第13話 結成
ここは十二将学園、高等部。数える単位に東京ドームを用いそうな敷地の広さを持つ、私学である。
そして、その敷地内をずっと走らされているのが、俺。一神セレンである。
「はあっ、はあ……あ、あの……これはどういう」
「走ってる! わは!」
寅琳さんの言葉がよぎる。話が通じない。
仲間になってほしいといった途端に、亥寧さんは走り出した。この走りが何を意味するか全くわからない。
しかし、走るのを緩めてしまうと見失ってしまう。結局走ってる意図は聞けず、必死に追いつくしかない。
寅琳さんが追いかけてくる様子は全くなく、あのトラ、俺に全部投げ出したな、と恨めしく思う。
だけど、これが彼に認めてもらう試験なのだから仕方がない。だがしかし憎らしいものは憎らしい。
「おれね! 神様も十二支のみんなも大好き! だから神様があんなこと言い出して、裏切られた気分だったんだ!」
「……か、かみさまは、なんておっしゃったんです……か?」
走りながら、亥寧さんが話しかけてきた。
会話を返すにも体力が限界に近いが、言っていることが気になったので、力を振り絞って返答する。
「飽きたから、十二支変えるんだって! さすがにおれもびっくりしちゃったよね〜。いつもの冗談かなって思った! でも違った! だからおれたちみーんな、離れ離れになっちゃった!」
走りながら振り向いた彼の笑顔は、元気の塊そのもののようだった。
だけど、声色がわずかに震えていて……悲しみを純真な笑顔の内に隠している気がした。
「だからね、精霊さん。君の存在が、結構嬉しかったんだ! ちょっとだけ神様の気配を感じるし、弱くても力をくれる存在だった! ウシくんが変な思念伝達してくれたおかげで、みんなここにいるんだって安心できたし! ネズくんはもうネズくんって感じで! トラくんはおれのこと無視した! ひどくない!? 支合なのに! あーあ! 早くみんなに会いたいなあ! わはは!」
走りながら、よく周りに響く大きな声でそう言う。
ああ、彼は本当に、仲間が大好きなんだなあ。俺の存在ですら、力をくれたと言ってくれる。
俺がここにいることを真っ直ぐ肯定してくれたから、胸がジーンとした。
「俺が……ゲホッ、みなさんを……ゴホッ、元の座に戻します!」
「だいじょぶ〜?」
カッコつかない。喋るたびに死にそうになるので、仕方がない。ていうかいつ終わるんだろう、この拷問。
気づけば校舎内に入っているんだけど、アレ、廊下は走らないって習わない?
ああ、今前を走ってるの、イノシシだった。止まるわけない。
教師に見られたら怒られるなと思いながら、彼を追いかけていると、とある扉の前でピタリと彼が止まった。
俺は止まりきれず廊下をすっ転んだ。なんで、イノシシって急に止まれないイメージなのに……!
「ぐえっ……亥寧さん、どうしたんですか……」
「わはっ、セレン! これからよろしくね!」
「……へ?」
亥寧さんが扉を開けると、そこには例のトップスリーがいた。
状況についていけず、素っ頓狂な声を上げると、寅琳さんが愉快そうに笑った。
「ははは! まさかコイツの全力についていけるとは思わんかったわあ。意外と根性あるやんか」
「あ〜! ネズくん!」
「い、いのしし……わかったからのしかかんな。ほら、ウシだ」
「ウシくん!」
「む……再会できてよかった」
「わは! おれも!」
「え、えーと……これは……?」
「合格ってことや。イノシシは、お前が諦めずに、見捨てずに着いてくるかってのを確かめたかったんや。いかなるときも、十二支を思い、大事にするか、見極めるためにな。俺は思念伝達で、部室の場所を教えただけやで?」
「わはっ、ごめんね。無理させちゃって。ね、セレン。今はわからないけど、君にできることあると思うよ! ね、変な思念伝達したウシくん」
「……ああ。私の思念伝達が暴走したのは、推測だが……おまえのせいかもしれない」
「え!? 何の話です!? もう何がなんだかよくわからないんですけど!?」
怒涛の展開である。校内全力疾走する拷問は、寅亥支合コンビによって計画されていたってことなのか? なんだ、仲悪くないじゃん!
とにかく、2人に認められたことには、間違いないからよかった……と、思いきや、亥寧さんの言っていた「ウシくんの変な思念伝達」とやらは、俺が影響していた?
そもそも変な思念伝達って何。もう何が何だかわからない。
「……ネズミを呼び出したとき、疲れ切っていたのは、十二支全員に向けて思念伝達を使っていたからだ」
「ウシくんの声、近すぎて逆に届かなかったトラくん以外の十二支みんなに、届いていたってことだよ!」
「ぜ、全員……そのことと俺、何の関係が……?」
「……今のところはわからない。トラに追い詰められた際、おまえが何かしらの神通力を発揮し、瞬間的に私の力を高めたのかもしれないと、私は推測する」
「じ、神通力……」
そういえば、寅琳さんも言っていた、なんたらは使えないにしても、神通力なら……? と。
俺にも、元十二支にもわからない、俺の秘された力。あるならば、使えるようになりたい。
「トラくん、イジメちゃダメだよ!」
「イジメてないです〜遊んでただけです〜」
「はいはい、そこまで。イノシシ、まずお前には入部届を書いてもらうぜ。学園長とは話がついてるから、これで部活動は結成だ」
「はいはーい! 猪、野、田、亥、寧! これでいいー?」
「字がきったねえ!」
学園長とは話がついている、サラッと言える子音さんはさすがだ。
かくして、俺と元十二支4人の署名によって、「動物愛好部」は結成された。
人間になって2日目で、元十二支の4人を仲間にできるなんて、順調だ。
この調子で、あと8人……大変だけど、うん。きっと大丈夫だよね。
「ん……? 部長は1年7組の一神セレンとする……? え!? 俺が部長なんですか!?」
「当たり前だろ、俺らは競争に専念しなきゃいけねーんだから」
「む……すまないが、よろしく頼む。セレン」
「大丈夫やって。俺らより人間に詳しいやんか、な?」
「わは! よくわかんないけどよろしくね!」
「くうっ……わかりました! 頑張りますよ!」
動物らしく、自分勝手で気まま。あと8人……? こんな感じの人たちが? おそろしい。気が遠くなる。不安である……いや、とにかく前に進むんだ。
俺たちはきっと、まだスタートラインにすら立てていないのだから。




