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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
16/29

第16話 戌

――十二支第11位、戌。10位でゴールしたものの、9位の申との仲違いを防ぐため、間に酉が入り、11位となった。

 どうにも申との関係性が描かれることが多いが、実のところどうなのだろうか。


「亥寧さん! 待ってください! っていうか、3組ってそっちで合ってるんですかー!?」


「セレン! はやくはやく!」


 第2回十二支選抜……人間からの人気で順位の決まる、通称「トゥエルブ・セレクション」とかいうものが判明した次の日。

 俺らは早速、次なる元十二支を集める試練へと挑んでいた。


 作戦の方は……事前に子音さんから聞いていた。


「いいか、セレン。まずイヌに会え。イヌは神に忠実だ。神から創られた、十二支のための精霊であることをアピールしろ。それでアイツは落ちる」


「え、それだけでいいんですか!?」


「ああ。問題なのはウサギだな。アイツは警戒心が強いから、ポッと出のお前に対して必ず身構える。だが、イノシシを連れ、イヌを仲間にした上なら、仲間意識が強いアイツは落ちる……はずだ。3組支合は比較的穏やかで、話は通じる。なんならトラやイノシシより楽かもな。ただ、油断はするなよ」


「はいっ!」


 ざっくり言えば、先に戌こと犬浦戌慈さんに接触し、仲間にする。

 その後に、卯こと兎川李卯さんに会って、仲間にするのを試みるのだ。


 なのに俺は今、またもや校舎内外を爆走する亥寧さんに振り回されている。


「なんとなくこっちにいる気がするんだよねー!」


「な、なんとなくって……もう、結構走ってますけど……!」


「わはっ、いーぬーくんっ! あーそーぼー!」


「え、ちょっ、そんな大声で呼ぶんです!?」


 予測不可能。現在地はグラウンドだが、今この場で無邪気な声が響き渡ったと思う。周りの視線が痛い。


「むー。いつもならすぐ遊んでくれるのに! あ、そうだ、思念伝達しちゃおっか!」


「あ、できるんですね……」


 最初からそうすれば良かったのでは、と口から出かけて踏みとどまる。


 支合だけに使えるのか思いきや、十二支間全員に適用させた丑理さんもいるので、思念伝達とはいまいちよくわからない謎の能力だ。


 亥寧さんは前に寅琳さんがやったときと同じように、こめかみらへんで人差し指を上に突き立てながら、集中し始めた。

 俺もこのポーズすればできないかな、なんて。


「いーぬーくん! あーそーぼー! えっ、なになに? 今はそんな気分じゃない!? なんかイヌくん落ち込んでるね! どしたの! ん〜おれはね〜、セレンっていう精霊と一緒に、イヌくんとウサちゃんを仲間にしようとしてる!」

 

 電話みたいに話し始めた……!?

 他の元十二支が使う思念伝達の会話の内容は、全くわからなかった。

 だからこうしてダダ漏れなのはありがたいような気はするけど、そんな直球で今回の目的を言ってしまうのか!?


「どこにいるって? えーとね。あ! ちょっと前にウシくんがみんなに向けて喋ったところ! 『ネズミ、トラだ』ってね! あ、こっち来てくれるの!? じゃあまたね!」


 まるで受話器を置くかのように手をこめかみから下ろす。

 どうやら話はまとまったようで、元十二支の戌慈さんはこちらに来てくれるみたいだ。


 癖なのか、亥寧さんはわはっと声を出して笑いながら、元気いっぱいに俺に飛びついてきた。


「あ、ありがとうございます、亥寧さん。戌慈さんに会って仲間に説得するのは、任せてください」


「わは、頼もしいねセレン! でもなんかね、イヌくんちょっと元気なかったみたい。なんでだろう〜?」


「元気がない……?」


「イヌくんはね〜、みんなの中で1番マジメさん! それで、みんなと違って神様のこと、誰よりも信じてる! あ、おれも神様のことは好きだけど!」


 そういえば、亥寧さんは、十二支の再選定が行われることを、神様に裏切られた気分だったと言っていた。

 

 それに気になる、神様の言っていたこと。「飽きたから十二支を変える」……? 矛盾していないか?


 十二支を新しいメンバーにしたいのなら、そもそも元十二支を選抜に参加させるべきではないのでは……? 


「セレンー? どしたの、難しそうな顔ー!」


「ああ、いえ。その、戌慈さんが元気がない理由って、誰よりも信じてる神様に、裏切られた……と思ったのかな、と。亥寧さんもそう言っていたので」 


「ああー! 言った言った! んでもねー、イヌくんなら『きっと何か深いわけがあるに違いない!』って吠えると思う! 言ったでしょ? 誰よりも神様を信じてるって!」


 凄まじい忠誠心なんだな。たしかに飼い主に忠実な犬のイメージには合致する。

 きちんと向き合えば話が通じそうだから、少し安心はした。


「だからこそ、神様から使いに出された俺がしっかり説得すれば応じてくれるはず、頑張ります!」


「だいじょぶだいじょぶ! 何か起きたらおれがどーにかしてあげる!」


「あはは。大船に乗ったつもりで、ですね」


 亥寧さんは、朗らかで真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。他の3名は、頼りになる方達なんだけど、癖が強すぎる。

