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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第1章 十二支結集編
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第15話 トゥエルブ・セレクション

「元日の朝、私の元へ挨拶に来た12匹を、動物の大将とする」


 十二支を決めた、競争の内容だ。絵本では、動物たちが集まる広場に掲示していたり、手紙を配ったりと、あらゆる方法で動物たちにこの内容を伝えていた。


 いったい今度は、何をするというのだろうか。


 耳と尻尾のある人間……この場合半獣とでも呼べばいいのか、イタチではないかと子音さんに言われた青年は、郵便局員を思わせる帽子を外し、礼儀正しく挨拶をした。


「ああ、俺は十二支になる気ないんで、運営側に回ってるんすよ。改めまして、俺はイタチこと鼬雲朔日(いたちぐもはじめ)。元十二支付きの、郵便屋さんやることになりました。あ、はいこれ手紙です。用が済んだからさっさと帰りますねえ」


「お、おう……って待て! 運営側ってなんだ、神は俺らに何をやらせようとしている!」


「……うん? そこの精霊から聞いていないんすか?」 


「え……?」


 鼬雲さんが不可解そうにそうこぼすと、周りの視線が一気にこちらへと集中する。その刺すような視線に、思わず怯んでしまう。


「あー、1番最初に神様が創られた精霊だから、何か不具合でも起きたんですかねえ。精霊さん、何のためにこのような事態になっているのか、その理由がわかります?」


「い、いえ……何も。神様から、選抜における元十二支の導き手になれ、と聞いただけなので」


「……ふうん。ま。神様に報告しておきましょう。手紙さえ読んでくれれば今はいいんで。じゃ、俺は失礼しますよ」


 淡々と言って、鼬雲さんは忽然と姿を消してしまった。

 妙な穴のようなものを出して入っていったが、あれも何かの能力なのだろうか。


 子音さんは鼬雲さんを追及しようとはせず、ただもらった手紙を怪訝そうに見つめ、やがて心底嫌そうな顔でその封を開けた。


「……なぜ、イタチが……」


「はん、唯一手紙もらえんかったイタチが郵便屋さんなんて、皮肉やなあ!」


「タチくん、巣穴にこもってたから広場のお知らせも見てなかったらしいよねー! 運が悪いね!」


「え、手紙もらえなかったのって本当なんですね!」


 丑理さんが静かに何かを口にしたのが気になったが、寅亥支合がイタチさんについて話したので、ついそちらの方に意識がいってしまう。


 俺のせいではなく、内なる十二支絵本好きの記憶がそうさせるのだ。

 悲しいことに精霊としては、鼬雲さん曰く不具合があるようだから……


「…………はあ!?」


 突如、子音さんの驚いた声が部屋に満ちる。呆然とした様子の彼の手から、紙がヒラヒラと円卓の上に落ちた。


 なんだなんだ、とその紙を覗き込んで、この場にいた全員、書かれていたことに驚愕した。


「第2回十二支選抜……トゥエルブ・セレクション……?」


「何で横文字やねん。それより、問題は……」


「これってどういうこと! おれたち何すればいいのー!」


「…………ネズミ、これは」


「人間からの人気を集めた動物、上位12位を次の十二支とする……だ? 嫌なこと言ってくれるじゃねえか! 完全に俺への当てつけか? あのおとぼけ神が!」


 手紙に書かれていたのは、競争のお題だった。


 いわゆる、「人間の好きな動物ランキングで、上位12位以内に入れ」ということだ。


 人の心を動かすことは、難しいことでもあり、簡単なことでもある。悪いイメージが定着してしまえば、なかなか消すことはできない。


 しかし、人の好意というものは単純なモノで、きっかけひとつで「好」にも「嫌」にも、形を自在に変えるらしい。


 人間の人生が教えてくれる、人の理不尽さだ。神はなんてものをお題にしたんだ。


 場の空気が重くなる。元十二支は、人間に人気の動物もいれば、嫌われ者の動物もいる。動物か……? と疑問に思う者もいる。 


 その格差の中で、数多の動物たちよりも人気を集め、再び十二支を復活させるというのは、誰が見ても不可能に近しいことであった。


 ただ、諦めてはいない。みんな、瞳に灯る輝きが、消えていない。

 やがて、寅琳さんが軽く笑って、それに釣られるように亥寧さんがにぱっと笑った。


「なんや、面白くなってきたやないの。なあ、嫌われ者の筆頭のネズミくん? どんなお題が来ても、俺らを十二支に戻してくれるんやろ。あの言葉、嘘やったとは言わんよな!」


