉しそうな顔をして、彼は柔和に笑う。


 俺が間抜けな声を出したと同時に、背もたれにしていた入り口の扉が開き、俺の体は後ろに倒れゆく。


 床にぶつかる……! 衝撃を覚悟して、目を瞑った。 


「あ、あれ……?」     


 しかし、予想していた衝撃は来なかった。扉の向こうにいた人物が、俺を受け止めてくれていたのだった。


 俺が今まで出会ってきた十二支の誰でもない。丸眼鏡をかけているのが印象的で、ちょっと胡散臭く見える人間だった。


「あ、ありがとうござ……どわっ!」


「邪魔」


「えぇ……」


 お礼を言おうとするも、俺は意に介されず、横に軽く弾き飛ばされた。邪魔、という一言を付け加えられて。


 この嫌な感じ、なんとなくこの人も十二支だな、と思った。

  

「ダメじゃないかサルくん。神様の使いは丁重にもてなさないと」


「はあ? 首を絞めようとしていたヘビさんが言えることじゃねえっすね。それより、なんでネズミさんを逃したんすか」


「……え! 巳申……!?」


 この2人が……ヘビとサル。蛇平巳乃と猿爪申弥。


「ネズミくんよりもっと面白そうな獲物を見つけたんだよ。ネズミくんを僕らが独占するって案も良かったけど、精霊くんを僕らのモノにした方がよくないかい?」


「……まあ、一理はある。不安定なのは生まれたての証拠。明らかにこの選抜のためだけに生み出されたようっすからね」


「そう。それで、能力を調べるのに手っ取り早いのは、危機に陥らせることだろう? わざわざ神様がこの精霊くんを生みだしたということは、何かしらの防御反応が出るはずだからねえ」 


「んで、首を絞めようとしてなんか出ました?」


「うーん、未遂だったからねえ」


 2人がこちらを見てニヤリと笑う。血の気が引く。

 なるほど、道理で子音さんが担当していたわけだ。この2人、危険すぎる……!


 脳から出された救難信号が、体全体に伝わって、俺の足は自然と彼らのいる方向の逆へと走り出す。一刻も早くここから逃げて、部室に戻るんだ。 


蛇式呪法(じゃしきじゅほう)鎖蛇蜷局(さだえんきょく)