 

 いや、亥寧さんもかなり癖は強いし話が通じないこともあるんだけど、うん。やっぱり素直っていいなって思う。


 少し緊張が解れて、周りを見渡してみる。いろんな運動部が活動中である。

 亥寧さんは暇を持て余したのか、俺にしがみつくのをやめて、地面のアリに話しかけていた。


 そういえば、戌慈さんって、どういう容姿をしているんだろう。元十二支って、なぜか総じて見目が良い。


 もしかして、人間の気を惹くためなのかな。目立たなければ、アピールする機会も得られない。

 いわゆる神様の計らいなのか。いったい十二支をどうしようというのだろう。


 はあ、とため息をつく。自然と俯くので、視線は地面の方に。

 あ、アリさんだ…………虫って選抜の対象なのかな。


「あの、お考え中と見受けられるところ、失礼いたします」


「へ!? あ、えっと……何でしょうか?」


 あらぬ方向へ思考が向いていたところ、急に話しかけられたことによって意識が浮上する。パッと顔を上げると、つぶらな瞳と視線が合う。


 土にも似たふし色の髪を靡かせて、まるで主君に忠誠を誓う武士のごとく跪く青年。

 しかし、堅苦しすぎるわけでもなく、どこか、主人の前でお座りしている犬を想起させるようだ。


 そう、可愛らしく尻尾を振って主人に撫でられるのを待っている、あの……


「僕たちに仕える、神様の使いの精霊セレン様、ですよね。お会いできて嬉しいです」


「ということは……元十二支の……」 


「はい。申し遅れました。僕は元十二支第11位の、戌。今は犬浦戌慈という、人間としての異名があります。何か困り事があれば僕が力になるので、何でも言ってください」


 好青年、だ。さすが人間に愛されている動物。

 出会ってすぐに仲間になってくれると子音さんが言っていたが、こうも好意を顕にされると戸惑ってしまう。


 あと、地面に正座しないでほしい。


「あー! イヌくんだ! 何してるの? セレンから説教された?」


 アリに夢中になってた亥寧さんが戻ってきた。やっぱり側から見るとこの状況、いじめてるみたいに見えるよなあ。


 戌慈さんは亥寧さんを認めると、地面から立って険しい顔をした。俺に向ける態度とは程遠い。番犬が脳内によぎる。


「イノシシ、君はセレン様に何をさせているんだ?」


「んー? さっきも言ったよ! みんなを仲間にしに来てるって!」


「『トゥエルブ・セレクション』……あの条件で、十二支が再び元に戻れると君は思うのか?」


「おれも難しいと思ったよ〜。でも、12匹力を合わせれば、どーにでもなるんじゃない? 今までだってそうしてきたんだし!」


「僕は……何もしなくても、また十二支になれる素質がある。ウサギさんだってそうだ。僕たちが君たちの仲間になったら、和を乱すんじゃないのか?」


「わは、質問が多い! めんどくさい! セレンどーにかして!」


「ええ!?」


 さっき、何が起きたら助けてくれるって言ったのに!? まあ、回りくどいのが苦手なんだろうな、とは思うけど!


 でも「何もしなくても、十二支になれてしまう」、その言葉から、戌慈さんが仲間になることをためらっているのをハッキリと感じ取れた。


 犬と兎は、わざわざ元十二支に協力せずとも、自らが何もしなくしても、上位12位以内に入れる人気がある。

 どちらも可愛らしい上、人との関わりが深いからだ。


 その事実を突きつけられながら、他の元十二支は人気を集めなければならない。

 元十二支内の争いの火種になる事を、戌慈さんは懸念しているのではないのだろうか。


 だとしても、あの神様がこの選抜において何もしない動物を、再び「十二支」にするとは思えない。

 競争とは、最後まで諦めなかった者、手段を問わず闘ったものが勝利する。


 第1回の選抜が、それを物語っているはずだから。


「……俺は、慢心が勝利に繋がるとは思えません。とある童話で、ウサギがカメに負けたように、この選抜は何もしなかった者が、負ける。そんな気がします。それにきっと、神様が抜け道を用意するでしょうから。その抜け道を見つけ出すためにも、12人みんなで力を尽くすことが必要だと思います。元十二支同士の衝突だって、もしかしたら必要なことかもしれませんし。だから、あなたも仲間になってほしい」


 戌慈さんと向き合って真剣に訴えかける。あなたが必要だ、ということがどうか伝わってほしいと願いを込めて。


 おお〜、という間延びした声が拍手とともに流れたのは、真剣な雰囲気ぶち壊しだけど。

 しかし当の戌慈さんはといえば、目を丸くして微動だにしない。


 何かマズいこと言ったかな。あれ……よく見ると、視線が俺の後ろの方に……?


「誰が、ノロマなカメに負けるって?」


「へっ?」


 後ろを振り向くと、春の陽気に相応しい桜色の髪をした、赤い瞳の中性的な人間が、こちらを睨みつけていた。

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