「おれたち、そこらへんの動物に負ける十二支じゃないよ! ね、ウシくん」


「……ああ。諦めずにいれば、不可能なことなどないと、私は思う」


 丑理さんは真顔のまま静かに、だけど強い意志を感じさせるように話す。俺も、諦めたくない。力になりたい。


「俺を使ってください。俺には2人分の人生の経験があるようなものですから、人の心をお見通し……とまではいきませんけど、少なくとも人気を集める上では役に立てるはずです!」


 子音さんは、ずっと黙っている。きっと彼は、この場の中で1番、これからすることの困難さを痛感しているのだと思う。

 先を見据えることに、とても長けているようだから。


 怒りによるものか、俯いて、震えている。子音さんの言葉を、俺は待っている。

 俺が部長だとしても、リーダーは元々首位であった彼だと思う。


 鼠入子音とは、俺にとって出会ったときから見本となってくれた、勇気をくれる指導者なのだ。


「…………この中で」


「はい?」


「この中で1番人間に詳しいのは俺だ! 調子に乗んなよ精霊が!」


「え、ちょっと!? 今そこに負けず嫌い発揮します!? ちょっと、頬を引っ張らないでください!」


 やっぱり前言撤回しようかな。何で俺、頬をつねられているんだろう。

 子音さん、どうにも性格が子ども染みているところがあるんじゃないのかと思う。


「…………セレン、おまえが神に近しい存在故の八つ当たりだ。気にすることはない」


「やつあたり……?」


「言われてんでネズミくん。流石に動揺が隠せないんやなあ! 何百年振りやろ! あーおもろ!」


「ネズくん元気出してー!!」


「うるせー!!」


 子音さんの行動の意図を見透かしている丑理さんに、これが支合……! と若干の感動を覚える。


 しかし、寅亥コンビが声を荒げる子音さんにニヤニヤニコニコしながら、俺でも鬱陶しいと思うであろう絡みを続けている。

 このままケンカになってもマズイ。間に入って口を開く。


「とっ、とにかくっ! このままでは、俺たち全く勝機がありませんよね! これからどうしましょうか!」


「それを考えるのが、部長の仕事なんじゃねーの?」


「う、意地悪ですね……!」


 標的が俺に変わってしまった。たしかに部長だけど、半ば強引に押し付けられた部長だけど! 


