2.
「減ったかな」
二階に上がった蘆田が、蕎麦を食っている親分から。ふと開口一番。
聞いた言葉。
「人数がまた、な」
啜る音の中。
鼓を打つ音。
銀下は何度も通っているので、常連だ。
女の子たちも、手慣れている。
酒と、蕎麦。
銀下の動くタイミングに合わせて舞い、鼓を打つかのような。
実際、そうだった。
「今日も、でしょうか」
と蘆田。
「今日もだ。俺ぁあんまり人数は、把握していやしないがね。顔だけは忘れねえ。千倉も連れてけ」
「何人くらいとお思いで」
蘆田は、注いでやる。
銀下は、ぐっと干した。
「三人だな。外回りのやつらと思うがね。あとは自分で調べろ」
「ええ。で、千倉が気になることを言うのですが」
「何」
もう一口啜る、銀下。
「傷口が似ている、って言うんですよ」
言いながら、蘆田は銀下の書斎。
組長室の、神棚を思い出していた。
神棚のくせに、十字架のブローチなんかが置いてあるのを。
「斬り口が、かい」
「ええ。十文字に斬ったように、見えるとかで」
「それぁあれか。前見たやつも、そうだったのか」
前、発見した一部。
組の者の一部は、上半身だった。
下半身が丸ごとなく、マネキンのように見えた。
蘆田には。
首筋に十字の痕。
そういえば、組長室にも十字架。
ほかには?
クロス模様のライター。
銀下は、タバコは吸わない。
もっぱら、キセルである。
「ええ」
酌をする蘆田。
「十字ですね」
今の千倉と蘆田が見ている足の一部も、十字の傷痕。
「何か、いわくがあるんですかね」
と千倉。
「そういえばですけれど。最近、よく出入りしているのを見るんですよ」
「何が」
「おつかいー! とか言って。ああ」
千倉がふと顔を上げて、向こうを見る。
蘆田も、同じ方向を。
何か、包みだ。
砂浜へ、無造作に置かれる。
かなり大きい。
中身が少し見えた。
白い。
「アイツですよ。よく来るの」
「鍵ちゃん」と店主が呼んでいた。
ロボット。
荷物を置き、立ち去ろうとする。
というか、瞬間で、防波堤向こうを歩いている。
中身は、白い。
「千倉」
と蘆田。
「あの包み、見とけ」
言うなり、蘆田は走り出す。
単純かもしれないが。
原則を平気で破るやつというのも、出て来たのかもしれない。
という考え。
「人を殺してはならない」
その原則だ。
蘆田も唯一知っていたが、鍵十字というのがある。
あの舞妓が、はやくも。
その一体目に、なったのかもしれない。