「うわっ!」


 体育館の出入り口を目指す。しかし、目の前に突如禍々しい鎖のようなものが現れる。その鎖が、蛇行しながら俺めがけて絡みついた。 


 なんだ、コレは。

 1本の、細い鎖。複雑に絡みついているわけでもないのに、身動きがとれない。


 かろうじて動かせる首を、巳申さんたちがいた方向へと動かすと、巳乃さんと思わしき人間が、地面にへたり込んで、困ったように笑っていた。


 その様子からなぜか、思念伝達で具合の悪くなっていた、丑理さんを連想した。


「……これが今の限界かあ。ねえ、サルくん。しょぼくないかい、あれ」


「はは、しょぼいっすね。俺のまじないの方がまだ使え……ぐえっ、ギブギブ……首、絞めんなって!」


 ずっと変な現象ばかりだ。廊下から用具倉庫への移動。消えた子音さん。そして、今の状況。


 だけど、拘束されているとは思えないくらい、俺は落ち着いていた。


 この鎖。なぜか、知っている気がする。


「……この鎖って、どういう仕組みなんですか」


「ああ、これかい? 僕の呪いだよ。かなり弱体化しちゃってるけどねえ」


「の、呪い……」


「あれ、知らない感じかな? じゃっ、サルくん。まじないも見せてあげようよ」


「はあ? 力使いたくないんすけど。それに、この精霊の能力見るんじゃなかったんすか?」


「……見せてあげて?」


 呪いとまじない。寅琳さんから聞いた言葉。使える兆しは見えない。あの時はそう言っていた。


 ただ、先ほどの李卯さんが人間界でも呪いは使えると言っていたことや、目の前で繰り広げられる話の流れから、きっと、この2人は使えるのだろう。


 意味深な笑みを浮かべる巳乃さんを見て、申弥さんはため息をつく。


猿式呪法(えんしきじゅほう)猿狙倣影爪(えんそほうえいそう)!」


 手を胸の前で合わせて、握り、申弥さんは唱えた。祈りのポーズのようにも見えるが、目はつぶっていない。輝く眩い白い光の線が、彼の足元を囲み込んで、円を描く。


 綺麗で、目が離せない。「まじない」というが、その実態は何なのだろう。  


 おまじない。人間のイメージとしては、良いものだ。いい結果をもたらすためにする行為。

 緊張しないために「人」という字を飲み込んだり、痛みを和らげるために呪文を唱えてみたり。


 何を悠長に見ている、2人は、俺を苦しめようとしていたんだぞ、という意識が無いわけではない。

 現に、禍々しい鎖は俺のことを拘束している。


 でも、恐怖心とか、焦燥感というのはとうにない。今、この場で何が起きようとしているのか、見届けなければならないと思っていた。


 やがて白い光は分散して、小さな穴が現れた。鎖とは違って、ハッキリと既視感のあるものだった。


「あれ……イタチさんの、穴……?」


 そう、部室に手紙を届けにやってきた、イタチ。だけど、彼の出していた穴よりも随分と小さかった。


「……サルくん、君言ったよね? 僕の呪いより君のまじないの方が使えるって。あれ、ひょっとして……唱えるときに噛んじゃったかな?」


「うっせえ!」


「あっ、ちょっ」


 あ、サルさんがヘビさんを蹴って、彼の足が穴にハマった。そして勢いよくヘビさんの体が吸い込まれ、体育館から姿を消す。


 え……あの穴の先って、どうなってんの。どうしてあんな小さい穴に吸い込まれていっちゃったんだ!?


「あ、やべ。この穴ってどこ繋がったんだ」


 まじないを使った人がわかっていない!? このまじない、何を目的としたものなんだ。


 困惑していると、俺を縛っていた鎖がサラサラと消えていって、体の自由がきくようになる。

 おそらく、巳乃さんがこの場からいなくなっていたことによるものだろう。


 さて、俺と申弥さん。2人きりになったわけ、だが……どうしたものか。


「あの……サルさん。今のって、イタチさんの」


「あー、あんたらのとこにも来たんすね。俺のまじないは、他者独自のまじないを再現するもの。あんたがこちら側に連れてこられたのも、ネズミさんが消えたのも、ぜーんぶコレのせいですけど?」


 たしかに、穴のようなものから出てきた腕に掴まれ、吸い込まれて、俺は用具倉庫にいた。


 跳び箱の1段目を開けた瞬間から、子音さんの声が聞こえなくなっていたのは、穴から他の場所へと送られていたからなのか。

 しかしそうなると、あの跳び箱が奇妙で仕方ない。


「はは、困ってますねえ。じゃあ、アンタも入ってみます?」


 小さな穴は消えていない。そこを見つめて、申弥さんは意地悪く笑う。同じ陽だからなのだろうか。どこか、子音さんや、寅琳さんにも似た、自信に満ちた笑い方をする。


 それに、触発されたのかもしれない。もしくは、本来すべきことを、思い出したとも言えるかもしれない。


「……そうですね。入ってみたい」


「……はあ?」


「俺、十二支のための精霊なのに、十二支に関すること、全然わかんないんです。それを痛感する度、嫌で嫌で、情けなくてたまらない。だから、実際に経験しちゃえば、どういうものか知れるのかなと」


 呆気に取られた申弥さんの前にある小さな穴を目指して、近づいていく。

 大丈夫だ、怖くない。だって、一度通ったし、子音さんだってこの穴に入っていったのだ。


 片足を突っ込もうとする。その時だった。


「ちょっと待ったああああ!」


「えっ、戌慈さん!?」 


「……解呪」


 大きな声が聞こえ、こちらに猛スピードで走ってくるのは、戌慈さんであった。俺とサルさんの間に割り込もうとするので、焦る。 


 そこに来たら穴に落ちてしまう! 止めようとすると、ボソッと申弥さんが呟き、小さな穴は消えていった。


「よお。相変わらず、ご主人に尻尾振るしか脳がねえようだな。バカ犬」


「再会した瞬間に悪態とは。相変わらず性根が腐っているな。アホ猿」


 売り言葉に買い言葉。犬猿が揃ってしまった瞬間である。やっぱり仲が悪いのかと、絶望が俺を襲うのであった。

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