 先ほど理不尽な態度を取られただけに、馬鹿にするかのような言い回しが解せない。


 このままなのも癪なので、自分の意見をぶつけてやろうと、円卓に前のめりになる。


「俺は! とりあえず前に進むしかないと思ってます。元十二支を全員ここに集めない限り、何も始まらない。子音さんもわかってはいるのでしょう?」


「まあ、そうやろな。ネズミくん、部長は真っ当なこと言ってんで、何をそないに焦ってんねん」 


「え! 焦ってるの!? ネズくんどこか悪いの!?」


 焦っている……? たしかに、子音さんはこのお題にどう向き合うか、唯一話していない。


 俺らがそれぞれ前向きな意志を示す中、まるで本意をはぐらかすかのように、丑理さん曰く、俺に八つ当たりをしてきた。


 またもや寅亥2人に詰められ、子音さんは視線をフイと逸らす。さっきの状況に戻っては堂々巡りだ。


 どうしよう、どうにかしないと。対応に困っていると、黒髪が視界に入って、ふと思い至る。

 支合である丑理さんなら先ほどみたいに、子音さんの機微が手にとるようにわかるのではないだろうか、と。


「……すみません、丑理さん。子音さんの様子がおかしい訳ってご存知ですか……?」


 ごちゃごちゃしている3人の隙を見て、こっそり丑理さんに近づいて耳打ちする。

 俺の主観だが、丑理さんは、十二支相手だと積極的に話さないように見える。


 話を振られれば答えるけど、気になったことではないと、自らは話さない。


 そう思うのは、亥寧さんが仲間になって、思念伝達や神通力やら難しい話をしていた時、妙に饒舌だったからだ。


 だからこそ、この状況下で口を出さず、成り行きを見守っている彼が、いったい何を考えているのか……それを知れば、解決法が見つかるかもしれない。


 期待を込めて、丑理さんの瞳を見つめると、彼はなんてことない風に、サラッと返答した。


「……ああ、ネコだ」


「ねこ? そうか、ネズミの天敵……あっ……」


 ネコ、猫といえば、犬と同様に多くの人間に飼われている動物。

 愛らしいつぶらな瞳としなやかな体躯、そしてつれない態度が人間を虜にし、私は猫の下僕であると人に言わしめるほどの魅力を持つ。


 対して、家に現れると悲鳴をあげられ、やれ不清潔だと罵られ、下水道や薄暗い路地裏に住んでいるイメージが湧き、十二支の話では猫を騙したおかげで好感度ダダ下がりだったあの……と、とんでもないな。「ネズミ」という動物は。


「今は……焦燥に駆られているようだが、次第に冷静になる。どのような逆境でも適応し、力を発揮できるのが、ネズミの強みだ」 


「……本当に信頼されているんですね、子音さんのこと」


 当たり前のように言ってのける。ネコのように騙されたといってもおかしくないのに、こんなに信頼してくれる相棒がいるなんて、子音さんの求心力がすごいのか、丑理さんの大らかさがすごいのか……とはいえ。


「あの、寅琳さんと亥寧さんって、どうしてあんな絡み方を……?」 


「……やつらも、ネズミの気質をよくわかった上であのような行動を取っている、とは思う。十二支は皆、負けず嫌いだからな。少しでも弱気になっているネズミの姿を見て、腹を立てている……うむ……励ましている……とも言えるだろうか」


 視線を騒がしい方に移せば、子音さんは寅琳さんと亥寧さんに頭と足を持ち上げられ揺さぶられていた。


 と、思えば次の瞬間に子音さんは円卓の上に投げられる。な、何しているんだ、この2人……!?


「ネズミ……大丈夫か」


「頭冷えたかにゃ〜?」 


「わは、にゃんにゃーん」


 あ、子音さん完全におちょくられている。丑理さんだけでなく、やはり寅亥コンビにも動揺の理由を把握されている。


 それほどまでに、ネズミとネコの因縁は根深いのか、はたまた十二支の絆がなせる技なのか。


「おう……おかげ様でな……! 毎回お前らの悪趣味さには感謝してるぜ……!」


「わーい! 褒められたよトラくん!」


「褒められたって思うのはお前くらいや。んで? 結局これからどうするんや、ネズミ」


 冷静さを取り戻したらしい子音さんは、円卓の上から降りる訳でもなく、その場であぐらをかいて話し始める。


 人間らしくない行儀の悪さが、彼が人ではなかったということを再認識させる。


「方針は今まで通りだ。まずは、残る8匹を集めるのが先決。お前らの言う通り、そうしないと十二支の復活は不可能だ。ま、集められたところで、困難なことに変わりはない。だがあの神のことだ。抜け道がどこかに必ずあるはず。だいたい、現段階でルールが曖昧だしな」 


「ま、どうにかなるやろ。いざとなったら強行突破で何でも解決や!」


「わは、大丈夫だよ! どうにかなるなる!」


「脳筋どもはお気楽でいいな……」


 子音さんの深いため息をつく姿は、苦労人そのものだ。


 脳筋……と称された2人だが……寅琳さんって亥寧さんに振り回されるらしいけど、結構似た者同士で息ぴったりなことが、行動や言動からわかる。


 迫力のある支合だから、2人で何でも突破してしまいそうな勢いで、子音さんたちとは別方向で頼もしいとも思う。


 何はともあれ、アクシデントはあれど、方針は元に戻った。精霊としての俺の存在はイタチさんによって謎が深まるばかりだ。


 まあ、わからないものはわからない。どうにかなるだろうと、楽観的な思考がこちらにも移ってしまったかのようだ。


 次に仲間にすべきは、元十二支第4位の卯、第11位の戌。


 そういえば、兎と犬って、人間に大人気の動物だ。 

 抜け道を探さずとも……何も手を加えずとも、そのまま十二支になってしまえそうな。

 その事実が、どうにも胸を騒がせるのであった。

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