表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1.

泳いでいるようにも、見えなくもない。

その歩き方、身のこなし。


何処をどう見ても、というか後ろ姿なのだが。

蘆田にとっては「舞妓さん」であった。


黒くて高い下駄から白く伸びる足首と、足袋。

品の良い花柄の裾、背負っている赤い唐笠。

そう。


後ろ姿だけ見ればそうなのだが、振り返って、イメージが崩れる。

顔が違う。


「なんだ。ヤツか……」


蘆田(あしだ)は思う。


このところ、「舞」とか「芸」の世界にも、進出してきているのがロボットである。

顔だけが、電子的なのだ。


日本列島、海の近く。

京都であった街々は、また細かく区分され直し。

機械的な面でも、大幅に変化してきた現在。


いま、ロボットが唐笠を畳んで、くぐった門構え。

蘆田もくぐる。

彼は若頭だ。

親分は、大体、この店に。今の時間、蕎麦を食いに来る。


親分は銀下(ぎんか)という。

彼の首筋から肩甲骨の辺りにかけて泳いでいるのが、日輪模様。

つまり、太陽だ。

と、本人は言っているが。果たしてそう見えるかは、別として。


扉向こうからの声。


「あら、(かぎ)ちゃん。おかえりー。蘆田さん、どうぞ。お二階どす」







泳いでいるように見えなくもないのは、オウムガイの殻もそうだ。

たまに砂浜周辺で、漂っている。

ただし、中身がない。


磯野葛島(いそのかつらしま)

その島が近いが、区画整理でこの辺の砂浜も、所謂「たまり場」になった。

抗争やら個人的な闘争やら、その最後に行きつく先は、蘆田と千倉(ちくら)の立っている浜辺である。


射撃練習にちょうどいい岩場なんかもあるが、今日、蘆田らが命じられたのは、また死んだ奴がその辺に転がっていないか。

浜辺に捨てられている者も、多かった。


泳いでいるように見えるのは、殻だけではない。

甲羅でもなく、人間の一部だったり、ロボットの一部だったりもする。


「斬られかた、似ていますねえ」


と千倉が言った。


見つけたのは人間の一部。

切断面が似ている、というのだろう。


「どのあたり?」


と蘆田も屈んで見つめた。


見つけたのは、骨とまだ一部繋がっている脚。

片足。指の付き方で左足と分かる。


「十字に斬られている痕。ああ、俺、十文字クラゲとか知っていますよ。カツオノエボシなんかも」


千倉は、銀下組の部屋住みだが、蘆田が知らないことを、よく知っている。

蘆田の知っていることと言ったら、組内にクラゲに刺されて病院送りになった奴がいる、とかそんなくらいだ。

その他、岩場で起きた銃の暴発で、死んだ。など。

百合(ゆり)の花が近場に手向けられていることも、多くなって来た。







「人を殺してはならない」という原則が、ロボットにはある。


そのためか、ロボットが多く社会に進出してきた今、人間側は自衛ということで。

何か対策を練らなければならない、情況になってきた。

銃社会なら、まだいい。しかし、日本はそうではなかった。かつては、そうだった。


今は、「異常な行動をするロボットが万が一、人の死に関わるようなことがあれば。それを破壊出来る権利」というのは出来たために。

この地区、特にアウトローたちは特に。

やりやすい時代になった。


お陰で、銃や刀を使って斬った斬られた、殺った殺られた、が結構増える。

銀下組(ぎんかぐみ)の連中もそれで、数が減ったりしていた。

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